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2021.10.27

広告プラットフォーム統合化にどう取り組んだのか?「Yahoo!広告」管理ツール開発プロジェクトの舞台裏

ヤフーでは広告主がより使いやすく、魅力ある広告プロダクトにするためのブランド再構築(リブランド)戦略を数年前から開始。新たな「Yahoo!広告」が誕生しました。 これにともない、これまで別々に構築されていた広告出稿やアカウント管理のシステムを刷新し、1つのプラットフォームに統合するプロジェクトに取り組んできました。 本プロジェクトにおけるビジネス面や技術的な課題をどう乗り越えてきたのか。プロダクトマネージャーとフロントエンドエンジニアの3人に話を聞きました。

(プロフィール)

大橋 恒平
メディア統括本部 広告プロダクション本部
Demand Product部 マネジメント1
2009年に新卒入社。広告の開発、開発リーダーを経て1プラットフォームプロジェクトを機にプロダクトマネジメントを担当、現在も広告プロダクトのマネジメントに従事。
並木 彩乃
メディア統括本部 統合プラットフォーム本部
Client Performance部 フロントエンド1
SIer、フリーランスを経て2016年に中途入社。現在はヤフー広告のフロントエンドを担当。
山本 佑生(ゆうせい)
メディア統括本部 統合プラットフォーム本部
Client Performance部 Product Management
金融・保険系のSIer企業を経て、エンジニアとして2017年に中途入社。現在はヤフーの広告関連事業のプロダクトマネージャーを担当。
干場 未来子
PD統括本部 コーポレートPD本部
マーケティングソリューション事業で営業、エデュケーション、プロダクトマーケティング、マーケティングチームなどを経て、2016年に人事へ異動し、採用ブランディングを担当。

広告プラットフォームを1つに統合した背景と技術的課題は?

広告事業では「1プラットフォームプロジェクト」と呼ばれる大規模システム改修が行われました。なぜ1つのプラットフォームに集約する必要があったのですか。

従来のYahoo!広告は、「Yahoo!プレミアム広告(予約型)」と、「Yahoo!プロモーション広告(リスティング広告)」、さらに後者は「Yahoo!ディスプレイアドネットワーク(運用型)=略称YDN」 と「スポンサードサーチ(検索連動型)」の2つに分かれていました。


▲ディスプレイ広告・サービスを統合し、「Yahoo!広告」にリニューアル

ヤフーではこれらの広告システムを数年前から「Yahoo!広告」という新名称のもとに、統合しようという動きがありました。そのためには、これまで別々に開発されていたプラットフォームを統合する必要があります。

これまでの広告管理ツールは、「予約型」と「運用型」とでそれぞれ別のプラットフォームで開発・運用が行われていました。これを1つのプラットフォームとして統合したほうが、広告主や広告代理店などのお客様はもちろん、社内のシステム運用においても機能開発や保守コストの多重化を避ける面で好都合だからです。

もう一つ、技術的な課題もありました。システムのなかでも予約型の「Yahoo!プレミアム広告」はすでに10年以上前から稼働しており、古くて使いにくいという声が以前からあった。 Yahoo!広告のリブランド化に合わせ、古い予約型を新しい運用型「YDN」のシステムに寄せる統合も必要だったのです。ひと言でいえば、技術のモダン化ですね。

▲メディア統括本部 広告プロダクション本部 Demand Product部 マネジメント1 大橋 恒平

広告事業や全社的なシステム改修と連動させる必要もありますが、新しいスタンダード技術を使って、スピーディーに開発できるようにしましょうと。 ただ単に予約型を運用型に載せ替えるだけではなく、両方のシステムをアップデートしながらプラットフォームの統合も同時に進めなくてはいけない。 その点でも、かなり難しい作業だったと思います。

時系列的にまとめると、運用型と予約型のプラットフォーム統合は2018年中頃にプロジェクトが始まり、2021年4月に完了しました。 従来の「Yahoo!プレミアム広告」は同年3月末にサービス提供を終了し、「ディスプレイ広告(予約型)へ名称を変更。 「YDN」も6月にサービス提供を終了して「ディスプレイ広告(運用型)」とし、 「スポンサードサーチ」も「検索広告」に名称変更しています。

