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2016.10.26

店舗サイドの機能実装、販売管理と決済のシステムAPI連携──ヤフーCTO藤門が「Yahoo!ウォレット」でぶちあたった壁とは?

ヤフーのCTOふじもんちあきの画像

CTO兼執行役員として、ヤフーの技術経営を牽引する藤門千明。彼のキャリアをたどっていくと、インターネット企業におけるエンジニアの成長において、欠かせない要件のいくつかが発見できるかもしれない。

高専・大学時代の経験を語った「ヤフー初代黒帯エンジニア、CTO藤門千明の学生時代とは」に続き、話はいよいよヤフー入社後へ。最初のプロジェクト「Yahoo!ウォレット」の開発で、彼はどんな難関にぶちあたったのか──

Yahoo!ウォレットの決済システムを物販にも活用

2005年のヤフー入社後、最初に配属されたのは「Yahoo!ウォレット」の開発チーム。そこで藤門は、課金・決済にかかわる膨大なデータを処理するインフラ系のシステムを任されるようになった。
Yahoo!ウォレットは、もともとはYahoo! JAPANのデジタルコンテンツや、サービスをユーザーに届けるために、代金を徴収する仕組みだ。クレジットカードなどの支払い情報を毎回入力する必要がなく、簡単な手続きで購入できる。

また、受取口座情報を登録すれば、対応サービスからの報酬を受け取ることも可能だ。今でこそネットサービスでは当たり前の機能だが、2002年のリリース時には、そのセキュリティを考慮した仕組みは高く評価された。
藤門はその開発に丸2年携わることで、エンジニアとしての自信が生まれかけていた。

「クレジットカードをいろんなサイトで利用するのはリスクがある。それに代わるものとしてのYahoo!ウォレット。それが次第に広がることがうれしかったですね」

デジタルコンテンツ流通を一新したその仕組みは、物販でも使えるのではないか。チームは、デジタルコンテンツでの実績をベースに2007年の半年をかけて、この決済システムを物販向けに使えるようにした。
物販では消費者もユーザーだが、商品を出店する「お店」ももう一つの顧客である。まずは自社の販売サイトに「Yahoo!ウォレットで買う」というボタンを設置してくれる販売業者を確保しなければならない。

藤門は技術者として営業に同行し、店舗を運営する会社への提案をはじめた。音楽CD、学生向けの教材……多くは小さな会社だった。

店舗側の冷ややかな反応。いきなり挫かれた出鼻

「Yahoo!ウォレットを利用することで、顧客層が拡大し、販売管理の利便性も向上しますよ」と訴える藤門らに、最初、店舗側の反応は冷ややかだった。

「そんなものを使えるか、導入が面倒だ、ヤフーにお客さんが取られちゃうんじゃないかとか、めちゃくちゃ言われるんですよ。自分が作ったものはいいものだと信じていたのに、全然ダメとか言われると、ものすごく悔しかった」

デジタルコンテンツであれば、流通は比較的簡単。ウォレット機能もエンドユーザーにとっての使いやすさを主に考えればよい。ところが、物販となると流通は多様で、決済の方法もそれぞれ異なる。世界が違った。

「それまでの開発経験を通して、デジタルコンテンツの販売・流通の仕組みはだいたいわかったつもりでいたんです。ところが、物販となると商習慣がまるで違う。そこに気づけなかった。生意気盛りの若造がすっかり出鼻を挫かれちゃったわけです」

直属の上司と営業が顧客の前で深々と頭を下げ、導入してくださいとお願いする姿を見て、モノを売るって大変だなと思った。

「私も一緒に頭を下げたけれど、ちらっと目を上げると、上司はまだお辞儀をしたまま。そのときの上司は今の決済金融カンパニー長の谷田智昭ですが、彼が頭を下げている様子は今でも夢に出てきます(笑)」

エンドユーザーだけでなく、売り主も満足できないと使ってもらえない。そもそも店舗さまは、ECビジネスの急成長を追いかけながら、自分のウェブサイトでモノを売ることで精一杯。
新しいITの仕組みを導入するにあたっては心理的な障壁があった。決済を終えたお客さまも自社の販売サイトに戻ってきてほしい。一度買った顧客は自分の顧客として囲い込みたい、という思惑もある。
藤門はお店に使ってもらいたい一心で、プランナーと一緒に壮大な資料を作り、説明を繰り返した。徐々に理解してくれる店が増えていった。

「お店が成し遂げたいビジネスの幅に合わせて、いろんな機能を順に作っていきました。今もこのシステムが動いているのは、地道に店舗サイドと向き合いながら、機能を実装していったその積み重ねがあればこそ」と、藤門は振り返る。

社内ルール部門に直談判。世界標準を認めさせた

Yahoo!ウォレット普及の鍵を握ったのは、店舗側の独自の販売管理システムと、ヤフー側の決済システムをAPIで連携させる、つなぎこみがうまくいったからだ。

「両者のシステムをAPIでいかにスムーズに連携させるか。この点については当時“Google Checkout”というよくできた仕組みがあって、それはずいぶん熱心に研究しました」

2008年は、ヤフーも自社APIの公開などオープン化戦略を始めていた頃。ただ、各部署が勝手にAPIを公開してしまうのではまずい。そこでワーキンググループ(WG)を作って、API公開にあたっての社内のルール整備を同時に進めていた。藤門が研究していたGoogle Checkoutの仕組みは、しかし、社内の公開ルールからするとイレギュラーなものだった。

「Googleの仕様を見たとき、私はこのインターフェースが今後の世界標準になるんじゃないかとピンと来ました。結局、Google自身がGoogle Checkoutの提供を終了し、いまだ業界標準はできていないんですが、たとえ社内のルールを外れてもそれを導入する意義はある、とその時は思ったんです」

そこで、藤門が取った行動は、社内WGに直接掛け合うことだった。「Google Checkout に準拠した方式で、Yahoo!ウォレットのシステム連携も進めるべきだ」と、並みいる先輩技術者の前で、入社3年目の藤門は声高に主張したのだ。その手元には、先輩社員らを納得させるために彼自身が書いた、分厚い仕様説明書が置かれていた。

若手の技術者は、会社のルールに忠実に従ったシステムの開発をしがちだ。先々の世界標準を考えたときに、別の方法の採用も検討すべきだと主張できるエンジニアは、ベテランでもそうは多くない。

「社内ルールに沿った開発はもちろん大切です。ただ、技術者にはここだけは譲れないと思う瞬間があってもいい。どちらを選ぶかを、まず自分の頭で考えることが必要なんです」

藤門の勢いと確信に気圧されてか、WGは彼の提案を受け入れざるをえなかった。藤門が提案した仕様は、現在もYahoo!ウォレットシステム連携の核の部分で動いている。

「あのときの行動は、自分としては80点つけられる」と、藤門は今でも入社3年目の直談判のことを思い出しては、少しばかり誇らしくなるのだ。

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