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2020.12.18

ヤフーの黒帯制度とは?──第9代黒帯が語る「技術専門家として歩むキャリア」

ヤフーでは2012年より、エンジニアとデザイナーの才能と情熱を解き放つため、「ある分野に突出した知識とスキルを持っているその分野の第一人者」に新たな活躍の場を提供する施策として「黒帯制度」を導入しています。

黒帯の任期は1年間で、現在の黒帯は9代目。全社員のわずか1%で、まさにスペシャリストといえます。ですがこれまで、黒帯が「どんなキャリアを歩んできたのか」を語られる場は多くありませんでした。そこで今回は黒帯によるLT会を開催。4人の黒帯に「技術専門家として歩むキャリア」をテーマに語ってもらいました。

【1】認証技術黒帯のストーリーとアドバイス

──認証技術黒帯/倉林雅

最初に登場したのは、認証技術黒帯の倉林雅(まさる)。倉林はOpenIDファンデーション・ジャパンの理事、エバンジェリストとしても活動しています。

認証技術/倉林 雅
ID・セキュリティユニット / CISO室所属。OpenIDファウンデーション・ジャパン 理事 / エバンジェリスト
2011年新卒入社。黒帯、エバンジェリストとして社内外においてOpenID・OAuth技術の普及、啓発活動を行う。Yahoo! JAPAN IDのセキュリティ対策やUX改善のプロジェクトを担当。

π型人材を目指していたら、黒帯になっていた

倉林が目指しているのは「π型人材」。人材のタイプは「一(イチ)型人材」「I(アイ)型人材」「T型人材」「π型人材」などに分けられると言われています。

一型人材はゼネラリスト。あらゆる分野に広く浅く精通している人材。I型人材はスペシャリスト。ある分野に深く精通している人材。T型人材は一型、I型の両方を兼ね備えている人材。そして倉林が目指すπ型人材とはT型に加えてもう一つ精通している分野を持つ人材です。

とはいえ最初からπ型人材を目指していたわけではなく、学生時代に「スペシャリスト志向」から、就活を経て「ゼネラリストになりたい」という思いに変わったと言います。入社当時は「認証技術どころかウェブアプリケーションの知識もなく、プログラミング技術は少しだけあるという程度だった」そう。

「配属されたIDの部門には興味が湧かなかったため、まずは広く浅くいろいろなことを経験して一型人材になり、ID以外の分野で、当時求められると言われていたT型人材を目指そうと考えていました」(倉林さん)

しかし、当時の部長の「配属は希望通りではないかもしれないが、まずはとことん好きになれ」という言葉から、当時のリーダーの勧めもあり、半ば強制的に好きになろうと、OAuthやOpenID技術やID管理に精通している人が集まるIdentity Conference(idcon)に参加してみたという。

そこで受けた印象は、「やはりIDはかっこいい」ということ。一方で、話のなかで理解できなかった部分も多かったため、認証・認可技術を学びたいと思うように。業務がさらに好きになり、勉強会の運営や活動にも参加しました。

コミュニティーで顔を覚えてもらったことで、勉強会で発表の機会を与えられ、それに応えているうちに、OpenID ファウンデーション・ジャパンよりエバンジェリストのオファーが舞い込んだそう。

その活動を続けた結果、ヤフーの黒帯制度に推薦され、2015年に任命。また社内外の活動を続けていたことで、CISO室SD室長よりセキュリティ領域の誘いを受け、2017年にCISO-Board就任。現在は日本のID連携業界、ヤフーのセキュリティを担うπ型人材としてはもちろん、さらに企画職を兼務。Yahoo! JAPAN IDのセキュリティ対策やUX改善を行うプロジェクトでプロジェクトマネジメントをしながら企画スキルを磨いているとのことです。

