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2017.05.16

ヤフーで社会人ドクターを目指す「ファースト・ペンギン」──京都大学の博士課程に学ぶ田頭幸浩の場合

コンピューターやインターネット技術など、理系分野の学生の間では大学院修士課程に進学してから企業に就職するというキャリアはけっして珍しくありません。ただ、修士課程修了後の進路については、大学に残り博士課程まで進むか、それともアカデミアの道は諦めて就職するかで迷った経験のある人も多いのではないでしょうか。


そういう経験を持ち、かつ業務経験を通じ、改めてより深い勉強の必要性を考えるようになった社員のために、ヤフーが提供するのが「社会人ドクター進学支援制度」。この制度を利用して、現在京都大学の博士課程に学ぶ田頭(たがみ)幸浩の話をご紹介します。

彼の熱意が、社会人ドクター支援制度導入につながった

ヤフーの機械学習分野の「黒帯」タイトルホルダーの一人として、ディスプレイ広告のクリック率予測モデルの構築など、機械学習技術の実サービス適用に携わるリードサイエンティストの田頭幸浩。

「ユーザーのログデータをHadoopなどの解析基盤で前処理してから、学習器に入れて学習させ、予測モデルを構築し、それを実際の配信システムに反映させるまでの研究開発業務です。その成果は実際のヤフーの広告サービス改善に日々反映されています」

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▲データ&サイエンスソリューション統括本部 サイエンス本部 リードサイエンティスト・機械学習分野「黒帯」 田頭 幸浩

田頭は修士課程を修了した東工大でも機械学習を研究していましたが、博士課程への進学は考えず、2010年ヤフーに新卒入社。研究室時代とは比べものにならないぐらいの膨大な実データを扱うことが多くなったといいます。

「入社してみると、機械学習がビジネスにインパクトを与える現場を経験しました。その一方で、ビジネスの現場ではこういう課題があるんだなということを理解して、あらためて研究を深めたくなった。単に一企業のシステムやサービスの改善にとどまらず、研究の深化を広く研究コミュニティーに還元したいという思いも強くなってきたんです」

子どもの頃の夢は科学者になること。科学者であるからには、博士号は当たり前の称号ですが、それまでは遠い夢だったのだそうです。

ところが、2014年頃、ヤフー社内の研究者たちと共同で執筆した論文が、データマイニングの国際学会 KDD (International Conference on Knowledge Discovery and Data Mining) の論文集に採択されると、博士号という言葉が彼の頭のなかで具体的な像を結び始めたのです。

「論文を書くことで刺激を受けたのでしょう。機会があったら社会人学生として大学に入り直し、ドクターを取ってみたい。そのための時間をどう確保したらいいか、というような相談を受けました」
と振り返るのは、当時直属の上司だった小野真吾。

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▲メディアカンパニー プラットフォーム開発本部 小野 真吾

小野自身は、東大の情報理工学系研究科で博士号を取得してからヤフーに入社しています。

「大学院生時代には、社会人学生として博士号を目指す人が何人かいましたが、業務が忙しくなったために途中で脱落する人も少なくなかった。仕事と研究生活を両立させることは並大抵のことではない。その両立を会社として何らかの方法でサポートできないかと、新しい制度設計の準備を始めました」(小野)

こうして生まれた社会人ドクター支援制度。第1期適用の該当者の一人が田頭。「田頭くんの研究への熱意が、社会人ドクター制度の導入につながったと言えると思います」と小野は振り返ります。

田頭はいわば、制度を利用して未知の領域にチャレンジするファースト・ペンギンの一人なのです。

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博士号取得計画を、日々のタスクに落とし込む

田頭は、2015年10月から京都大学大学院 情報学研究科 知能情報学専攻の博士課程に在学、機械学習の専門家である鹿島久嗣教授の下で博士号取得を目指しています。

通常は東京のオフィスで勤務していますが、2~3カ月に一度は大学に顔を出しています。

「ゼミでの発表があるため、先生や同学の学生たちからコメントをもらえるので刺激になりますね。最初の頃は大学での研究がヤフーの業務にどうつながるのかという質問もけっこう受けました。私としても周りの学生がどんな研究をしているのか、気になります」

