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2016.12.26

理不尽だと思っていた仕事が、全体が見えるようになると、“自分ごと”に変わっていく

組織をマネジメントすることの意味

ヤフーのCTO藤門千明のキャリアを語る上で重要なポイントがいくつかあるが、中でも入社3年目に配属された「SWAT」チームの経験が大きいことはこちらの記事で記した。

部門を超えて、社内のシステムのお困りごと全般を引き受ける専任部隊。他人や他部署の領域に越境して入り込み、そこで自己主張し、技術力を駆使して課題を解決する。
狭く固定化した役割に自分のスキルを限定するのではなく、その壁を越えていくことにこそ、エンジニアが成長するきっかけを見いだしていく。現在も続く、藤門のエンジニアスタイルは、このころ確立されたといっていい。

ただ、それだけではスーパーエンジニアとしてのキャリアを語るには十分でも、現在の、CTOという企業経営の一端を担う職責を語るに不十分だ。
単に技術力が高いというだけでなく、人と組織を束ねるマネジメント能力があるからこそ、CTOという責任を負っているのだから。組織をまとめるマネジメント力はどこから生まれたのだろうか。藤門は、いつ頃からそれを志向するようになったのだろうか。

仕事の領域を広げると、見える世界が違ってくる

仕事の領域を広げると自分の発言力も増すことにあらためて気づいたのは、SWATの後、ID関連のチームに異動してからだ。ヤフーは2012年にYahoo! Inc.のローカライズをやめて、世界の大手IDプロバイダーの中で初めて「OpenID Connect」の仕組みを導入することになり、その基盤作りに関わるようになった。

「最初はユーザーがYahoo! JAPANのさまざまなサービスを利用する際のログインシステムを担当していました。ログインというプロダクトのリードエンジニアです。ログインは、サービス寄りのシステムですから、膨大なユーザーとサービス事業者のリクエストを聞かなければなりません。
ログインページに広告を出したいというクライアント企業からのリクエストにも対応する必要があります。その中には、エンジニアとしては理不尽に思えるようなリクエストもいくつかありました」

顧客を抱える仕事であれば、どの世界にも“理不尽”はつきものだ。だが、藤門はこれらの要求に応えながら、ログインの仕組みを改善することに務めた。
意味のわからないリクエストを受けて、メンバーが腐らないように、そのモチベーションを鼓舞することもリーダーとしての務めだった。そのうちログインだけでは解決できない問題にぶつかるようになる。

「そもそも、ユーザーがIDを登録(ヤフーからすればユーザーIDの取得)するところから取り組まないと、実現できないサービスもあるんです。だったら、その部分もやらせてほしいと上司に直訴しました」

SWATで培った、持ち前の“越境精神”が再び湧き起こってきたのだ。ログインだけでなく、ID取得についても技術リードとして担当したいと自ら志願した。

「隣接する他の業務を自分の仕事に組み込んでいくと、だんだん自分の裁量範囲が広がるんです。そのうち、ユーザーのIDにひも付いたクレジットカード情報の管理なども手がけるようになりました。複数のID関連チームが統合されて、ID業務全般に関わる部に昇格すると、その部長も任せてもらえるようになりました。
そうなると見える景色が変わってきます。個別の仕事では理不尽だったと思っていたことが、全体が見えるようになると、“自分ごと”に変わっていく。サービスの足りなさは、他人の問題ではなく、自分のマネジメントのまずさだと気づくようになったんです」

一つのプロダクトに閉じこもることなく、複数のプロダクトを見ようとすれば、おのずから視点はより高くならざるをえない。
部門についても同様で、一つの部門だけでなく、全社横断的な課題に取り組もうとすれば、視点はさらに高くなる。見晴らしのよい高台に立つことで初めて見えてくるものがある。

藤門はこうして課題への部分的対応から、技術構造全体の問題点が見える立場へ、徐々に自分の立ち位置をシフトしていった。
このように、より高く広い視野を持てたからこそCTOになれたとも言えるし、逆にCTOの要件はこうした視野の広さ、深さであるという言い方もできる。

経営と技術の最前線に立ち、世界トップ企業への道を開く

ID部門の責任者を経て、藤門はさらに仕事の範囲を広げていった。決済金融部門のテクニカルディレクターやYahoo! JAPANを支えるプラットフォームの責任者を経て、2015年10月からはCTOに就任している。
最近はIT・Web企業におけるCTOはどのような役割を果たすべきか、さまざまな議論が聞かれるようになった。ただ、単なるリードエンジニアの言い換えでCTO職を設ける企業が少なくないなか、ヤフーは藤門に執行役員を兼務させている。その意味は何だろう。

「インターネットサービス、とりわけWebサービスを展開する企業は、企業ビジョンを達成するために技術はどうあるべきかを常に検証していなければなりません。技術トレンドの変化がビジネスをがらっと変えることも多々ある。その転換点を見極めるためには、技術と経営の両方がわかっていて、そこをつなぐことができる役職が必須だと思います」

藤門は執行役員CTOという職務に、個人的な野心を隠さない。オファーを受けたときは、絶好のチャンスだと思った。

「だって3兆円の時価総額を持つ会社の執行役員CTOなんて、人間そう何回もできる仕事じゃないでしょう。自分の意志決定次第で、時価総額が一瞬にして何千億円と動く。怖いことではありますが、同時にそれはそれで醍醐味です」

かつて先輩社員が口にした「選ばれし者の恍惚と不安、二つ我にあり」という言葉を藤門はよく覚えている。もとはフランスの詩人ヴェルレーヌの詩句の一つ、太宰治が引用し、プロレスラーの前田日明氏が好んだ言葉だ。
この言葉を浅薄に理解すれば、エリート意識が鼻につく。しかし、恍惚と不安に身を引き裂かれながら、世界有数のインターネット企業で一身に重責を担う心理を、藤門は表現したいのだ。
世界有数のインターネット企業──。そう、藤門が目指すのは、もはや国内シェアの多寡ではなく、その技術力で2020年までに世界トップ10の企業になることだ。

「検索すれば一発で疑問が解ける、ユーザーごとにカスタマイズされた最適な広告が一瞬で表示される。私たちは“一発回答力”と呼んでいますが、機械学習やディープラーニングなどの人工知能(AI)技術も使いながら、その精度を世界トップレベルへ高めていきたい」

もちろん、テクノロジーの未来はいまある技術の先に、予測困難なほどのスピードと深度で広がっていくことだろう。それへの準備も怠ることができない。
2007年には最高技術顧問に村井純氏を招聘(しょうへい)した、Yahoo! JAPAN研究所を設立。ここに集うコンピューターサイエンスの俊英たちは、サービスの現場と席を同じくしてビジネス課題を抱えながら、サーチエンジンやアドテクの新技術開発にいそしむ。
2016年に開設したシリコンバレー拠点では、海外の研究所やベンチャー企業と積極的なオープンイノベーションを進める。

「強いもの同士のコラボレーションが、技術を足し算ではなく、かけ算で深めていく」

ヤフーを率いるCTOは、これからの技術戦略について、そう力強く宣言するのだった。

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