人材のタイプは先の4種類のほかにも、H型人材(T型人材でほかのT型人材とのつながりを持っている)、△型人材(3つの専門領域に精通している)、J型人材(T型人材でほかの一流の専門家とのつながりを持っている)などがあります。「どんなキャリアを歩むか、人材タイプから考えてみては」と倉林。いずれのタイプを目指すにも、以下の4点が重要になるとアドバイスをして、LTを終えました。

1. 好きになろうとすること
2. 目標にできる人、切磋できる人を見つけること
3. 依頼を断らないこと(そうすることで良い仕事や役割が回ってくる)
4. 領域を広げること

LTの後には質疑応答が行われました。「壁にぶち当たったとき、どう乗り越えてきたのですか」という質問には、「周りに共感してくれる先輩や、同僚と一緒に悩みを共有して進んでいくことで、乗り越えてきました」と回答。また最後に「いまの業務を楽しくないと思っている人もいるかもしれませんが、まずは好きになる努力をしてみることから始めてほしい」とアドバイスを送りました。

【2】アクセシビリティとともに生きる

──アクセシビリティ黒帯/中野 信

次に登壇したのは、アクセシビリティ黒帯の中野信(まこと)。社外ではウェブアクセシビリティ基盤委員会(作業部会1)に参加し、副査を務めています。

アクセシビリティ/中野 信
COO事業推進室 サービス統括部 プロダクト品質推進室 UIガイドライン所属。
ウェブアクセシビリティ基盤委員会(WAIC)作業部会1(理解と普及)副査

黒帯として、社会のアクセシビリティを上げていきたい

なぜ、アクセシビリティの活動に関わるようになったのか。中野は「気づいたらそうなっていた」と言います。ターニングポイントは3つ。まずはアクセシビリティのJIS規格に準拠するウェブサイトの作成に携わったこと。これは2006年にヤフーに転職する前のことで、当時中野は大手開発会社に所属。この案件に携わったことで、ガイドラインに準拠することを意識するようになったそうです。

また前職ではコーポレートサイト(製品ページ)のメンテナンスも担当。サイト独自のアクセシビリティチェックツールで100点を出さないとリリースできなかったのです。これらの業務を通じて「チェックツールの有用性と運用方法、さらにガイドラインを用いた大規模サイトの運用方法を知った」と言います。

ヤフーに転職し、ユーザーの多さに驚いた一方で、アクセシビリティにはまだ伸びしろがあることに気づき、「前職のスキルが使えるかも」と思ったのです。そこでUI実装ガイドラインでヤフーのコーポレートサイトをリニューアルする際にアクセシビリティのガイドラインを作成。社内外に基準を示すことができたのです。

仕事でたまたま出合って会得した技術ですが、タイミング、運、少しのモチベーションがうまくマッチ。それが黒帯という道を開いてくれたと振り返ります。

中野は黒帯の活動について、見返りを求めることなく専門技術・知識を常にキャッチアップし、それをどうサービス、会社、社会に還元するかを考えて実行できることが重要だと言います。そのため黒帯の振る舞いは修行僧に近い感覚を持っているのだとか。

現在、社内にはアクセシビリティの専門組織がないため、大規模な啓発活動やセミナーの開催は社内の有志(アクセシビリティ推進WG)と協力し、黒帯予算を一部利用してセミナー運営や活動を行っているとのこと。「一緒に活動してくれる方を募集中」と最後に呼びかけ、LTを締めました。

質疑応答では「次のキャリアをどう考えているのか」という問いに、「いまアクセシビリティは実現できているプロダクトは少ないので、それを保ち続けられる仕組みを作っていきたい」と回答。

また「黒帯を目指していくにあたり、新卒1年目にやっておけばいいこと」という質問には、「自分の好き嫌いにかかわらず、まずはやってみること」と先の倉林と同様のアドバイスを送りました。

