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2017.04.11

「100年続く会社をつくる人を育てたい」Yahoo!アカデミア責任者・伊藤羊一が考える、新たなリーダー育成の方法論

伊藤の写真
Yahoo!アカデミアをご存じだろうか。2014年4月に設立され、ヤフー社内の選抜者や希望者が門戸をたたく「虎の穴」である。その実像と設立の思い、今後のビジョンについて、責任者を務める伊藤羊一が語る。

100年続く会社をつくるために必要なこと

「100年続く会社をつくりたい」――プラス株式会社 執行役員ヴァイスプレジデントだった伊藤羊一が、宮坂からその言葉を聞いたのは2014年夏のことだった。

「伊藤さん、そのためには人をつくらなければならないと思うんです」

2012年、前社長兼CEO・井上雅博の後を受けてCEOに就任した宮坂は、スマホシフトに向けて大きくかじを切った。「爆速経営」を打ち出し、人事評価制度を刷新した。

eコマース革命をはじめ、次々と新たな施策に取り組み、新生ヤフーの船出は絶好調に見えたが、宮坂の胸の内には「これだけではだめだ」という危機感があった。ヤフーを100年続く会社に育てるには、人をつくらなければならない。

宮坂がそう考えたのはCEOに就任した後のことではない。2008年、リーマン・ショックに危機感を持った社内の若手リーダーたちと勉強会を立ち上げた時のことだ。当時、宮坂は本部長だった。

強いヤフーをつくるために何が必要か。当時は若手幹部だった宮坂がみんなの前で宣言したのは、共有するバリューの制定、そして社内アカデミアの創設だ。宮坂は、その当時に宣言した二つのことを自身の社長就任後、実行に移した。

2014年4月、Yahoo!アカデミアが創設されたが、これまでの企業研修の延長ではなく、新しい教育の枠組みが必要だと考えていた。

宮坂の思いに動かされた伊藤羊一は翌2015年、プラスを辞して、ヤフーに入社することになる。

1万人の会社を動かすエンジンとは?

プラスで経営者として指揮を執る傍ら、MBAスクールの講師を長く務めていた伊藤には、リーダー育成について、スキルだけを教えても意味がないと感じていた。

「入社してから驚いたのは、Yahoo!アカデミアといっても、社内でほとんど知られていなかったんですね。『アカデミア、何それ?』って」伊藤はいう。

「まずは社内で知名度上げなきゃならんなあと。そのためには、まずはたくさんの人に入ってもらうことが大事だと思いました」

当時のYahoo!アカデミアは、社内で選抜された100名の社員を対象としていた。これに加えて、300名の希望者からなる一般クラスを新設することにした。

まずは試験的に、2015年10月から100名を募った。Yahoo!アカデミアの説明会を社内で行ったり、全社員に向けた毎月の朝礼で時間をもらったりしては参加を呼びかける。

「リーダーシップを鍛える場です」と伊藤は繰り返し訴えた。

一般クラスは1年間のカリキュラムで、ロジカルシンキングやプレゼンテーション講座、ヤフーのCSOで「イシューから始めよ」の著者である安宅和人が講師となる問題解決講座などを次々と立ち上げた。

予想を超えた応募が集まり、2016年4月の一般クラス本開講にあたっては300名の定員に対して、600名の応募が寄せられた。

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Yahoo!アカデミアの全体像

現在、Yahoo!アカデミアは選抜クラス100名、一般クラス300名の計400名で構成されている。

選抜クラスは5クラスに分かれ、G1(本部長クラス)・G2(部長クラス)・G3(リーダークラス)・G4(メンバークラス)、そして「CFO講座」から構成される。それぞれのクラスの「塾頭」と言われるメンターは執行役員が務める。各20名で、G1は2年間から3年間、そのほかのクラスは1年間かけて年に数度の合宿や講義に参加する。

受講生400名が全員で参加するプログラムはふたつある。ひとつは社外から招いた講師による、年4回の「リーダーシップ講演」、もうひとつは年1回の「課題解決プレゼンテーション」と呼ばれるプレゼンテーション・コンテストである。

