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2021.08.16

ヤフーが「AIテックカンパニー」を実現する条件と求める人財とは——CDO谷口博基が目指すデータ戦略

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ヤフーは膨大なデータを活用し、日々、サービスの改善に生かしています。社内では、最先端のAIを使ってデータを解析するデータサイエンティストや、データが示すファクトに基づいてサービス改善に取り組むエンジニアが活躍しています。 その他、企画・マーケティング・営業なども合わせた総力によって、「AIテックカンパニー」を実現しようとしているのです。
2021年4月から、そんなヤフーのデータ戦略を率いるCDO(チーフ・データ・オフィサー)に就いた谷口博基に、前回の「ヤフーのデータ戦略を率いる新CDO谷口博基のシゴト観」に続き、ヤフーのデータ戦略と、その実現のために必要としている人財について語ってもらいました。

プロフィール

谷口 博基(たにぐち ひろき)
CDO(Chief Data Officer)
東京大学工学系研究科修了後、マッキンゼー入社。在籍中にカリフォルニア大学バークレー校にてMBA/MOT取得。 マッキンゼーではハイテク・製造業を中心に日本企業のグローバル化、提携、買収、新規事業開発、R&D戦略など幅広い案件に関わる。 2013年1月にヤフー入社後は、コーポレート統括本部企業戦略本部総合事業企画室長として株式会社一休の買収、BuzzFeed Japan株式会社設立などを担当。 その後、データ&サイエンスソリューション統括本部D&S事業開発室長、データソリューション事業本部長を経て、2021年4月からCDOに就任。
干場 未来子
PD統括本部 コーポレートPD本部 採用企画部
マーケティングソリューション事業で営業、エデュケーション、プロダクトマーケティング、マーケティングチームなどを経て、2016年に人事へ異動し、採用ブランディングを担当。

データ活用の目的は、より便利で、楽しいユーザーの生活のため

まず、ヤフーにおけるデータは、どんな特性と可能性を秘めていると考えていますか。

ヤフーの持つデータは大きく分類すると二つあります。一つは各サービスを日々利用いただいているユーザーのデータ。 もう一つは「モノ」や「コト」に関するデータ、たとえば商品や旅行のプラン、ニュースの記事など、ユーザーが見たり買ったり探したりするサービスのデータです。 これらの、種類、量ともに膨大な二つのデータがヤフーの強みになっています。
どのような特性のユーザーが、「Yahoo!検索」でどんなことを検索し、「Yahoo!知恵袋」でどんな質問や回答をし、「Yahoo!ショッピング」や「ヤフオク!」でどんなものを購入しているのか、そしてどのようにその代金を決済しているのか。 こうしたデータが日々集まっているわけですが、その量や頻度が豊富なため、データを通して人々の関心や世の中のトレンドをきっちり捉え、それをビジネスに生かすことができるわけです。
このように、私たちはユーザーのより便利でより楽しい生活をサポートするためのサービスを日々創出し、改善しています。

▲CDO 谷口 博基

さらに言えば、ヤフーは独立した日本の会社。つまり、データ活用に関することも含めた重要な意思決定権がすべて日本にある、という特徴があります。これは、日本の消費者を理解し、日本の消費者のためにサービスを提供する際には重要な条件になります。 どういうサービスを作るべきか、どういう課題があるのか、どのようにデータを活用すればよいのかといったことを、同じ視点で考えられるし、意思決定もすばやく行うことができます。
また、ヤフーが通信キャリアであるソフトバンクと同じグループであるという点も、とてもユニークだと考えています。 ソフトバンクとヤフーは、通信キャリアとインターネットサービス事業者が互いにシナジーを生み出せている。この関係は、前職の経営コンサルタント時代から、面白い構造だなと思っていました。

「内向き」データ活用。社内各部署のデータ連携でサービスの質を向上

データ&サイエンスソリューション統括本部ができたのは2015年のことでしたよね。谷口さんは、ここにさらなるデータ活用を促すために、経営へコミットされようと思ったのですね。

