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2018.10.30

先輩社員が育成カリキュラムをプランニング──現場での実践力を高めるヤフー新卒デザイナー研修の舞台裏

ヤフーでは、毎年数十人規模で新卒のデザイナー職を採用しています。2018年4月に入社した社員のうち、デザイナーとして採用されたのは38名。なかには美大で視覚デザインを専攻した人、情報系学科でプログラミングをしていた人など、学生時代の経験はさまざまです。

全員にできるだけ早く能力を発揮してもらうため、今年も4月から6月までの3カ月にわたり、密度の濃い集合研修が行われました。今回は、新卒デザイナー研修の運営を担当した先輩社員と、実際にその研修を受けた新卒社員に、怒濤の3カ月を振り返ってもらいました。

ワークショップを主軸にデザイナーの基礎スキルをバランスよく習得

ヤフーのデザイナー職は4月の入社時点では各部署に「仮配属」となりますが、その後3カ月間は先輩社員が作成した独自のカリキュラムを使った集合研修に参加します。

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▲ 2018年度の新卒デザイナー研修(ワークショップ)の風景

ヤフーではこうした集合研修を以前から行っており、毎年その内容は参加者たちの意見を取り入れて見直され、改善しています。2018年度研修でも、前年度に比べていくつかの進化がありました。

「それぞれの配属先で7月以降、実務に役立つための基礎力を養うことが新卒集合研修の目的です。社内のベテランデザイナーによる座学、新卒たちが共同で取り組むワークショップ、一人ひとりが取り組む課題制作という3つの要素は以前からありますが、本年度は実践力を高めるために、よりワークショップを充実させるようにしました」

と語るのは、人事組織も兼任するコマースカンパニーデザイン推進室室長の田部井伸弥。本年度の新卒デザイナー研修企画・運営の主担当者です。

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▲コマースカンパニー UX戦略室 デザイン推進室 室長 田部井 伸弥

座学・ワークショップ・最終課題の全課程に共通するデザイナー育成の基本方針も、その年ごとに趣が変わっていきます。それはヤフーにおけるデザイナーのスキル定義も年々変化しているからです。

「例えば、過去のウェブデザイナーはウェブの画面に閉じてデザインなどを行っていました。しかし近年、スマートフォンやウエアラブルデバイス、スマートスピーカーなどの多種多様なデバイスが出現したことも受け、より生活に根ざしたユーザーの体験(UX)を設計することの重要性が高まってきています。デザインを行う背景としてユーザー体験の調査・分析および設計が欠かせなくなったのです。

そこで社内のスキル定義も、その時々のデザイナーの役割に応じて再編しています。今のデザイナーは従来の画面設計、視覚デザイン、HTMLやCSSなどの実装とだけでなく、生活に根ざしたユーザー体験を評価・分析・設計できるスキルをバランスよく理解していることが求められる条件となったのです」(田部井)

もちろん同じデザイナー職でも、新入社員のバックグラウンドはさまざまです。美大などで視覚デザインを専攻し、PhotoshopやIllustratorなどのデザインツールの知識はある一方で、コーディングに関してはほとんどやったことがないという社員もいれば、情報学科の出身でプログラミングの基礎はあっても、学校の授業でPhotoshopを使うことはあまりないという社員もいます。

新卒デザイナーごとにこのスキルの特性がある前提の上で、新卒研修ではあえて、例えば視覚デザインが得意な新卒であっても、ユーザーインタビューやHTML/CSSなどのコーディング知識もあわせて扱っています。

「前後の工程を知っていて、それに関わることで初めて、デザイン工程の全体を俯瞰して考えられるようになり、結果としてユーザーにとって使いやすいプロダクトが作れる」と田部井が言うように、デザイナーに求められるスキルはより複雑で広くなり、自分の特性を生かしながらも学ぶべきことは多くあります

事前アンケートで新卒たちの潜在スキルを把握

3カ月の集合研修で基礎的スキルに加え、さらに正式配属後の実践力を高めるという課題に対して、講師たちはどう対応していったのでしょうか。
「まず、新卒たちそれぞれの入社前時点でのスキル把握に努めました。これは以前も行っていたんですが、本年度は新たなスキル定義に沿って、アンケート項目を見直し、新入社員が自己採点をしやすいように変えました。

