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2022.11.21

「楽しい」から始まる学びを 知識集団「QuizKnock」の企画力とアイデアの源とは

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東大クイズ王・伊沢拓司さんを中心に立ち上げた東大発の知識集団「QuizKnock」。「楽しいから始まる学び」をコンセプトに、ウェブメディアやYouTube、ゲームアプリなど、さまざまなコンテンツを発信しています。

特に2017年にスタートしたYouTubeチャンネルは、独創的なクイズ企画の数々で人気を集め、登録者数194万人(記事執筆時)を突破。現在はサブチャンネル含め4つのチャンネルを展開するほか、企業とのコラボ動画も人気を集め、ネット時代に「クイズ」と「学び」の新しいビジネスモデルを提示し続けています。

日々アップされる動画は、どのように企画され、制作されているのか。また、そのアイデアを生み出す土壌はいかに作られているのか。数々の企画を生み出し、自らも動画に出演する、QuizKnockのふくらPさんと山本祥彰さんに、アイデアの発想とその実践について話を聞きました。

ふくらPさん
1993年、徳島県生まれ。高校3年のときに第31回「全国高等学校クイズ選手権」全国大会出場。東京工業大学在学中の2016年にQuizKnockにライターとして参加し、2017年にはYouTubeチャンネルの開設を提案。現在はQuizKnockの運営会社である株式会社batonで動画の企画や出演を担当している。タレントとしてテレビ出演するほか、クイズ作家・謎解き作家としても活動する。
山本祥彰(やまもと よしあき)さん
1996年、埼玉県生まれ。埼玉県出身。高校3年のときに第34回「全国高等学校クイズ選手権」全国大会出場。早稲田大学在学中の2017年、ふくらPから声をかけられQuizKnockにライターとして参加。現在は株式会社batonでQuizKnockのYouTube出演や謎解き制作、クライアントワークなどに携わる。

ひと月に20本以上の案件が同時進行

QuizKnockではWebメディア、YouTube、アプリ、イベントなどさまざまなサービスが展開されていますが、改めてふくらさんと山本さんの役割を教えてください。

ふくら:
QuizKnockはYouTubeに4つチャンネルがあり、メンバーがクイズや謎解き(※1)に挑む動画を制作しています。中にはクライアントがついた案件動画もありますが、自分はその全体を俯瞰(ふかん)する、YouTubeのプロデューサー的な役割です。あがってきた企画に目を通したり、編集をチェックしたり、全体を見渡しつつ出演もしている感じですね。

※1「謎解き」とは、知識だけでは解けず、解答者のひらめきを必要とする問題を指す。

山本:
自分の役割は3つあって、YouTubeの出演と、謎解き制作の監修、そして案件動画の企画・ディレクションですね。社内の組織で言うと、通常動画(QuizKnockのYouTubeチャンネル)を「YT企画1」、案件動画や謎解きを「YT企画2」というチームで担当していて、僕は後者に所属(※2)しています(※2 所属は取材時点のもの)。

ふくら:
僕はYT企画1の所属なんですけど、YT企画2も見ています。

山本:
YouTube全体のプロデューサーだからね。

お二人はそれぞれ、月に何本くらいの案件に携わっているのでしょうか?

山本:
YouTubeだけでなく、クイズや謎解き制作まですべて含めると……案件としては20本近く同時に走っていると思います。

ふくら:
通常動画は、メインチャンネルで月に20本くらい、4チャンネルすべて合わせると30本は超えますね。ただ、うちはYouTuberのなかでも「ため撮り系」なんです。その日に撮ったものをすぐアップするのではなく、多めに蓄えてゆっくり出していくので。だいたい、1本撮ってからアップするまでに1カ月から2カ月はかかっていますね。

公開まで長い時間をかけた企画もありますよね。「【東大懸賞】7ヶ月かけてパズル雑誌を解きまくったらどれくらい当たるのか?」とか。

動画「【東大懸賞】7ヶ月かけてパズル雑誌を解きまくったらどれくらい当たるのか?」。パズル雑誌を1万円分購入し、QuizKnockメンバーが7カ月かけて解いて懸賞に応募。最終的にどれくらい当たるのかを検証した

山本:
ありましたね。ふくらさんが自分の担当分を応募し忘れて、予定より期間が延びたという(笑)。

ふくら:
そうそう(笑)。そういう企画もあるので、「同時に走っている数」となると、もっとたくさんの数を見ていることになると思います。

なぜ面白いのかを言語化し、エッセンスを取り入れる

毎月それだけの数の案件をこなすには、必要なアイデアの数も相当なものになると思います。案件の企画は、どのようなところから発想されるのでしょうか?