はい。データ活用を「内向き」と「外向き」の両方で進めていきたいと思いました。内向きというのは、ヤフーの社内におけるデータ連携です。データはメディア、広告、コマースなどさまざまなサービスから集まります。 これまで、サービスから収集したデータは、同じサービス内では十分に整備・活用されていたものの、それを別のサービスに活用するという視点が不十分だと思ったのです。 たとえば、「Yahoo!ニュース」のデータを「Yahoo!ショッピング」に生かすといったように。このサービス間の連携を強化したいと考えたのです。
ヤフーは多くのサービスを提供していることが強みですが、それをほかの事業に横展開してさらに活用できれば、その強みがさらに増します。
しかし、これはそんなに簡単なことではありません。というのも、たとえばAという事業を担当していたとすれば、それを伸ばしたいと考えるのは当然です。Bという別の事業も伸びればいいけれど、どうしても自分が担当するAを優先したくなってしまう。 つまり、部分最適になるけれど全体最適とは言えない、ということに陥ってしまう可能性がある。これを解消するために、事業部門を越えてデータを活用できる仕組みやルールを作り、全社でデータを共有し活用していく。これが内向きのデータ活用モデルですね。

▲PD統括本部 コーポレートPD本部 採用企画部 干場 未来子

部門間のデータ連携を強めるために、具体的にはどんな施策を考えたのですか。

CDOがイニシアチブをとって、率先してルールを決めることもその一つですが、あくまでも上から押しつけるのではなく、社内のデータ連携を進める動きをCDOがサポートしていくことが重要です。
とはいえ、それで各事業部の自由度が制限されてしまっては、事業のスピードが削がれてしまいます。どこまでをCDO管轄で進めて、どこから各事業部に任せるかのバランスが重要です。これに正解はないので、現在も試行錯誤中です。

いわば集権化や分権化ですね。いま各企業が取り組んでいるDX(デジタル・トランスフォーメーション)でも、全社的にDXを推進しようとするものの、部門間連携がなかなか進まないという課題があがることが多いのだとか。

ヤフーのデータサイエンスを活用したサービス改善は、まだ現在進行中です。ただ、試行錯誤の数はほかの企業に負けていない。打率で言えばまだ1~2割程度ですが、打席数だけは多い(笑)。 もちろん、打席に立つのは各事業部の担当者、データサイエンティスト、エンジニア、マーケティング、営業まですべての職種の人たちが関わるものなので、彼らが打席に立てる機会を増やし、経験を積む場を用意していきたいと思っています。
ヤフーは「マルチビッグデータカンパニーになる」と、現社長の川邊が就任と同時に宣言していますし、前社長の宮坂学さん(前ヤフー取締役会長、現東京都副知事)も「データドリブンカンパニー」となることを掲げていました。 また、つい先日も、LINEとの経営統合を機に「AIテックカンパニー」を目指すと発表しております。このように言葉は異なるものの、ヤフーは常に同じ目標を発信し続けているのです。そうした歴代のトップ陣の理解と土台をスタートにして、しっかり成果を出していくことが自分の役割だと考えています。

「外向き」のデータ活用。他企業の事業にヤフーのデータを活用してもらう

次は「外向き」のデータ活用についてうかがいます。ヤフーが保有するデータの価値を広く社外の事業者にも伝え、そのデータ活用を事業成功に生かしていくデータソリューション事業です。谷口さんはCDO就任前から、熱心に進められていましたね。

2019年10月から開始したデータソリューション事業は、ヤフーのデータから得られるインサイトを提供、外部の企業、自治体、そして大学などアカデミックの領域において、その事業をサポートしていくビジネスです。
実はヤフーの広告事業やコマース事業において、これまでもデータを使ってお客様の事業のお手伝いをしてきました。ただ、そうした既存事業におけるデータ活用ではなく、データ自体を新しい価値にして外部にインサイトとして提供することに、ニーズとチャンスがあると考えたのです。
たとえば、企業の戦略を立てたり、新商品を企画したりする際、必ず消費者のニーズやトレンド、将来にわたる需要動向を見極めなければなりません。そのときにヤフーのデータがきっと役に立てる。これまで経営戦略立案、商品開発、営業プロセスやマーケティング改善などのお手伝いしてきました。

データドリブンな経営戦略立案やデジタルマーケティングを始める企業は増えていますが、「データを活用する」といっても、どのようなデータを選択すればいいのか、どのように分析すればいいのか、どのように活用して商品を開発したらいいのかが明確でないケースも多いと思うのです。 そもそも社内に消費者に関するデータが少ない企業もあるでしょうし、データサイエンティストやアナリストが十分に在籍する企業もまだ少ないですよね。
ヤフーでは、自社でデータを分析できるツールを提供しています。これはデータサイエンティストがいなくても、ウェブ上で専門家でなくても簡単に扱える設計になっています。
これに加えて、お客様の課題をうかがいながら、データを分析し、提案を行うコンサルティングサービスも提供しています。