指示はトップダウンだが、サービス開発は現場ファースト

1プラットフォーム化のプロジェクトは経営層からの判断だったのでしょうか。

Zホールディングスの現グループCDO(チーフデータオフィサー)の佐々木(潔)さんがヤフーの開発責任者だった2018年中頃に「1プラットフォームにすべし」と、大号令をかけたことがきっかけでした。 それに対し、本部長や各部署の部長に加え、私たち現場のPM(プロダクトマネージャー)たちも、どういうかたちでプラットフォーム統合をすべきか、それぞれの意見を述べる機会がありました。

大筋はもちろん決まっていたのですが、詳細をどう詰めるかについては、私も考えて、メンバーの意見も聞いて集約しながらプロジェクトを進めていきました。

私はAPI開発を担当したのですが、担当領域の細かい要件については、かなりの部分を現場で決めていいといわれました。 サービス設計やシステム開発で、現場の意見を重視する、「現場ファースト」はヤフーの風土ですが、今回のプロジェクトでもしっかり貫かれたという印象がありますね。

プロジェクトが始まった時は、私はまだヤフーに中途入社したばかり。PMでもなく、一人のエンジニアとして開発チームに参加したのですが、 これに参加できれば面白いことができそうだと、ワクワクしました。


▲メディア統括本部 統合プラットフォーム本部 Client Performance部 Product Management 山本 佑生

単なる機能開発に終わらせない。社内外のステークホルダーとも協業

みなさんが今回のプロジェクトでどのような役割を担ったのかを聞かせてください。

私の担当は、「Yahoo!プレミアム広告(予約型)」の後継機能を実装し、それを新しいプラットフォームに統合したうえで、  「ディスプレイ広告(予約型)」としてリスタートするまでのプロダクトマネジメントです。
 
後継機能を作り込むこと、それらを1つのプラットフォームに統合することは決まっていたのですが、やはり細かいところは営業現場にヒアリングする必要がありました。 システムに何が足りないのか、何が不要なのかを判断して、それらを開発要件として落とし込むのがPMとしての役割です。予約型の改修は結構大きい案件だったので、ほかにも複数のPMにサポートしてもらいながら、なんとかリリースまでこぎつけました。

私は「Yahoo!プロモーション広告API(現在は「Yahoo!広告API」)」の統合に向けたリニューアルを担当しました。広告出稿量が少ない場合は、 スポンサー自身が広告配信を手動で設定できますが、出稿量が膨大になると作業しきれません。ヤフーが提供するAPIを組み込んでもらい、自動的に処理できるようにしないといけないんですね。

そこで、このAPIも1プラットフォームに統合することになりました。まずはどういうかたちで統合すればより使いやすくなるかを、社内の広告担当や営業担当、社外の広告代理店、ベンダーの担当者に話を聞きました。

例えば、これまでのAPIは「SOAP」というウェブサービスアクセスプロトコルを使っていたのですが、SOAPは開発するのが難しく、制約もあるという話を聞きました。そこで、より簡単にアクセスでき、 開発しやすい「REST」にプロトコルを変更したのですが、これも今回のAPIリニューアルでは重要なポイントです。

▲メディア統括本部 統合プラットフォーム本部 Client Performance部 フロントエンド1 並木 彩乃

代理店やツールベンダーとのコミュニケーションはどのように進めたのですか。

デベロッパーのみなさんには常時、セミナーや勉強会などを通して、ヤフーの技術を伝えるようにしていますが、今回のAPIリニューアルにあたっては、ワークショップを2回開催しました。私も専門的な内容の質問には答えていました。

また、SOAPからRESTへの変更も含めて、新しいAPIへの移行がスムーズに進むように、リニューアル内容を早めにアナウンスして、移行期間を1年ほど設けるようにしました。

プラットフォームの統合は社内だけでなく、広告主や代理店、ツールベンダーのみなさんにも影響を及ぼすものですから、その調整が大変ですよね。

▲PD統括本部 コーポレートPD本部 干場 未来子

広告運用にあたっての約款や契約条件の変更も伴うので、社内外のステークホルダーとの調整は不可欠です。

ステークホルダーとの調整の難しさは、私も実感しました。私の部署は、広告代理店や広告主の「Yahoo!広告」運用を効率化することがミッションです。 お客様ごとにアカウントがあり、広告内容や出稿タイミング、広告効果の計測などを管理できるようになっているのですが、 今回のプロジェクトでは、新たに「MCC(マイクライアントセンター)アカウント」というシステムを実装することになりました。

