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2022.06.09

ヤフーの新旧CTOが語り合う——社内受発注からの脱却とエンジニアの成長につながったクリエイターマインドとは

2022年4月、これまで6年半にわたってヤフーのCTOを務めてきた藤門千明に代わり、小久保雅彦が新たにCTOに就任しました。これまで、ともにヤフーの技術基盤や文化を創ってきた二人に、あらためてヤフーがエンジニアに提供できる価値や魅力、そして新CTO就任の裏側について語ってもらいました。

プロフィール

藤門のプロフィール画像
Zホールディングス株式会社 専務執行役員
Co-GCTO(Co-Group Chief Technology Officer) AI CPO 藤門 千明
2005年に筑波大学大学院を卒業後、ヤフー株式会社に新卒入社。
エンジニアとして「Yahoo! JAPAN ID」や「Yahoo!ショッピング」「ヤフオク!」の決済システム構築などに携わる。決済金融部門のテクニカルディレクターや「Yahoo! JAPAN」を支えるプラットフォームの責任者を経て、2015年にヤフー株式会社CTOに就任。
2019年10月にZホールディングス株式会社 常務執行役員 CTO、ヤフー株式会社 取締役 常務執行役員CTOに就任。2022年4月より現職。
小久保のプロフィール画像
ヤフー株式会社 取締役 常務執行役員
CTO(最高技術責任者) 小久保 雅彦
千葉工業大学情報工学科卒業後、銀行ネットワークの開発やインターネットプロバイダーでの認証・課金の開発・運用等の経験を経て、2004年にヤフー入社。ポイント事業の立ち上げや公金決済サービスの立ち上げ、ウォレット事業、カード事業などに従事したのち、2013年よりセントラルサービスカンパニー開発本部長*、2018年よりコマースカンパニーCTO。2021年執行役員に就任し、2022年4月より現職。(*当時の組織名)

藤門改革のベースにあった「社内受発注関係」からの脱却とは

──藤門さんは、ヤフーの基盤を支える技術の大幅なモダン化、いわゆる脱レガシーを推進してきました。また、エンジニアの基本マインド制定、M&Aでの事業拡大に伴う技術的なデューデリジェンスなど、グループ内のシナジー効果を発揮すべく、いろいろと奮闘されてきた6年半だったと思います。こうした改革において意識していたことについて、あらためて聞かせてください。

藤門の顔画像

サービス事業を企画するビジネスサイドが「こういうことをやりたい」と、仕様書を書いて、エンジニアに開発を依頼する。依頼を受けたエンジニアは、仕様書通りにシステムを作り上げて納品する。こうした受発注の関係は、事業会社とSIerの間にもあるし、IT企業の社内でもよく見受けられる。日本のIT産業全体では一般的な構造だと思います。
お願いしたものがその通りにでき上がってくるのは、それだけエンジニアに技術力があるからですが、あくまでも企画を主導するのはビジネスサイド。ビジネス側が上流にいて、その指示を受けて下流工程でエンジニアが開発する。この受発注の関係はいわば当たり前だったのです。
ところが、2012年に社長に就任した宮坂学さん(現東京都副都知事)が「プロダクション改革」を社内で推進し、ビジネスサイドとエンジニアサイドが受発注の関係ではなく、ともにサービス作りをしようという提言が行われるようになったのです。つまり、サービスの企画設計の段階からエンジニアも参加し、一緒に考えようということですね。
しかし、エンジニアは受け身で仕事を進める。長年の習慣から抜け出すのはなかなか難しかったんですね。私は、それを何とか変えていきたいと思いました。むしろ、エンジニアから企画を提案して推進する、エンジニアが中心になって動かすプロジェクトがあってもいいんじゃないかと。
エンジニアがプロジェクトの方向性や技術選択の決定権を握り、その結果に対する責任も持つ。そのようなプロジェクトが成功したら、何かが変わるんじゃないかと考えたわけです。
エンジニアであろうが、ビジネスサイドであろうが、やるべきときに自らが声を上げて実現できる人財を育てたい。そうした人財育成の狙いもありました。

