2016年1月には、インタラクティブ広告技術のオープン化や標準化を進める国際的な非営利組織「The IAB Technology Laboratory(IAB Tech Lab:本部=米国ニューヨーク州)」に正式会員として加盟し、同時にマーケティングソリューションズカンパニー経営戦略本部長の高田徹が、同ラボのボードメンバー兼ファウンディングメンバーに米国以外の企業から初めて就任したことを発表しました。
10月には、IAB Tech Labのゼネラルマネージャー、アランナ・ゴンベールさん(Alanna Gombert)が来日。ヤフー社員向けに海外のアドテク最新トレンドについてレクチャーしたほか、本メディアのために、高田とともにインタビューに応じていただきました。
ヤフーがIAB Tech Labに参加する意義
──IAB Tech Labとはどういう活動をしている組織ですか。
アランナ:IAB Tech Labは、米国ニューヨークに本拠地を置く非営利のインタラクティブ広告業界団体であるThe Interactive Advertising Bureau(IAB)が設立したデジタルメディアとデジタル広告業界のソリューション、またグローバルな業界技術基準の確立と推進を促進するための技術協議連合会です。
IABの活動の一部が分科したものとはいえ、IABとは相対的に独立した組織で、1年半前に設立されました。一口で言えば、インターネットに展開されるデジタル広告の技術開発や標準化のために活動しています。

高田:インターネットでマネタイズ化が可能なビジネスモデルといえば、基本的には「広告」か「eコマース」しかなく、大概の人は広告でマネタイズしています。
その意味でインターネット広告は技術的にもきわめて重要で、常にイノベーションが進んでいる世界なのですが、残念なことに日本の技術は「ガラパゴス化」しているのではないかという懸念を、私はつねづね感じていました。
世界と日本の間に情報断絶があるのかもしれない。アメリカを中心に技術革新が進むなか、日本市場が置いていかれる形でそれが標準化される危惧もあります。とはいえ、日本から世界に向けて、イノベーションを提案する力もまだ弱い。
世界にいち早く追いつかなければならない。国際標準が決まるのを待つのではなく、こちらから国際標準の規格化のプロセスに参加すべきである。それが、ヤフーがIAB Tech Labに参加しようと思った動機です。

高田: 幸い、Yahoo! JAPANのサイトは月間総ページビューやアクティブユーザーIDで日本におけるトップレベルのシェアを持っているし、その巨大さは世界からも注目されている。そういう自負と責任からも、ヤフーが率先して動かなければならないと考えています。
アランナ:ヤフーは先見的な企業で、IAB Tech Labに参加する最初の日本の企業になりました。このことは、広告技術をグローバルに広げるためにも重要だし、私たちが世界の動きに敏感になっていることを示すためにも重要な機会です。
もちろん、他の日本企業もぜひIAB Tech Labに参加してほしい。今回の私の来日も、ヤフー以外の企業と、この件で話し合うことにあります。
IAB Tech Lab アランナさんが注目するアドテク技術
──IAB Tech Labはアドテク領域における先進的な技術のリサーチや評価も任務にしていますが、アランナさんが最近注目する技術はどんなものですか。
アランナ:例えば、VR(Virtual Reality)やMR(Mixed Reality)の広告表現への応用です。ブロックチェーンや、アスペクト比ベースの新しいアドポートフォリオにも関心があります。