例えば、Photoshopに関するスキルを、学生時代から使いこなしていた人、触ったことはあり教えてもらえればできる人、全く触ったこともない人など5段階に分けて自己申告してもらうのです。コーディングの知識についても同様で、アンケート結果を研修企画担当者で分析して、事前の準備を行いました」

と語るのは、田部井とともに新卒デザイナー研修の運営に携わった田代芳宏(メディアカンパニー企画デザイン部リーダー)。講義やワークショップで使うテキストや資料の内容も改めて精査したといいます。

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▲メディアカンパニー 検索統括本部 リーダー 田代 芳宏

「研修テキストや資料は社内の若手の先輩社員が作成するのですが、自身が新卒だったころの経験を生かして、これほどわかりやすい教材はないと思うぐらいの出来に仕上がりました」(田部井)

例えば「HTML基礎」の講義では、「ウェブサイトはどうやって表示されてるの?」という初歩の問いかけから始まり、ウェブブラウザの基本的な仕組みの解説を行います。HTMLコーディングも、「body」「h1」「h2」「p」タグなど、基本中の基本から始まり、徐々にレベルを上げながら最後は誰もが一つのページをコーディングできるところまで導きます。

研修生の声を受け、毎日カリキュラムを見直す

研修における指導体制の見直しも、同時に行われました。

「集合研修の指導にあたるのは、新卒2年目の社員に加えて、社内では“黒帯”と呼ばれるレベルのエキスパート社員たちです。本年度は指導チームの主幹部分を黒帯社員たちに担当いただきました。それぞれ業務の中核にいて忙しい人たち。それでも、新卒育成のために役立つのならと、積極的に指導チームに協力してくれました」

指導チームは講義やワークショップが終わった後も、新卒たちが自由に質問できるよう「相談会」を随時開催し、講義では恥ずかしくて質問できなかったようなことも、個別指導では気やすく聞くことができるように。指導チームのスキルレベル向上と密着度合いを深めることで、研修効果を高めようとしたのです。

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▲中間レビュー会の様子

さらに重要なのは、研修期間中も講義内容やカリキュラムの見直しが随時行われたことです。

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「研修中は毎日新卒社員たちにアンケートを採り、講義は分かりやすかったか、進度はこれでよいのかなどを聞くようにしました。それを受けて、指導チームの中での振り返りも毎日やりました

今日の研修で良かったことと悪かったことを分析し、明日から変えるべきこと、来年度から変えるべきことをそれぞれ決めるのです。すぐにでも変えられること、例えば講師の話し方、教材の取捨選択、ワークショップでの机の配置や休憩時間の設定などは、明日からどんどん変えるようにしました」(田代)

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「常日頃、職場ではサービス改善のために、PDCAを早く回すことの重要性を説いています。研修も新卒に対して企業ができるサービスの一環とも言えますから、ここでもPDCAを早く回すことが欠かせないのです」(田部井)

先輩社員たちの人的リソースの配分や指導内容の見直しを毎日行うなど、新卒研修にかける熱量は高く、全員が真剣に取り組んでいます。

「ウェブにおけるデザインの重要性を認識し、これだけの数のデザイナーを一斉に採用する企業はそれほど多くはないと自負しています。だからこそ、彼らを早く一人前にしなければという使命感が既存の社員の間にも強いのだと思います」(田部井)

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刺激的だったユーザーインタビュー

こうした研修チームの努力を、新入社員たちはどう受け止めたのでしょうか。

2018年度入社の一人、美大の視覚デザイン科を卒業後、他大学院でインタラクションデザインを専攻し、卒業制作ではメディアアート作品を提出したという大平端生に話を聞きました。

「デザインツールは使いこなせるものの、UI/UXについては全くの素人で、コーディングも学部1年生の授業でやったきりで、すっかり忘れていました」

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▲メディアカンパニー デザイナー 大平 端生(2018年度新卒)