「リーダーシップ講演」では、外部スピーカーが来て講演を行う。特徴的なのはスピーカーの著書を事前に読み、全員がグループに分かれて読書会と呼ばれる対話セッションを行ってから講演に臨むところだ。

「組織にヨコ糸を通すことがまずは重要だなと思って。やっぱり、ヤフー単体で6000人、グループ全体で1万人いますから、日頃の業務ではどうしてもタテ割りになってしまうことがある。まずは共通言語をつくりながら、横のつながりをつくること、他部門や違う階層の仲間をつくることが価値あることだと思うんですよね」

単に講演を聴くのではなく、読書会により数人のグループで対話を行うことで講演からの学びに加え、横のつながりができてうれしい、と受講生は感じているそうだ。

加えて、G1では年3回、G2からG4では年2回合宿を行う。

合宿ではロジカルシンキング、システム思考などに加えて、これまでヤフーが行ってきた新規事業立ち上げ、M&Aや組織統合を題材としたケーススタディーを行う。ヤフーの新たな歴史をつくってきた社内の猛者たちを主人公に、オリジナルに開発したケースを使い、「自分ならどう経営の意思決定をするか」を徹底的に討議する。討議が終わると、ケースの題材となった主人公たちが駆けつけ、当時の思いや振り返りを語る。社内の知が共有され、共通言語ができていく。

大事なのはマインド>スキル

「リーダーシップを考える時、いつも使っているフレームワークがあるんです。氷山モデルっていうんですけど」

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パフォーマンスにつながる行動(Action)を生み出すためには、それを実現する能力(Skill)や志、情熱(Mind)の土台がしっかりしていなければならない。

「最初にYahoo!アカデミアに取り組む時、実はスキルに注力するか、マインドにフォーカスするかという迷いはあったんですよね」伊藤は当時のことを振り返る。

「能力(Skill)を身につけるための研修はたくさんある。しかし本当に大事なのは、ピラミッドの底となる志や情熱(Mind)じゃないかと思うんです。だから、Yahoo!アカデミアは徹底的にマインドを養う場にしたいなと」

とはいえ、どうすれば志や情熱(Mind)を教えることができるのだろうか。

「たぶん、教えるというものではないと思うんです。志や情熱、マインドって、こういう風に分解できると僕は考えているんですね」

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「自分の志を立てましょう、ってよくいわれるんだけど、志だけで考えるのは結構難しい。それは、自分ならではの軸があって、初めて生み出されるものだと思うんです。軸って、いろいろありますよね。何かを決める時の判断軸。どんな意思決定をする時でも、人間は必ず自分が培ってきた軸に基づいて判断をしています。

じゃあ、その軸はどのように育まれるのかといえば、その人個人の価値観からにじみ出てくるものです。何が好きか、何が嫌いか。何に重きを置いていて、大切にしたいと考えているか。軸を支えるひとりひとりの価値観を明確にすることで、初めて軸が確かなものとなり、その上に志が決まる。そういう順番なんじゃないかと」

2016年頃から、Yahoo!アカデミアの合宿ではこのような考え方に基づいて、自分自身を振り返るワークショップを多く行うようになった。

モチベーションチャートや、自分の好き(+)と嫌い(-)を書き出すワークシートを使い、自分のやりたいこと、やりたくないことを振り返る。自分は何者か。何をやりたいのか。過去・現在・未来の時系列で考え、それぞれの考えを共有し、対話する。

例えば、ある社員が自分がマネージャーになることに違和感を抱いているとする。なぜマネージャーになることを望まないのか。部下を育成するよりも、自分がプレーヤーでいたい目標の方が真実だからではないか。それは、ひとりで成果を出し、称賛されてきた過去の経験がそのまま来ているのではないか。だとしたら、そのままでいいのか。考え方を変える必要はないだろうか。