高田:少し補足させてもらうと、ブロックチェーンについてはビットコインの中核技術として知られていますが、その仕組みは広告で生じるお金のやりとりにも使えるということだろうと思います。
アスペクト比ベースのアドポートフォリオというのは、従来の固定面積ではなく、アスペクト比で広告サイズの拡縮を行い、スマホ、タブレット、PCなどさまざまなデバイスで、静止画だけでなく、動画も含めて流せるようにする仕組みのことです。
IABは先日アスペクト比ベースの新しいアドポートフォリオを発表しましたが、その策定を担ったのがIAB Tech Labなのです。IABが新しい仕様を決めると、世界中のアドテク企業がそれに沿って製品開発を一斉に始めるという流れがあります。
アドテク領域における 人工知能(AI)の活用
──人工知能(AI)の活用についてはいかがですか。
高田:膨大なデータをディープラーニングや機械学習などのAIで処理することについては、インターネット広告業界はいちはやく取り組んできました。AI研究がビジネスに応用される場合、いつも最初に適用されるのが実はインターネット広告なのです。
つまり、最先端技術は広告からやってくる。この領域にいると、先進技術がすぐに使えるということがあります。
アランナ:たしかにAIアルゴリズムの活用はインターネット広告業界では10年前から行われていましたね。私が以前勤務していた、ライトメディア(Right Media)というスタートアップ企業も、AIアルゴリズムの広告業界への適用に取り組む会社でしたから。
最近は、広告業界で培われたAIアルゴリズムが、他の業界にも適用されるようになりました。例えばヘルスケア分野。ビル・ゲイツ氏も投資しているある医療ベンチャーは、アドテクのAIアルゴリズムを使って、治療に役立つタンパク質の探索などを行っています。

──AIがインターネット広告に適用されることで、何が変わるのでしょうか。
アランナ:広告主にとっては適材適所の広告表示を通じて、最適な消費者と出会うことができます。メディアもまた、自分たちのコンテンツに合った適正な広告を表示できるようになる。それは結果として、コンシューマーに広告を通したシームレスかつ素晴らしい体験をもたらすことになります。
とはいえ、アルゴリズムは広告技術の一部に過ぎません。広告とは基本的には人間が人間に語りかけるストーリー・テリングのビジネスですから、最終的には人間的な要素が重要です。アルゴリズムにだけ頼っていたのでは、よい広告は作れないこともたしかです。
高田:IAB Tech Labの別の活動として、IABが提唱する「LEAN」広告プログラムに沿って、広告フォーマットの推奨基準を作るというものがあります。
LEANとは、以下の頭文字を取ったものです。
Light. 軽量。厳格なデータガイドラインに基づいて、ファイルサイズを制限する
Encrypted. 暗号化。HTTPS / SSL対応の広告でユーザーのセキュリティーを確保する
Ad Choices Support. すべての広告はDAA(米国のデジタル広告の業界団体)が定めた消費者プライバシー・プログラムをサポートする必要がある
Non-invasive/Non-disruptive. ユーザー体験を補足し、邪魔にならない広告を提供する
IAB Tech Labは、これらの基準を満たす広告フォーマットを推奨する活動にも力を入れています。
これはアドブロック対策についての、広告業界からの一つの回答でもあります。

日本の広告テクノロジー企業の世界進出を支援
──IAB Tech Labに参加したヤフーは、今後どんな活動をしていきますか。
高田:まずやらなくてはいけないのは、IAB Tech Labの英文コンテンツを日本語で発信し、技術情報の共有のためにセミナー、勉強会を開くという基本的なところです。
将来的には、日本だからこそ出てくる広告フォーマットを国際標準化していくことにも注力したい。日本の広告テクノロジー企業が世界に進出することを支援したいとも考えています。
最初にも申し上げたように、日本だけで技術とマーケットを閉ざしていると、世界のスポンサー企業はいずれ日本市場に関心を示さなくなるでしょう。そういう事態はどうしても避けたい。
テレビCMの世界では、カンヌのコンペティションで、かつての日本のクリエイターたちが数々の賞を獲っていました。しかし、インターネット広告では出遅れています。技術だけでなくクリエイターの力も世界に見せつけたいものです。
アランナ:IAB Tech Labでは、「教育の日」というものを定めて、グローバル・ミーティングを行ったり、スタートアップ企業を招いて、彼らの新技術を広くコミュニティーに紹介するというような働きかけもしています。
来春には、広告技術のエンジニアを集めてハッカソンを開く予定です。これまでアドテクに関心のなかった他の領域のエンジニアにもぜひ参加して、アドテクの世界を盛り上げてほしいなと思います。日本からのエンジニアの参加をぜひお待ちしています。