山本:
案件動画の場合は、「クライアントが伝えたい思い」がひとつの軸になっています。視聴者に届けるためには企画全体の面白さも必要ですが、面白さだけに振り切ってもいけません。
伝えたいことの優先順位を書き出して、これをうまく表現できる最も面白い形は何だろう、という“掛け算”をめちゃくちゃ考えるようにしています。企業理念を伝えたいなら、その理念に合うようなフォーマットはなにか、というように。

謎解きだと答えのワードが指定されていることが多いので、その「縛り」が軸になることもありますね。「健康」が答えなら、健康に関するワードを書き出してみるとか。いずれにせよ、相手の業界のことをきちんと理解していないと的外れな“掛け算”をしかねないので、ときにはクライアントさんに勉強会を開いてもらうこともあります。

なるほど。一方、通常動画ではそうした「軸」や「縛り」がない状態で発想されることになりますよね。

ふくら:
そうですね。でも“掛け算”は、ひとつの発想法として共通しています。うちの場合、掛け算の片側は「クイズ」「東大」「しりとり」などある程度決まっているので、それとなにかを掛け合わせることで思いつくこともありますし。

あとは「常識を破りたい」と思って作るときもあるんです。「人は息をする」とか「クイズには答えがある」とか、そういう常識をいっぱい書いていって、それの逆を考えてみる。
たとえば、今年2月に公開した動画「目を閉じたまま動画を再生してください」がそうですね。「動画は目で見る」という常識を反転して、「じゃあ目で見ない動画ってなんだろう」と考えて思いついた企画でした。

動画「目を閉じたまま動画を再生してください」。現時点で320万回以上再生されている

企画のヒントを得るために、普段からインプットされているものはありますか?

ふくら:
クイズに限らず、広くエンタメというくくりで、「これはなにかに使えないだろうか」と気にして見るようにしています。定期的に「自分が面白いというものを持ち寄って、それがなぜ面白いかを考える会」を開いています。

面白いと思うものなら、本当になんでもいいんです。Wikipediaにあった「ウニ丼」という項目が妙に充実していたとか、あるカードゲームでコンボの仕組みがよくできているとか、あの番組のあのトークが面白かったとか。

その面白さをみんなで考えた結果、「あのトークは即興で変なことを言うから面白いんだ」というような言語化ができれば、「YouTubeでも即興で変なことを言う企画ができるかも」とエッセンスを取り込むことができます。「人間はどんなものを面白いと考えるのか」を頑張って考えて、それをインプットしている感じですね。

山本:
謎解きでも、いろんなエンタメから要素を取り出して、それを組み直すことをしています。たとえば僕は『ドラクエ』が好きなんですが、クエストが与えられる→クエストをクリアする→次のクエストが与えられる→最終的に魔王を倒す、という一連のシステムは、謎解きと相性が良いと感じています。

エンタメ以外だと……勉強している中で出会った偶然の面白さ、を大事にしています。僕はこの4月に漢検1級に合格しましたが、漢字を勉強すると面白い漢字が見つかるんですよ。メモ用に僕のみのDiscordのサーバー(※3)を作っているので、面白いものはそこに書きためるようにしています。
※3 コミュニケーションサービス「Discord」では、複数のユーザーと交流するための「サーバー」と呼ばれる招待制コミュニティを作成でき、さらにサーバー内ではテキストや音声、ビデオ通話で交流する「チャンネル」を目的やジャンルごとにいくつも立ち上げられる。

もし良かったら、メモした内容をいくつか教えてもらえますか?

山本:
いま見てみますね……。たとえば、「一人(ひとり)」「二人(ふたり)」という書き方があるじゃないですか。これ、「三人」だと「みたり」という読み方もあるんですよ。しかも「四人(よたり)」「五人(いたり)」と続いたりする。あとは……「麒麟(きりん)」という漢字は、実はどちらも一文字で「きりん」と読む、とか。

ふくら:
へぇ~、知らなかった(笑)。

クオリティを保つために設けた「企画のガイドライン」

動画制作は「YT企画1」「YT企画2」というチームで動かれているという話がありました。チームでアイデアを出し合うときは、どのように進めているのでしょうか。

ふくら:
チームの連絡ツールはSlackで、僕から「こういう系の企画がほしいです」と枠を提供することもありますね。あと、みんなで対話をすると他の人の考えに誰かがアイデアを足せるので、よくグループ通話をしています。

山本:
YT企画2は少人数なので、集まって話し合うことも多いです。そこら辺にいるふくらさんを捕まえることもあるし(笑)。

ふくら:
5分ぐらいの相談のときもあるよね。

山本:
「人狼でこういう企画をやろうと思うんだけど、どう思う?」とか。やっぱり、一人だけで考えると行き詰まることもありますし、話しているとお互いの足りない部分を補えますから。

お二人ともリーダー的な立場だと思いますが、「アイデアを出しやすい場」を作るために心がけていることはありますか?