MCCアカウントとは、検索広告およびディスプレイ広告において複数のアカウントを束ねるための最上位エンティティです。 エンティティはアカウントデータを1つのかたまりとする概念ですが、これを設定することで、アカウント運用の効率化や権限管理のシンプル化が期待できます。 MCCを含めたアカウント管理の効率化をマネジメントすることが、私の役割でした。

メンバーの考え方の違いをどう集約するか、PMのジレンマがあった

ほかにも何か苦労したことはありますか?

今回のAPI刷新で一番つらかったのは、やはり時間が限られていたことですね。なんとか半年間でやりきったのですが、 競合よりも早くローンチしなければならないという思いが、チームにも私自身にもありました

幸い、部長の承認を得られれば、自分のやりたいように意思決定できる環境でしたので、動きやすかったですね。 広告代理店等との契約更新作業についても、テクニカルビジネスデベロップメントのチームが担ってくれたので、私は開発とチームのマネジメントに集中できました。 短期集中できたのも、ビジネス側と開発側がうまく協業しながら進められたからだと思っています。

予約型の統合というミッションに対して、当然、チームメンバーそれぞれの考えがありましたが、それをどう解決するかが、PMとして一番苦労した点ですね。

複数の選択肢がある場合、ある人の案を採用すれば、別のメンバーの案は不採択になる。仕方のないことなのですが、これを一歩一歩詰めていくのは大変な作業です。 幸い、「プラットフォーム統合は絶対にやりきる」という大号令はかかっているので、その点に関してはチーム全員の意思統一はできている

つまり「そもそもこれって、やる意味あるんだっけ」みたいな話ではなく、「やる意味はもちろん大いにあるが、その実現に向けてどうすればよいか」という観点で議論できたので、その点はやりやすかったと思います。

「どちらの意見もわかるけど、ここはどっちかを取らなきゃいけない」といった、PMとしてのジレンマがあるのですね。

PMがそう判断した根拠や基準が明確である必要があるし、それらをメンバーにしっかり伝えなければならない。 また、新しいプラットフォームができた後に、どこか技術的につまずくことはないかという予測もできないといけません。 その意味では、このプロジェクトを通して、そうしたPMとしてのスキルを磨くことができたのは、貴重な体験だったと思います。

このプロジェクトがなかったら、いまの自分は存在しない

あらためて、今回のプロジェクトで、自分は何を得たのか。自分が成長できたと思うところを教えてください。

このプロジェクトがなかったら、「いまの自分はない」とはっきり言い切れます(笑)。 プロジェクトが動き出すタイミングに自分で手を挙げてPMを任されたのですが、やってみたら予想以上の大規模プロジェクトで、PMのイロハを勉強する間もなく、 突き進んでいったという感じでした。

この経験から、社外ステークホルダーとの関わりや、社内の関係部署との調整など、プロジェクトのマネジメントについて学ぶことができました。 その過程で、ヤフーのPMはこうあるべきだというイメージが、おぼろげながらも見えるようになった。まさに、自分を成長させてくれたプロジェクトです

実は、転職してから最初に担当していたのはコンシューマー向けサービスだったので、ヤフーではB to B向けシステム開発は経験がなく、インターネット広告の仕組みさえよく知らなかった。 「検索広告やディスプレイ広告とは何か」というところから勉強を始め、業務の全体像を理解するのに3カ月ぐらいはかかりました。

「作って終わり」ではなく、快適に使ってもらえるようにするまでが仕事

大橋さんと並木さんが、プロジェクトを通して得られたものを教えてください。

「Yahoo!広告」はかなり大規模なプラットフォームなので、機能開発となると、限定された領域を担当するのが普通だと思います。 ところが今回のプロジェクトでは、1から10まですべてマネジメントすることが多かった。

広告主が広告を出稿したいと考えるタイミングから、代理店が広告をどう設定して、どういうかたちで掲載されるのか、 それがどうヤフーの収益になるのかなど、全部のプロセスを見ながら機能を開発していく経験は、なかなかできないことだと思いました。