藤門さんのトーク中画像
▲Zホールディングス株式会社 専務執行役員 Co-GCTO(Co-Group Chief Technology Officer) AI CPO 藤門 千明

サービスはリリースして終わりではなく、そこからが始まり

藤門の顔画像

社長が川邊健太郎に代わってからは、こうしたエンジニアの自主性や積極性はより重視されるようになりました。ヤフーにも目標管理制度(MBO)がありますが、エンジニアにも事業目標に対する責任をしっかり持つことが求められるようになってきました。
エンジニアの場合、これまでは予定日までに開発を完了し、サービスをリリースすれば目標達成でしたが、それからは担当するサービスのKPIが目標となった。エンジニアもビジネスに関与する責任が生まれましたが、同時にやりがいも増えたのではないかと思っています。

小久保の顔画像

サービスはリリースして終わりではなく、世に出してからが始まりですからね。実はエンジニアにも定量的に目標を設定してほしいという声は以前からありました。エンジニアのKPIを定量的に設定するのは難しい面もあり、かつてはサービスリリースや機能追加などが目標とされていました。いまはサービスがもたらす収益を数字目標とする、新たなチャレンジが求められるようになりました。
それを繰り返していくうちに、エンジニアもこうやったほうが数字を上げられるんじゃないかと考えるようになってきました。さまざまなKPIの重要性や、それを引き上げるためにどうすればいいのかも見えるようになった。宮坂、川邊、そして藤門CTO体制を通して、KPIツリーが精緻化されてきたこともあり、エンジニアのKPIに対する意識もより高まってきたと思います。
ヤフーがユーザーに提供するサービスの価値をKPIで設定し、エンジニアもその数字に貢献することでより深い達成感を得られるようになった。エンジニアの意識改革において、藤門さんの果たした役割はとても大きかったと思います。

小久保さんのトーク中画像
▲ヤフー株式会社 取締役 常務執行役員 CTO(最高技術責任者) 小久保 雅彦

成長を願うエンジニアの「クリエイターマインド」に込めたもの

──「クリエイターマインド」は、エンジニアの自主性を高めてほしいという思いから制定したのでしょうか。

藤門の顔画像

私がCTO就任時の話に戻りますが、「社内受発注関係」からの脱却を呼びかけたものの、実はあまり自信がなかった。だからこそ、自分自身が変わらなければならない。そうでなければ、誰もついてきてくれないでしょう。
新しい技術の選択は将来も形に残るものですが、同時に、エンジニアのマインド変化も大切。むしろマインドチェンジこそがベースにあるべきだと考えました。私自身がそれを強く宣言しなければ、空気は変わらないと思ったんです。
以前は、プロダクトを作った事業が伸びても伸びなくても、エンジニアに責任を問われることはなかった。例えば、障害が頻繁に発生して、それが原因でサービスが伸びなかったとしたら、それはエンジニアの責任と思わざるを得ない。でも真っ向から責任を問われることは少なかったし、エンジニアもその問題をスルーしてしまいがちだった。なぜなら、エンジニアがビジネスを「自分ごと」として捉え切れていないからなんです。
事業環境や他者任せにせず、自分ならどうするかを常に考える。決められたことだけをやるのではなく、自ら提案して推進できる。つまり、「全ての結果を自分ごとにする」ということがないと、強いプロダクトもサービスも作れない。だから、この「自分ごとにする」というテーマを、クリエイターマインドの最初に「全ての結果を自分ごとにする」に置きました。

藤門さんのトーク中画像

次期CTOに選んだ理由は、数々の失敗体験と度量の広さ

──失敗したら責任を問われる真剣勝負だからこそ、成功すればリスペクトされ、評価される。それがクリエイターマインドの狙いですね。小久保さんも、ご自身のマインドに変化はありましたか。