そのように自らの過去の経験と今の価値観を内省し、周りと対話しながら自分に対する理解を深めていくことで未来への志につなげていく。

正解はない。ひとりひとりが自分の価値観に気づいて、本当にやりたいことを明確にでき、実現していくことが重要だと伊藤は考えている。

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リーダーとは自分自身をリードできる人

「リーダーとは何かっていう、永遠の命題があるでしょう。わかりやすいところでは、人を巻き込んで頑張れる人がリーダー。Lead the Society, Lead the Peopleですよね。人々を率いて、社会を動かしていくっていう。

でも、本当は『Lead the Self』が一番大事なんですよ。自分自身をリードできるかどうか。自分自身を導けなければ、まわりを巻き込んでリードしていくなんてできっこない。

人をリードしようと思ったら、未来に対して揺るぎない信念を持っていないとできない。じゃあ、その信念はどのように育まれるのかっていえば、今ここの自分をきちんと知ることからだと思うんです。「個」がちゃんと考えることができる。ひとりひとりが内省しながら、心の底からの欲求や信念を持つことができる。僕はそれを『自立』と呼び、ことあるごとに『自立せよ』とみんなに伝えています。

遠回りのように見えるかもしれませんが、それこそがリーダーを育成するということではないかと思うんです」

ベースキャンプという言葉を伊藤はよく使う。

「登山をする時に、ふもとの近くにベースキャンプをつくるでしょう。山の頂上を目指す時は誰もが自分自身の限界に挑戦しなきゃいけない。でも山に登る人たちが戻ってくる場が必要ですよね。仲間と談笑したり、装備を再点検したり。それでまた次の挑戦に向けて再出動していく。

Yahoo!アカデミアは挑戦する人たちのベースキャンプでありたいなと思うんですよ」

「個」を確立していない人間100人のチームでは80人分の力しか出ない

「個」の確立が大事であることはわかった。しかし、社員数が十数名のスタートアップ企業ならいざしらず、ヤフーはグループ全体で1万人の社員を抱えるビッグ・カンパニーである。「個」の確立とチームの運営は、一体どのように両立できるのだろうか。

「Yahoo!アカデミアでは、ヤフーにとって都合のいい人材を育てようとは別に思っていないんですよね。アカデミアで学んで、『あ、俺のやりたいことはヤフーじゃなかった』って気づくこともあるかもしれない。

極端な話、『個』を確立していない人間を集めて100人のチームをつくっても、80人分の力にしかならないですよ。だったら、徹底的に『個』を確立して、自立しているんだけどヤフーで働くのが楽しいから一緒に働こうぜ、っていう方がはるかに強いし、面白いじゃない」

個の確立とチームワークは相対する概念ではない。むしろ、個の確立があって、初めて強いチームができる。伊藤はそういう。

Yahoo!アカデミアに限った話ではない。月に5日間(2017年3月時点)、自分の生産性が上がる場所であれば社外の好きなところで働ける「どこでもオフィス」も、自分で働きたい部署を希望できる「ジョブチェン」も、ヤフーの人事制度はすべて同じ価値観で組み立てられている。社員ひとりひとりが自立し、自らの責任において自分自身をリードしていくという考え方である。

自立した個人だからこそ、チームに貢献することができる。通底しているのはそんな思いだ。

「組織に自分を合わせるかどうか、悩んでいる人もいます。でも、そんなのは両方実現すればいいと思う。悩んでいる人を解き放ちたい」

そう語る伊藤の原体験には、かつて在籍していた日本興業銀行での仕事がある。

ひとりひとりがプロフェッショナルとして自立しながら、みんなが助け合う企業文化があった。銀行マンとして試練も多かったが、仲間との切磋琢磨(せっさたくま)に助けられた。仕事が終われば飲みに繰り出し、天下国家を議論し、興銀が何をすべきかを熱く議論していた。

