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2018.11.22

デザインの原点は、ユーザーを知ること——ヤフー2年目デザイナーが新人研修で伝えたかったこと

ヤフーでは毎年デザイナー職として採用した新卒社員には、本格的な配属の前に3カ月にわたる集合研修を実施しています。研修の講師役をするのは社内の現役デザイナーたち。なかでも新卒2年目のデザイナーが指導陣の中核を果たしています。
本来の業務もこなしつつ、研修期間中は新卒社員に付き添いながら、毎日の振り返りを通して研修内容をブラッシュアップさせていく。その研修に注ぎ込む熱量はかなりのものです。

2018年度の研修ではどのような取り組みが行われ、どのような成果が上がったのか。研修を担当したテクニカルデザイン(TD)=コーディング担当の春野健吾、UI/UXデザイン(UD)担当の杉山勇太、ビジュアルデザイン(VD) 担当の大石薫子に語ってもらいました。

新卒2年目社員が研修講師の主軸に

——まずは自己紹介をお願いします。

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「大学・大学院は情報工学系で 大学院時代はデータベースを研究していました。ヤフーには膨大な量のデータが蓄積されているので、自分の専攻をそのまま生かして、データベースのエンジニアになることもできたのですが、実は私自身の志向としては以前から、バックエンドではなく、フロントエンドの開発に関わりたいと考えていました。

そこで、ヤフーでは思い切ってデザイナー職を目指したんです。ヤフーのデザイナーは美大卒が多いので、彼らに追いつこうと入社後必死でデザインを勉強しています。

現在は広告の部署で、広告代理店がヤフーサイトに広告を入稿するための入稿ツールを、 ウェブアプリのUI設計からコーディングまで幅広く開発しています」

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▲メディアカンパニー プラットフォーム統括本部 テクニカルデザイン(TD)担当 春野健吾
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「工業系の大学で学部時代はプロダクトデザインを、大学院ではUXデザインを専攻しました。UXデザインのスキルはあるものの、コーディング経験はゼロのまま入社しました。

現在は、検索の事業部で検索結果面のデザイン改善に取り組んでいます。ヤフー検索のコア部分はGoogleの検索エンジンを使っていますが、ヤフー独自の実装もあります。検索サイトという点では競合も多い中で、いかに独自性を発揮し、より使いやすい検索体験を作るかが課題です」

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▲ メディアカンパニー 検索統括本部 デザイン部 UI/UXデザイン(UD)担当  杉山雄太

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「美術系の大学で、インタラクティブメディアを専攻していました。例えば、iOSアプリの入力内容をプロジェクションマッピングのように壁に投影させ、ユーザー間のコミュニケーションを促すみたいなものとか。

学生時代はiOSアプリのコーディングからデザインまで一人でやっていました。もともとはウェブデザインに興味があったのですが、大学のゼミでアプリ制作に触れ、両方面白いなと思うようになり、それができるヤフーに入社しました。現在の業務は、Yahoo!メールのiOSアプリのデザイン担当です。

Yahoo!メールのユーザーは10代から80代までと幅広く、その全ての方たち使いやすいように、ヘルプ画面を充実させるのも課題です。『タップ』や『スワイプ 』という言葉を使わずに、いかに使い方をガイドするのか。その意味では、ビジュアルデザインだけでなく、言葉のデザインも私の仕事になります。

ユーザーインタビューもよく実施していますね。『この使い方わかりますか?』『この表現で理解できますか?』といったことを定期的にヒアリングし、そこで出た意見を受けてアプリの改修に努めています」

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▲ サービス統括本部 PIM本部デザイン部 ビジュアルデザイン(VD)担当 大石薫子

なぜ、新人研修の講師に応募したのか

2018年度入社のデザイナー職は38名。大学は美大卒以外にも、情報工学系など、デザインとは無縁の学部出身者もいます。Photoshopなどのデザインツールに触れたことがない人や、HTML/CSSを含むコーディングスキルのない人も少なくありません。さまざまなバックグラウンドの新入社員を、わずか3カ月でデザイナーの基礎を鍛え上げる新卒研修の密度は、かなり濃いものとなります。

UD=UI/UXデザインに始まり、VD=ビジュアルデザイン、さらにTD=テクニカルデザイン(コーディング)と、Web・アプリデザイナーに必須の3領域を順にこなしながら、最後の1カ月は一人ひとりが最終課題に取り組みます。研修担当者のうち2年目社員も、UD、VD、TDの3領域にそれぞれ4人を配置。全員が社内公募で集まったデザイナーたちです。

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——普段の業務も忙しい中、研修担当に応募したのはなぜですか?