小久保の顔画像

コマースCTO時代以降、技術的な問題が発生した場合に、経営層に直接報告する場面が増えました。その都度、経営層の視座や観点を目の当たりにして、自分の至らなさが身に浸みることも。そこまで考えなくてはいけないことが理解できるようになりました。
私ほど社長にお叱りを受けた経験を持つCTOや役員は、いないと思うんですよね。役員専用Slackでは、年間通じて一番怒られていました。ほかの役員にいつも慰められるくらい(笑)。 “失敗ケーススタディ”のモデルにされてしまうこともありました。

藤門の顔画像

私もCTOを務めた6年半でたくさん失敗をして、そのたびに社長から怒られましたけど、小久保さんには負けます(笑)。ただ、小久保さんは失敗を重ねてきたことで、エンジニアとして、さらにマネージャー、経営陣の一人として、つまり人間としての厚みが増している。
「100億円あげちゃうキャンペーン」や「超PayPay祭」の際、急激にトラフィックが伸びたことからシステム障害が起きてしまったときも、社長から怒られました。けれど、小久保さんはそうした苦難を乗り越えてきている。
現在のPayPayは、当時のトラフィックよりはるかに大きなトラフィックがかかっていますが、それを難なくさばくことができている。経営課題に直結するきわめて重大な事象にぶち当たった経験と、それを乗り越えてきた力が小久保さんにはあります。
もちろん失敗はいいことではない、特に社外へ影響及ぼしてしまうものについてはあってはならないことですが、失敗するということはそれだけチャレンジした経験でもある。失敗をしてはじめて、その失敗がどこに影響するか見えてくることもあるし、失敗経験が社内の人脈を広げる場合もある。
そういう得がたい経験を小久保さんは重ねてきた。そこでの教訓が次のCTOとして大いに発揮してもらえるだろうと期待したことが、CTOに小久保さんを推奨した一番の理由です。

藤門さんと小久保さんのトーク中画像

PayPay事業の成功体験がヤフーのエンジニアマインドを変えた

──PayPay事業はスタート時のトラブルを乗り越えて、急成長を遂げています。このPayPayの成功体験は、ヤフーにおけるエンジニアの仕事にも大きな影響を与えたのではないでしょうか。

小久保の顔画像

PayPay事業を立ち上げるとき、川邊さんからヤフーと同じ会社をもう一つ作るつもりで取り組んでくれと言われました。ただ、そのための人財をどこから集めるのかが難題でした。
ヤフーのサービスに関わる全ての決済をPayPayに置き換えていく構想がその頃からあったので、コマース領域で決済に関わる主要メンバーをPayPay事業に移しました。ヤフーの各部門からも人を出してもらいました。エンジニアだけではなく、スタッフ部門もかなりの社員がPayPayに異動しています。
もちろん、従来からのコマース事業も滞りなく開発・保守を続けなくてはならない。残されたメンバーで何とか切り盛りして、守り切る。これがもう一つの修羅場でした。

小久保さんのトーク中画像
藤門の顔画像

私や小久保さんも含めて、PayPay事業のマネジメントを担当する人たちが集まって、タスク表にバイネームでアサインしましたね。1週間でタスクが完了したら、次のタスクが1週間期限で迫ってくる。ものすごいスピードでした。他領域のCTOにも助けてもらいました。

小久保の顔画像

PayPayの立ち上げに関わる人、従来事業の部署に残った人、双方のモチベーションをいかに維持するかは苦労したところです。ここでCTOが誤ったメッセージを発してしまうと残念なことになってしまう。

藤門の顔画像

PayPayは次のヤフーの成長を支える重要な柱なので全力を尽くしていましたが、PayPay以外のいずれのサービスも当然おろそかにすることはできない。社内ではサービスの進捗状況と改善点を明確にして、課題解決に向き合っていました。
新規事業のPayPayが成功すれば、エンジニアもデザイナーも全員が報われる。だからこそ、PayPayは何としてでも成功させたかった。自分たちが大きなサービスを作り上げたことが絶対的な自信になり、PayPayのエコシステムが他の事業にも広がっていく。ヤフーのサービスが大きくするために頑張ろうと、全員のモチベーションを高めていったんですね。

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