水曜日だけは丸一日を研究にあて、自宅でプログラムや論文を書いて過ごす。この研究日の確保が学費の全面補助とともに、制度の眼目なのです。

「最近結婚したんですが、妻も普通のビジネスパーソン。まだ子どもがいないので、水曜日は私一人で自宅にこもり研究をしています。会社の仕事のメールは読もうと思えば読めますが、研究に集中している時間はメールをチェックしないと割り切っているので、頭の切り替えはできていると思います」

土日の休みも研究に専念できる。これも妻の理解があればこそ、と言います。

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ただ、こうしたリズムが最初から出来上がっていたわけではありません。博士課程に進学して半年ほどは、週一の研究日をあえて取らなかったのです。しかし研究成果がアウトプットできていたかというと、そうでもありません。

「ちゃんと1日は仕事を休んで研究して、成果を出せ。仕事が忙しいことを言い訳にしてはいけない」と、アドバイスしたのは小野。

「博士号への熱意は重々感じるけれど、じゃ、具体的にいま何をすればよいのか。そのあたりのツメが甘い。本当にやる気があるのか」と、半期に一度の経過審査で小野は田頭を叱咤激励したといいます。

田頭自身も、「なんとなくこういうことをやりたいとは考えていたが、日々のタスクに落とし込めていなかった。最初の計画に甘さがあった」と認めざるをえなかったと振り返ります。

小野らとの面談を経て、軌道修正。博士論文を書けるだけのデータは集まっていましたが、その前に、研究専門誌や国際学会などに研究成果を発表する必要がある。どんなジャーナルにどれだけ論文を発表したかが、博士号審査では重要なポイントになるからです。

「ただ、この前もとあるジャーナルから論文がリジェクト(掲載拒否)されちゃって。リジェクトが相次ぐとさすがに心が折れそうになりますね。そんなときは頭を切り替え、日々のビジネスに集中します。こうした気分転換ができるのは、むしろ社会人学生の利点かもしれません」

社会人学生を続けるために、仕事のやり方を変えていく

研究日を定期的に取得するとなると、週に4日間で仕事をこなさなければいけない。職場の理解はもちろんだが、彼自身が仕事のやり方を変える必要もあった。

「それまでは自分で手を動かすことが多かったが、今は後輩の社員に任せる範囲が増えました。自分でも時間の使い方がうまくなってきたんじゃないかと思います」

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それは職場としても、むしろいい傾向でした。

「この仕事は彼にしかできないといって、仕事を属人化してしまうのはよくない。水曜日に自分がいなくても、仕事が回るように調整していくことはリードサイエンティストとしても重要な役目。そこに取り組んでくれている」

と、現在直属の上司である野口は評価します。

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▲ データ&サイエンスソリューション統括本部 サイエンス本部 野口 正樹

博士号取得は2018年と目標を定めると、いまはちょうど折り返しのとき。この半年が正念場なのです。

「博士号取得のあかつきには、次の人を引っ張り上げるサポートをしたい」と田頭。「社会人ドクター支援進学制度で博士号を取得した人が出れば、あとに続く人がどんどん出てくるのではないか」と、野口も期待します。

「われわれのビジネスは、アカデミックな研究領域との距離が近い。日々の業務でも専門的な知識が必要で、なかには大学でないと学べないものもあります。一方、ビジネスの変化のスピードは速く、それに追いつくためにも研究しながら課題を発見していくという回路が欠かせない」と、社会人ドクターの意義を小野はあらためて語ります。

ビジネスとアカデミズム。両方に軸足を置きながら、相互に知識を還元していく。これからもヤフーでは、そうした働き方ができる職場を作っていきたいと考えています。

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