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「去年1年目社員として僕も研修を受けたのですが、その後、職場に本配属になって業務を経験することで、研修で足りなかった部分も見えてくるようになりました。今年は自分が研修担当になって、その部分を補うことができたらいいなと思ったんです」

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「去年の研修は、課題制作は大変でしたけど、全体にとても楽しかったという印象があります。特に研修担当と研修生の間のコミュニケーションがうまく回っていました。研修で知り合った先輩社員には、私がヤフーという会社を歩き出す上でのガイドになっていただけました。その恩返しというか、研修での体験を、今度は自分が後輩たちに伝えることができたらいいなと」

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「自分が教えることで、自分が得られることも多いですよね」

——研修は、UD領域から始まりますね。

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「すべてのデザインの原点は、『ユーザーにいかにベストな体験を届けるか』ということだと思うんです。僕はいま業務で検索面のデザイン改善に取り組んでいますが、ユーザーが本当に求めているのは、美しい検索結果面ではなく、例えば『今年の夏休みの旅行を、より素晴らしいものにしたい』ということ。そうしたユーザーの真のニーズに気づくことが、デザインの原点。そのためにはUIだけでなく、UXについても知らなければならない。だからこそ、UD研修を最初にもってきました。

ただ、世の中にUI/UXの手法はたくさんありますが、その手法を教えるだけでいいのだろうかと思っていました。手法は後からでも学べる。そこで研修では真っ先に『ユーザーを知ろう』というタイトルの講義を入れました。ペルソナを設定してサービスを作り込んでいく、その前の段階の話です。

講義ではあるユーザーの事例を挙げて、『この方はYahoo! JAPANを日常的によく利用しているんですが、自分でログインすることができないんです。実はこれって僕の親なんですが…。皆さんの親御さんはどうですか?』と切り出しました。

学生時代の仲間たちのことだけを考えていたら、もうITリテラシーが違いすぎて、そういうユーザーがいることさえ全く想像できない。でも、実際のヤフーのサービスはそういう年配の方たちにも使われている。そこが想像できないとデザイン、ましてやサービスの設計はできないんだと訴えたかったのです。

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次の段階で伝えたかったのは、企業でデザイナーの仕事をやるからには、ビジネス目標に貢献できないといけない、ということでした。『30~40代の女性向けに地図サービスの新機能を考える』という具体的な課題を課して、みんなに考えてもらいました。

実際に何人の人に新機能を使ってもらえるのか、KPIを設定して、その実現のために何をすべきかというのがポイントです。実際にこの年代の主婦層を集めたグループインタビューも行いました。

研修生には毎日アンケートを採り、それを僕ら研修担当者が振り返りの材料に使いました。アンケートでは、『教わったことを全部できないといけないのか』『進度が速すぎてついていけない』という声もありました。それで講義のペースを調整したこともあるし、講義や実習の合間に相談会を開くというアイデアも生まれました」

——研修の空き時間に研修担当者がフロアで待っていて、自由に質問や相談を受け付けるというものですね。

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「新卒社員の中にはPhotoshop、Illustratorなどのデザインツールを学生時代に全く触ったことのない人が1~2割いる一方で、バリバリ使いこなしてきた人もいる。講義ではPhotoshopの使い方を全部教えることは時間的に難しい。

そこで、ツールの細かい使い方などは講義時間の以外の相談会で聞いてもいいですよということにしました。具体的な質問だけでなく、漠然としたことでもなんでもいいから、疑問や不安があったら相談会を訪ねてね、というゆるい感じです」

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「研修会だけじゃなく、私もときどき新卒社員たちとランチを一緒にしたりして、コミュニケーションを図りながら、彼らのモチベーションをフォローするようにしました」