人流データの提供で自治体の感染症対策をサポート

自治体や大学にはどのようなサービスを提供しているのですか。

新型コロナウイルスが拡大してから、都道府県をまたいだ移動、人流の抑制が議論されるようになりました。自治体にとって、これが感染症を抑えるための重要な手立ての一つになっています。
人の動きをデータで可視化する手軽な方法が少ないなか、われわれのソリューションには人の流れの多さを示すデータが含まれていましたので、それらのデータを期間限定で47都道府県と政令指定都市へすべて無料で提供しました。それが自治体で私たちのソリューションサービスを活用していただく大きなきっかけになりました。
また、自治体が政策を作るとき、市民の困りごとをデータで把握したいというニーズもあります。人々の困りごとは検索データに出やすく、たとえば「補助金 いつ」「保育園 空き」といった検索ワードで調べます。そうした市民の声を活用しながら政策を作りませんかと提案すると、受け入れてくれる自治体は多いですね。
大学からは、データサイエンスの研究や、授業でヤフーのデータを活用したいという要望が多いです。人流データと社会的なアウトカムの相関を見たいといった相談や、授業でも、行動データを分析できるツール「DS.INSIGHT」を利用したいという声をたくさんいただいています。
「DS.INSIGHT」には、ヤフーに集積された生のデータが集まっています。ほぼリアルタイムに、通常のデータ解析ソフトウエアよりも簡単に仮説検証が行えるので、データサイエンスの授業の教材にはぴったりだと思います。

データソリューション事業をこれからのヤフーの大きな柱に据えていくことが、谷口さんの構想なのですね。

データを軸に企業活動や自治体のサービスのあらゆるシーンをお手伝いすることが、ヤフーのデータ活用の目指す姿だと考えています。消費者のニーズや世の中のトレンドを分析して戦略を立て、製品を作り、サービスを開発する。さらに、製造から物流・販売に至るまでのプロセス全体を、消費者の声を聞いて、改善につなげる——そうした企業活動全体をデータで支援していけるようになりたいと考えています。
事業化されてから日が浅いので、売上はまだZホールディングスグループ全体の1%にも達していません。といっても、1%でも100億円なのですでになかなかの規模なのですが(笑)。しかしこれからヤフーの大きな柱となるためには、少なくも決算発表のセグメント情報に、「データソリューション事業」が独立して項目化されることが当面の目標です。 もちろん、その間にもヤフーの各事業が成長していくので、項目化されるためには、事業全体の成長スピードに負けない戦略が欠かせませんね(笑)。

CDOは「変数の多い連立方程式を解く」仕事

こうした事業を推進していくうえで、CDOのリーダーシップはきわめて重要ですね。

CDOは「変数が多く、かつ制約条件が常に変化するような、連立方程式を解く仕事」だとつくづく思います。最終的なKPIは、売上や利益やユーザーの数を伸ばすというシンプルなものですが、それを達成するために関わる社内外のステークホルダーが多い。データ活用について、それぞれ思惑があり、利害がある。それらが変数や制約条件になるわけです。
CDOとして、データサイエンスの知識だけではなく、経営がどこに向かっているのかを理解していなければ、正しいデータ戦略を作ることができない。一方で、現場の課題をわかってないと、いくら戦略を描いても絵に描いた餅になってしまうので、偏らず広く現場の声を拾うようにしています。全員を満足させる解を得ることは難しいけれど、私はもともと理系出身ですから、制約が多ければ多いほど、武者震いする方なんです(笑)。

もちろん、数学の連立方程式は答えが定まっていますが、われわれが解こうとしているビジネスの方程式では固定的な答えはありません。その時点での最適解はあるかもしれないけれど、それを導けば仕事は終わりというものでもありません。方程式を解くのに、いくら時間をかけてもいいというわけにはいかないのも、数学と違うところです。
環境の変化が速い世界ですから、新しいビジネス課題に1年かけていてもいられない。まずは近似値を出して、それを試し、もしダメだとわかったら、別の解法を探る。それを繰り返さなければならない。
でも、だからこそ面白いと思っています。ヤフーには、難しいけれど解きがいのある問題が山のようにある。だからヤフーで働く人も、チャレンジしがいのある山があるのなら、まずは登ってみようというマインドの人にぜひ来てほしいですね。