【3】「好きなこと」で生き残っていく

──Webフロントエンド黒帯/伊藤 康太

3番目に登壇したのは、Webフロントエンド黒帯の伊藤康太。伊藤は2013年に新卒でヤフーに入社。現在、MYMやSlackなどの運用や社内システムの開発、運用を担当。またNode.js言語サポートチームで、サーバサイドTypeScriptの活用や、パフォーマンスチューニングを支援しています。

Webフロントエンド/伊藤 康太
情報システム本部 Webフロント技術室 Node.js言語サポートチーム所属。
2013年新卒入社。MYMやSlackなどの運用や社内システムの開発、運用担当。Node.js言語サポートチームで、サーバサイドTypeScriptの活用や、パフォーマンスチューニングを支援。

「依存しない」「かけ算」「定期的な負荷」でレアリティを上げよう

伊藤のLTは技術専門家として歩くキャリアについて。伊藤はキャリアを、「どうやって好きなことをやりながら生き残っていくか」をテーマとし、そのためには「レアリティを上げること」が重要と言い切ります。

レアリティを上げるためのキャリアの戦略として伊藤は「依存しない」「かけ算」「定期的な負荷」の3つを挙げました。

第一の「依存しない」とは、「技術にも組織にも過度に依存しないこと」。3年先の技術を完全に見通すのは不可能なので、いまの技術にしがみついていくのはリスクになる。また、依存しすぎてしまうと愛着が湧き、判断がぶれてしまうことにもなりかねません。

第二のかけ算とは、手札を組み合わせていくこと。「領域を絞ると、自分よりもできる人はたくさんいる」と、伊藤。だからこそ、レアになるには掛け算が必要になると言うのです。当初、情報システム本部への配属は技術者として不利だと思っていたが、フロントエンドもバックエンドも両方触ることができ、また人数が少ないため任される範囲も広いことがわかりました。

そこで自身が気になっていたNode.jsなどの技術をどんどん導入し、Tech blogで発信。情報システム本部では誰も発信していなかったので、当時の部署やチームでレアな人財になることができたと言います。また領域においても、フロントエンドも好きだが、バックエンドも好きという自身の興味の幅広さを生かし、SSRやBFFに関する知識を身につけることにしたのです。社内でもこの分野に携わっている人が少ないため、レアな人財になれるかもしれないと考えたのです。

第三の「定期的な負荷」とは、週に1度は仕事以外のコードを書いたり、全く知らない領域の実装をしたり、負荷の高そうな仕事を選んだり(優秀な人と仕事をしたり)すること。「好きなことを掛け合わせてレアリティを上げること」だとアドバイスし、LTは終了。

「できる先輩から仕事をもらったという具体的なエピソードがあれば教えてください」という質問には、「同じ部署の先輩に、『そこはどういう仕組みなのか』と突っ込んだ質問をしたり、プルリクエストを見てやりたいものを見つけ『コードを書かせてください』と直接、お願いしたりしました。それがキャリアを変えるきっかけになった」と回答。

また「記事を書いて発信したりすることが苦手で、どうすればいいか」という質問に対しては、「私は書けば何かを生み出せるかもしれないという感じで始めました。私が記事を書いたところで誰も読まないだろうなという軽い気持ちで始めたので(笑)、同じようにまずはやってみるということが大切だと思います」とアドバイスしました。

【4】「そうでない人」向けの精神論

──自然言語処理黒帯/小林 隼人

最後に登壇したのは、自然言語処理黒帯の小林隼人(Yahoo! JAPAN研究所)。実績としては、37本の論文発表のほか、日本最大級の機械学習コミュニティにおける論文賞「IBISML研究会賞」をはじめ、20もの賞を受賞しています。

自然言語処理/小林 隼人
Yahoo! JAPAN研究所 所属。
2010年東北大学大学院情報科学研究科博士後期課程修了。同年より2013年まで株式会社東芝研究開発センター勤務。2013年よりヤフー株式会社Yahoo! JAPAN研究所勤務、2017年より理化学研究所AIPセンター勤務(部分出向・客員研究員)、現在に至る。専門は自然言語処理・機械学習。博士(情報科学)。