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ターゲットユーザーはどんなデザインを求めているか

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「デザイナー職なので、やはりビジュアルデザインをやりたくて入社している人が多いんですね。ところがいきなりUIとかUX、あるいはKPI達成が大切とかいう話から始まりますから、最初は少々面食らって、モチベーションがダウンしちゃう人がいたかもしれない。

ただ、UD領域の研修が終わるともうゴールデンウィーク。休み明けにはいよいよVD領域の研修に入るので、PhotoshopとIllustratorが使えると、待ち望んでいた感じでした。ただ、頑張りすぎないようにはケアしました。

Photoshopが得意な人はサクサク進むけど、苦手意識がある人もいます。同じデザイン作業でも倍ぐらい時間がかかってしまうんです。そこで、『最初から全部できなくても大丈夫だよ』とフォローしながら、彼らのモチベーションを維持することを心がけました。

VD研修では、先のUD研修で、30~40代の女性が求めていることを調べてもらったので、それをベースに、ターゲットに使ってもらうためにはどんなデザインがよいのかを調べるところから始めました。彼女たちがよく見ていそうなサイトを研究して、そのデザインの特徴をつかんだ上で、実習に入ります。

具体的には、UD領域の課題で考えたアプリの新機能を紹介するウェブページを作成するというものです。新機能の良さをどのように打ち出したら、アプリをダウンロードしてもらえるか。ダウンロード数を増やすという具体的なKPIも設定しました。

新入社員たちにも、自分の好きなデザインや、自分なりのデザインのやり方があったと思うんです。ただ、自分の趣味や好みでやるデザインと、企業でKPI達成のために作るデザインはやはり違う。その違いを踏まえた上で、企業デザイナーとしては何に重点を置いたらいいのかということに重きをおいて伝えました」

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コーディングは「楽しさ」に重点を置いて伝える

——4月はUD、5月中旬まではVD、6月上旬までがTDで、最後の3週間で最終課題という流れでしたね。

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「そうですね。TD研修には3週間ほどかけました。やはり教えなければならない技術要素が多いですから。ただUD、VDと引き続いてきた課題をそのままコーディングしましょうというと難しすぎるので、いったん切り離し、ウェブページのパーツを作るための基本的なコーディングを学んでもらうようにしました。

今年度の新卒デザイナーで、HTML/CSS、JavaScriptなどのコードを書いたことがある人は半数ぐらい。何かしらみんな苦手意識があるはず。コードを見ただけでいやになってほしくない。そこで『コーディングって楽しいよ』ということを主眼に伝えるようにしました。

コーディング作業はどうしても個人作業になりがちなんですが、『メンバーの中でできる人は他の人に教えて』と呼びかけて、みんなで楽しく学び合うという雰囲気を作るようにしました。
講義ではコーディングの文法についてスライドを使って教えるんですが、そのスライドも記号や文字ばかりになるのを避けて、ビジュアル要素をふんだんに使い、後で見返しても参考書として使えるようなものになることを心がけたつもりです。

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コーディングの技術スキルという意味では、それほど高い目標を設定しているわけではありません。それでも、学生時代にやってきたかどうかで結構な技量の差が出ます。そこで、最初に『各自がそれぞれ自分の目標を立て、その人のレベルに合わせてここまでできればいい 』 というスタイルにしました。最初からレベル差があるのはわかっているし、できないことが必ずしも悪いことではないからです。

TD研修でもう一つ重要なのは、なぜこれからのデザイナーにコーディングスキルが欠かせないのかを伝えることでした。例えば自分がデザインを考える。それをページに起こすとき、他のエンジニアにコードを書いてもらうと自分のイメージが実現しないかもしれない。

デザイナーにコーディングスキルがあれば、より自分のイメージを正確に実現できます。コーディングの過程で新しい発想も生まれるかもしれない。コーディングもクリエイティブな活動の一つであることを伝えました。最終的には、VDの段階である程度コーディングのことも考えられるようになることが大切ということも。