「将軍の見る風景」を共有できる企業の強み

2016年12月、「課題解決プレゼン」の本選の場で、伊藤はある感慨にふけっていた。受講生400名が全員で参加するプログラムである。

「ヤフーが100年後に最も必要とされるインターネットの会社であり続けるために、どう脱皮していくか?」という課題に対して、1次選考では15名ずつのグループに分かれ、プレゼンの様子を動画で互いに撮影する。2次選考で150名に絞り込まれ、最終選考では本部長からメンバークラス20名弱が、居並ぶヤフー経営陣、そしてアカデミア生300名に対してプレゼンを行う。

2次選考の場から各グループに入りフィードバックを重ねてきた伊藤は、発表者たちの様子を会場から見つめていた。

1次選考から1カ月弱、誰もが懸命だった。貪欲に挑戦し、すべてを吸収しようとする。業務評価に直結しないイベントに、そうまでして彼らはなぜコミットしてくれるのだろう。そう自問しながら、ひとりひとりのプレゼンを見守った。

最後のプレゼンが終わり、社長賞、塾頭賞が選定され、贈られる。伊藤は最後に彼らに向けて、こういった。

「きみたちが今日見たのは、将軍の見る風景です。みなさんは今日、300名の聴衆に対して、懸命に自分の言葉で語りかけた。それは、経営者の見る風景です。

経営者はひとりで課題に挑み、準備を重ね、自分自身を賭けて、市場や株主と日々対峙(たいじ)しています。そんなリーダーの見る風景を、みなさんは今日見た。その視界を忘れず、さらに高みを目指してほしいんです」

反響は大きかった。選考途中で惜しくも敗れた受講生たちのためにフィードバックミーティングを設定すると、希望者が殺到し、全10回で設定していたミーティングを13回に増設することになった。

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3年、そして新たな飛躍へ

創立から3年を迎えるYahoo!アカデミア。伊藤の目にはどのような次の一手が見えているのだろうか。

「まず、これまでの一般クラスを公開クラスにします。希望すれば誰でも学べる場に広げたい。あとね、執行役員ゼミというのを立ち上げたい」

執行役員ゼミではヤフーの各事業分野に属する執行役員・本部長・ユニットマネジャーが集まり、それぞれの事業の勝ち方を共有することを狙う。

「同じインターネット企業でも、ショッピングカンパニーの人とメディアカンパニーの人ではビジネスモデルの発想なんかはずいぶん違うんですね。コンピューターでいうところのOSを入れて共通言語をつくっていくことで、ヤフーのような会社の強みは何倍、何十倍にもなる。そう思っています」

伊藤の頭には、さらなる野望がある。Yahoo!アカデミアがヤフーのみならず、インターネット業界全体の「虎の穴」となるという野望だ。

「インターネットによっていろんな事業の壁がなくなって、フラット化やオープンソース化が進むでしょう。これまでは大量生産大量消費を前提とした経営におけるリーダー育成手法として、MBAが非常に有効でした。でもインターネット時代の経営の枠組みは少しずつ変わっていくと思うんです。

インターネット時代の新たな経営の枠組みを確立できたなら、Yahoo!アカデミアがど真ん中になることができる。

そうなると、全部つながってきますよね。ヤフーで働くことは、この共通言語を基盤にして、コワーキングスペースとしてのオフィスがあって、仲間がいて、サービスをつくるということ。

インターネット時代の経営における『Yahoo!アカデミア・メソッド』をつくりたい。

インターネット業界にいる人たちが『えっ、おまえ、まだYahoo!アカデミアに行っていないの?』『それ、やばいんじゃない?』とかいいながら(笑)、インターネット時代のリーダーに必要なスキルやマインドをみんながアカデミアで鍛えて、社内外の人たちが協働しながら、新しい価値を生み出していくことができると思うんですよね」

実際、この日のインタビューが行われたヤフー社内のコワーキングスペース「LODGE」では、社員はもちろん、社外のスタートアップ企業のメンバーたちがホワイトボードを囲んで議論を行っていた。

まるで縁側のように、社内と社外の人が交わる場がある。人財育成においても、その価値観は共通している。

その未来に向けて、「まだ何も始まっていない」と伊藤は語る。Yahoo!アカデミアの物語は序章を迎えたばかりである。

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