大平にとって、一貫したウェブデザインの知識を徹底的に学ぶ3カ月の怒濤の研修は、自分にはまだハードルが高いのではないかと最初は思ったそうです。

「最初のほうの講義は、進度が速くて全然ついていけませんでした。でも、アンケートにそう書いたら、他の研修生も同じことを感じていたのでしょう。翌日からペースが変わって、次第についていけるようになりました」

「Yahoo!トラベルの、夏のお出かけ特集のランディングページ」をイチから制作することが、全員に与えられた共通の課題。この課題に一人ひとりが取り組み、7月の研修終了時に発表することになっていました。その一環として行ったユーザーインタビューの経験は大平にとって新鮮だったといいます。

「私は、既婚者や子育て中の女性ユーザーにとって、魅力のある旅行情報をどうやったら発信できるかを主に考えました。そのためにはユーザーの声を聞く必要があります。

社内公募で集まってくれたヤフーのママ社員たちにインタビューができたんですが、普段からそうした人たちの声を聞くことが少ないし、大学の実習でもやったことがありません。ああ、ママさんたちの旅行ニーズって、こんな感じなんだととても驚きでした」

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そうしたユーザー調査と、視覚デザインおよびコーディングを経て完成したのが、以下の画像です。もちろんここまでページを完成させるために、コーディングも自分で行いました。

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「美大出身の私にはコーディングに苦手意識がありましたが、いざ取り組んでみると結構楽しい。今後も視覚デザインを自分のスキルのコアにはしていくつもりですが、コーディングももっと勉強したいなと思うようになりました」

大平は、エキスパート社員たちが親身になって話を聞いてくれる相談会にも積極的に参加。最終課題制作にあたっては、同期のメンバーにプログラミングを教えてもらったり、逆にデザインツールの使い方を教えたりと、新卒同士の助け合いも頻繁に行いました。それがこの新卒デザイナー研修で学び抜くための重要な要素になったと語っています。

新卒育成に、全力で研修内容を考える先輩社員たち

研修生の最終課題については、一人ひとりがプレゼンテーションを行った後、黒帯たちが、一つひとつの作品について丁寧なコメントをつけて返しています。

コメントも以下のようにきわめて具体的な内容が書かれており、指導チームの新卒育成にかけるエネルギーの高さが現れています。

――黒帯からのコメント――

「要素の基本的な理解は十分にできています。表示面では必要十分なコーディングがされており、パッと見はそのままユーザーに提示できるページになっています。見出しがついていないsectionが比較的多いためか、HTML5 Outlinerなどを使用するとタイトルのないセクションが見られます。

また、写真がpng画像として書き出されており、500kb近くあるものもあることから、パフォーマンスをもっと最適化できた部分は見受けられました。簡潔なコーディングはできていると思いますので、今後も実力を磨いていって、複雑な実装もできるようになっていってください」

集合研修を終えた新卒デザイナーたちはその後、仮配属先の部署で、その部署独自の職場研修を受けたり、実務に触れながらのOJTを受けたりして研修を継続していきます。

大平の場合は、2018年9月現在はメディアカンパニーの職場研修が続いています。

しかし、「ヤフーでなんとかデザイナーとしてやっていける自信と覚悟」のようなものは、集合研修の3カ月で身についたといいます。総じて、「新卒育成について、ヤフーがこんなに手厚い施策をとっていることには、正直驚きだった」と率直な感想を述べています。

来年度の新入研修については、入社2年目の社員も含めてまた新たに体制を検討するという。
「できれば、それに協力したいですね。今年受けてよかったこと、まだ改善の必要なことなどいくつかの経験とノウハウを、今度は教える側になって発揮したいと思います」(大平)

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「本年度の研修のスタイルがその後の社員たちのパフォーマンスにどのような影響を与えたかは、もう少し時間が経ってからでないと分かりません。

しかし、デザイナーとして新たなスキル定義を明示しながら、その基礎をできるだけ早く身につけてもらうという所期の目標はなんとか達成できたのではないかと評価しています。今後も絶えず研修内容の見直しを行い、より充実した研修体制を整えていきたい」

と、怒濤の3カ月研修を振り返りつつ、田部井はこれからの研修体制をさらにグレードアップするべく抱負を語っています。

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