「創造」「普及」「活用」それぞれの立場で活躍できるAI人財とは

ヤフーがこれからのAI人財に求めるものは何でしょうか。

ヤフーでは「AI人財」あるいは「Aデータ人財」という表現をしていますが、それは必ずしも機械学習やデータ解析の知見を持つ、AI技術者やデータサイエンティストだけを意味しているのではありません。もちろん鋭意募集中ではありますが、ヤフーが必要とする「AI人財」は、データの「創造」「普及」「活用」というそれぞれの役割で活躍できる人財のことです。
いまの「AI人財」を20~30年前の「ウェブ人財」に置き換えるとわかりやすいかもしれません。ウェブ人財における「創造」は、HTMLやCSSを書ける技術者でした。ただし、情報発信にそのような専門性が必要とあってはウェブの世界はなかなか広がらない。そこで、HTMLを意識しなくてもホームページを簡単に作れるツールを開発できる人が「普及」の役割を担いました。
そうしたツールが普及すると、誰もが簡単にお店のサイトを作れるようになります。たとえば、花屋のご主人もれっきとしたウェブの「活用」者、ウェブ人財です。インターネットサービスを提供するヤフー側の視点で言えば、ウェブサービスを企画する人、それを形にするエンジニアやデザイナーが、「活用」という役割におけるウェブ人財ということになるでしょうか。
そして、誰もがウェブを活用してサービスを提供することが当たり前になり、それを使って自分の生活をリッチにしていくユーザーが爆発的に増えていく。
ヤフーでは常にユーザーファーストの視点で、サービスの改善を進めます。創造、普及、活用、それぞれの役割がバランスよく果たされることでユーザーの利便性や嗜好性を理解して、サービス改善を進めることができるのです。このように「ウェブ人財」で起きたような役割分担が、同様に「AI人財」においてもなされると考えています。

ついAIのコアな技術部分に注目しがちですが、そうではないのですね。

「創造」における人財——機械学習のアルゴリズムやモデルを開発するエンジニア、データの収集・解析にあたるサイエンティストはもちろん重要です。ただ、その技術をサービスの発展段階に沿って活用しなければ、私たちの事業も拡大できません。
拡大の手法にはさまざまなパターンがあると思います。たとえば、広く社会に出たり、企業に赴いたりして、データ活用の価値を伝えるエバンジェリストも必要です。データ活用を具体的に進めるトレーナーやコンサルタントも欠かせません。また、データ活用のルールを作り、安全・安心に活用されることを目指すデータガバナンス人財も非常に重要です。
「活用」においては、ヤフーの社員全員がその役割を担うことになります。
企画もマーケティングも営業も、人事も総務も法務も、すべてのヤフー社員がAIやデータのことを理解する。そして、AIをどう使うとユーザーの利便性が向上し、データをどう活用すると企業の価値が向上するのかを真剣に考えることができるようになれば、そのとき初めて「ヤフーはAIテックカンパニーである」と胸を張って言えるようになると思うのです。

いまこそ、フロンティアを果敢に切り開く人財が必要

どの役割で活躍するためにも、これからはAI技術やデータを意識した仕事のスタイルが必須ということですね。最後に、「ヤフーのデータ戦略に関わってみたい」と考える人たちに、メッセージをお願いします。

ヤフーは、おそらく世界でもあまり類を見ない種類と量のデータを扱っています。しかもそれは、時々刻々と変化する生のデータばかりです。分析するにしても、活用するにしても、これに触れられるということ自体が、とても希有なことだと思います。
もう一つ、「データと事業との距離が近い」という点もヤフーのいいところです。サイエンティストがデータを見て、サービスをこう変えたいと思えば、すぐにテストすることができます。ファクトに沿って講じた施策のインパクトがすぐにわかるわけです。事業の意思決定者がすぐ隣にいますから、自分たちの提言が実際に事業に反映されるまでの時間もとても短い。これは本当に面白いですよ。

さらに、いまはヤフーを含むZホールディングス傘下のグループがどんどん拡大している時期です。グループ内にたくさんの仲間が増え、私たちが扱うデータの量と質も増えていきます。それだけにチャレンジすべき課題は増えていますが、残念なことに人財が追いついていないのが現状です。
言ってみれば、開拓すべきフロンティアがどんどん広がっているのに、そこに分け入る開拓者がまだまだ少ないのです。だからこそ、これはチャンスと言えるのではないでしょうか。
もちろん、ヤフーのデータ活用が何のために必要かと言うと、それはユーザーのみなさんの便利で楽しい生活のためです。当たり前ですが、ユーザーが望まないようなデータの使い方をすることは決して許されません。ユーザーのプライバシーは何よりも最優先なのです。
言葉を換えれば、データ活用は単に金儲けのためだけではない。順番としては、あくまでもユーザーに便利と楽しさを提供した結果としての売上であり、収益だということですね。そのことはぜひ忘れないでいただきたいと思います。

ヤフーのCDOとしてのデータ戦略への思いや構想がとてもよくわかりました! 本日はどうもありがとうございました。



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