努力し続けること、チャレンジすることを前提に

論文発表はもちろん、トップ会議(ACL、NeurIPSなど)における優れた査読者に選出されるなど、現在では国内外の学術コミュニティーで活発に活動している小林ですが、本人は「紆余曲折の末の業績」と言います。

「うまく行かず悩んでいるときに不思議と朗報が舞い込んだことが、二度もあった」そう。一度目は博士課程のとき。当時は研究者を辞めようかと考えるほどノイローゼ気味になってしまい、窓の外を見て過ごすことが多かったそう。しかしそんなとき、トップ会議(COLT)に論文が採択されることになったのです。2度目は、前職の大手メーカーで実用化も論文化もできず悶々と過ごしていたとき。しかし、IBISML研究会賞を受賞したのはそんなさなかでした。

具体的な成果をあげるまで努力し続けること、チャレンジすることは大前提ですが、そのほかにキャリア形成をしていくうえで必要なこととして、自らの経験をもとに6つのアドバイスを挙げました。

第一は「客観的で大きな成果を狙うこと」。トップ会議で採択されただけで、有名な先生や研究機関から声をかけられるなど、周りの反応が変わったと言います。「すごい人にとってもすごいぐらいを狙うことをお勧めします」と小林。

第二は「特定の分野にフォーカスすること」。小林は文書要約・生成にフォーカスすることで社内外のプレゼンスが上がったと言います。何にでも手を出すのではなく、「あの人は○○の人と言われるようになろう」。

第三は「自分の評価軸を柔軟に持つこと」。例えば論文数など特定の軸だけで評価すると目立たない業績であっても、複数分野の研究実績や実用化の経験など複合的に評価すると、他と差別化しやすいとのこと。「自分が一番輝く評価軸を見つけて主張しよう」と小林。

第四は「過去の自分と比較すること」。研究業界はすごい人しか生き残っていないので、他人と比較して落ち込んでしまうこともあるそう。「過去の自分と比較することで自身の成長を実感できるから安心できる」と小林。

第五は「楽観的な人を見つけること」。悲観的な人と一緒にいると自分の悪い面ばかりが強調されてしまうのだそう。「トップ会議に通ったのも、大学時代の恩師が楽観主義だったから。ポジティブな反応をくれる人を大切に」。

第六は「相手の立場に立って考えること」。サービス側のエンジニアと協業するときなどに、自分から利他的に動くことで連携がスムーズに行くことが多いそう。「Takeさせてもらうためには、先にGiveすることが大切」。

最後に、「研究開発方面でのキャリア相談なら、いつでも連絡ください」と参加者に呼びかけ、小林はLTを締めました。

「テレワークが推奨される今後において、楽観的な人をどうやって見つければよいのか」という質問には「対面と比べるとコミュニケーションが取りづらいと考える人もいるかもしれませんが、仕事をしていくなかで付き合いやすいと思える人が自然と見つかるはずです。そういう人との関係を大事にしていけばよいのでは」と回答。

また「成果を外にあまり出せないエンジニアはどう自分の価値を高めればよいか」という問いには、「自ら積極的に外に出るしかない。ブログなどでもよいので、とにかく外に向けて発信することを意識してはどうか」。

「黒帯になるために努力したこと、また黒帯として活躍するために心がけていること」という問いには、「黒帯になるために努力したことはありません。黒帯という枠に収まらないように努力しました。つまりもっと先を見据えた目標を持つこと。なりたいと思っている人はなれると思います」と、厳しくも優しいメッセージを届けてくれました。


今回のLT会は、「もしヤフーに入社したら黒帯を目指したい」という方にはもちろん、今後のキャリアについて迷っている方にとっても参考になったのではないでしょうか。ヤフーの黒帯たちはこれからも、社内外への大きな貢献のため、歩み続けます。


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