もちろん、コーディングを知りすぎていると、デザインの幅を狭くすることになりかねないという危惧もあります。そのあたりのバランスは難しいことですけどね」

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最終課題は、ランディングページを作成

——UD、VD、TDという3領域をひととおり教えて、6月末までの3週間は全員が最終課題に取り組むわけですね。

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「一つのサービスを一から考えて、最終的にランディングページを作成するというのが課題です。具体的には、「ヤフートラベルの夏のお出かけ特集」のランディングページを作成するとともに、ユーザーにクーポン取得をさせるなどビジネス課題を達成するというもの」

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「夏休みに家族旅行をするなら、ユーザーはどんなデザインのサイトで旅行先やホテルを選んでいくか。それを実際に作ってみましょうというお題です。これまでの各領域の課題では一人で取り組むものも、チームで取り組むものもありましたが、最終課題は一人ひとりが自分のページを作る。これまでの知識や経験の総まとめです」

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「3週間という時間は決して長くはありません。しかし、実際の業務ではよくありうるスピード感です。新卒社員にはきついかもしれないけれど、それを乗り越えることができれば、職場に本配属になったときの自信につながるはずです」

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「今年度の研修は、昨年度に比べると、実業務に近い要素が多かったですね」

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「ヤフー社内でデザイナーに求めるスキル要件が新たに定義されたということもあって、研修から部署に配属になったときに、ギャップが出ないようにすることも新卒研修の大きな目標の一つでしたから」

ヤフーの環境を最大限利用して学び続けてほしい

——そうした目標はこの研修で実現できたと思いますか。残された課題は何でしょうか。

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「まずユーザーを知ってほしい」というのが僕の一番の目標でした。最終課題を見ると、ちゃんとユーザーのターゲットを絞って、その人たちのことを知ろうとしていた形跡が認められます。ユーザー行動履歴を調べる社内ツールもそれなりに使いこなしていました。

もちろん、教えるって難しいなと感じることも多々ありました。毎日の振り返りでたくさん課題が残った。例えば新入社員のメンタル管理、スケジュール管理。これは採用方針とも関係することですが、今年はコーディング初心者の比率が高かった。そこまでの情報が事前にはわからなかったんですね。そうした課題を来年に生かしたい。そのためには、今年度と来年度の研修担当者の引き継ぎ作業は、必ず行うべきだと思いました。

デザイナーのスキル定義は、時代とともに変わるもの。僕らも常にヤフーのデザイナーのあり方を考えていかないと、手法を教えるだけに終わってしまいます。古い手法を教えるだけなら、新卒研修の意味がない。そういう点で、僕ら自身が常に『ヤフーのデザイナーとはどういうことをする人たちなのか』を考え続けることが大切だなと思うようになりました」

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「研修の成果としては、企業デザイナーとしての動き方、VDの作り方の基本は学んでもらえたと思います。VDに対する苦手意識を減らして、かつ研修課題を達成する。自分でもそこそこできるようになったという自信と興味を持ち続けてもらえればいいなと考えていましたが、その点についてもある程度達成感があります。

コミュニケーションという意味では、1年目と2年目社員との間にあった壁が研修を通してなくなったという気がします。相談会も「雑談でいいよ、簡単なことでも聞いて」と伝えていたので、そこに顔を出す研修生が多かった。今後、業務を進める時に頼ってくれると思うし、こちらも新卒の顔と名前を覚えることができた。社内の人脈づくりにも役立つ研修だったのではじゃないでしょうか」

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「研修の当初は見られたコーディングに対するネガティブ意識も、研修を進めるうちにだんだんなくなって、「コーディングって楽しい」というポジティブな意識に変わるのを目の当たりにしました。これが最大の成果ですね。

残された課題としては、この業界では技術が短期間に変わるので、常に教材の内容は見直さないといけないということ。新卒社員に古い知識を与えても仕方がないですし、今回の教材も完璧かというと、まだまだ改修の余地があります。TDスキルはレベルを下げているので教えきれない部分が数多くある。それを業務の中で学び直すことも必要だと思います」

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「そこは僕も強く思いますね。広く浅くやったので、教えきれなかったことも多い。新入社員には、学習意欲を継続させることが求められます」

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「業務の中で最も大切なことは、自ら学びにいく姿勢。ヤフーには新しいこと、自分に足りないことにチャレンジできる企業風土があります。今年度の新入社員もぜひその環境を活用して、成長してほしいなと思います」

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