プロジェクトに関わった人数が100人以上という規模もなかなかないこと。これから先もあるかどうかわからないけど、自分としてはかなりレアな経験ができました。

この経験は次のプロジェクトにも絶対に生かせるものです。たとえ開発内容がきっちり決まっていたとしても、想定外の領域に影響が出ることもありうる。 今回、プラットフォーム全体を俯瞰してみることができたので、そこは気づきやすくなったと思います。

私はPMであると同時にエンジニアでもあるので、これまでは自分の技術力を高めることや、より効率的な開発をすることを重視していました。 今回のAPIリニューアルプロジェクトでは、開発以外の面白さもあることに気づかされましたね。

例えば、ビジネス側の意見をヒアリングする機会や、APIの利用者であるベンダーの方たちとの議論を経験できた。 システムは作って終わりではなく、提供して快適に利用してもらえるようにするまでが、本当に大事なことなんだと強く実感しました。

事業収益を左右する緊張感とやりがいを感じることができた

今回のプロジェクトに限らず、日々の仕事を通して、ヤフーの広告事業に関わることの面白さ、楽しさはどこにあると考えていますか。

やはり、自分が手掛けるプロダクトが生み出す売り上げインパクトが大きいことですね。 これまでも何千億円規模の売上があったわけですが、そのプラットフォームをリニューアルすることで、さらに売り上げを積み増していけるようにならなければいけない。 そうしたミッションに対して、自分が開発したシステムによって直接的に貢献できるわけです。

また、自分たちが作ったものを、ユーザーに積極的に使っていただき、広告費という収益が得られる。システムが使いにくければ、瞬時に影響があらわれます。 それを日々実感できるのは、とても面白いし、技術者のやりがいにもつながると思います。

もちろん、プラットフォームを統合することによる収益増大効果は、すぐには見えてこないものです。コストばかりかかるようなら開発に向けた投資も抑えられるかもしれない。 しかし、そこは上層部がきちんと投資リスクを判断してくれたからこそ、現場は自由に、堂々とチャレンジできましたね。

インターネット広告はまだまだ伸び盛りの市場です。技術開発も急速なスピードで進んでいるし、そこには新たな技術が投入されています。エンジニアとしても面白みを感じる領域だと思いますね。

しかも、Yahoo!広告はインターネット広告においてトップクラスの位置にいる。これからは海外企業も競合と見据えてサービスを発展させていくことになりますが、とても勉強になるし、ワクワクします

日々膨大なリクエストをさばいて、それをマルチビッグデータとして蓄積している企業はそうはないですからね。だからこそシステム開発も大規模にならざるを得ない。技術者としてはとても魅力的なんじゃないでしょうか。

より質の高い広告プラットフォーム構築のために

データサイエンスやアドテク分野においても、AIを活用した広告配信ロジックの改善など、日々技術革新は進んでいます。そこまで視野を広げると、さらにこの領域は面白くなりますね。

一般コンシューマーの視点で考えると、ネットニュースに広告がちらちら表示されることを不快に感じる人もいると思います。 ただ、視点を変えると、広告はお店と消費者をつなげるものでもある。商品を買う消費者がいなければ、ビジネスは続かないし、いい商品を作る会社がなければ、僕らの消費生活も楽しくならない。

つまり、プラットフォームには、そういったビジネスとコンシューマーを最適な方法でつなげる役割があるんですね。 だからこそ、僕らは技術やマネジメント力を注いで、より使いやすく、質の高い広告プラットフォームを作っていく。そう考えると、いまの自分の仕事はさらに面白いと思えるし、重要な役割を担っているんだなと実感できます。

もちろん、まだまだ改善すべきことはあります。だから、もしこれからヤフーで広告事業に関わりたいと考えている方には、面接でもどんどんYahoo!広告のダメなところを指摘してほしい。それで落とされることなんてありませんから(笑)。 ぜひ、「ヤフーに入ったらここを変えたい」という意志を持った人に、入社してほしいですね。

広告プラットフォームが進化することで、企業の商品開発や、消費者に提供するサービスの質もよりリッチになっていく。そんな世界を、これからお迎えする方と一緒に作り出せればすてきですね。本日はどうもありがとうございました!

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