ふくら:
難しいですよね。「こんなこと言ったら変なんじゃないか」と思われるとアイデアは出てこないし、だからといって面白くない企画を「面白いね」と通すわけにはいかないし……。

まず、意見をするときはロジカルに理由を言うようにしています。「こういう点とこういう点が改善されたらいいね」とか「ここが何とかなればできると思うから、もう1週間考えてみて」とか。「もし自分の中で『ないな』と思ったらボツにしてもらっていいから」と、相手に委ねることもありますね。

山本:
動画でも謎解きでもクオリティガイドラインを設けていて、「これを満たしていないのでNG」と説明できるようにしています。最初から「やらないこと」を決めておけば、ボツになった人も納得しやすいと思います。

たとえばQuizKnockの謎解きは、解けなかった人が答えを見たときに、「解けるはずだったのに!」「悔しい!」という気持ちになることを大事にしています。「こんなの解けるはずない」と思われないように、ちゃんと答えへの導線を作りましょうとガイドラインで定めています。

ふくら:
YouTubeだと「釣りサムネはしない」でしょうか。最初からクオリティが高いものを出してもらうために、ガイドラインはやっぱり必要ですね。

QuizKnockは株式会社batonが運営し、QuizKnockメンバーのみなさんもbatonに所属されています。社内のコミュニケーションを活性化するために、取り組まれていることはありますか?

山本:
週に1~2回、業務時間外に誰でも参加可能な「クイズタイム」があります。クイズをやったことがない社員に、クイズについて分かってもらおうと始めたものなんです。うちの会社、早押しボタンはいっぱいあるので、それをバッと並べて。

ふくら:
この前は「自分に関するクイズを作って出す」のをやりましたね。クイズを作る経験もできるし、自分のことを知ってもらおうという狙いで。山本はどんな問題だったっけ?

山本:
「山本が最近18万円で購入し、夜な夜な読書のお供にしているものはなんでしょう」だったかな。最近、ハンモックを買ったんですよ(笑)。で、みんながこういう問題を作るじゃないですか。それを1回全部集めて、「今からみんなに問題を配るので覚えてください」ってやったんです。

ふくら:
70人近くが集まって、みんな無言で30分暗記するという(笑)。

山本:
覚えるタイムが終わったら、ようやくクイズ大会。みんな真剣に問題を覚えたので、あまりしゃべったことのない人にも話しかけられるようになりました。

ふくら:
「ギネスに載ったことがある」って人もいたよね。知らなかったなぁ。

山本:
「実は毎朝真水でシャワーを浴びてる」って人もいたね(笑)

ふくら:
batonは「遊ぶように学ぶ世界」をビジョンとして掲げていて、バリューの1つに「遊びを忘れるな」と定めています。研修や社内制度に遊び心があるのも、こうして理念に基づいて作られているのだなと思いますね。

「なんで分かったの!?」スーパープレーを生む難易度調整

これまでお二人が制作されてきたもので、アイデアの面で手応えのあったコンテンツを教えてください。

ふくら:
最近だと動画「箱が9つある。脱出せよ。【出題のない部屋】」ですね。箱が9つ置いてある「謎の部屋」に2人を閉じ込めて、なにも出題しないんです。どうすれば脱出できるのか、ルールから探ってもらう企画で。

動画「箱が9つある。脱出せよ。【出題のない部屋】」

もともと企画作家のアルバイトの子が出してくれた企画で、最初はスタンダードな出題&解答の形式でした。そこに「これ、出題しなくてもいいのでは?」とアレンジを加えて作ったものです。あまりやったことがない企画だったので、新しいアイデアだなという手応えはありましたね。

すごく特殊な形式だと思うのですが、どうやって「出題しなくてもいい」という地点にたどりついたのでしょうか?

ふくら:
クイズを考えるときに重要なのは、難易度のコントロールですね。つまり、どこまでヒントを与えるか。

イベントでお客さんに解いてもらうクイズなら、「答えられて楽しい」ものになるようにヒントを工夫します。ですが、YouTubeの場合は「答えている姿を見て楽しい」ものにしないといけないんです。簡単な問題を解いている姿を見せられても面白くない。「そんなの答えられるの!?」というスーパープレーが成立する問題が、やっぱり面白いじゃないですか。

というわけで、箱の問題についても「難易度を上げたいな」とヒントを削ぎ落とそうと思ったんですが……「これ全部消しても、ギリギリいけるな」と。これなら解いてくれるだろうという、演者への信頼もありましたし。

まさにその「謎の部屋」から脱出したのが山本さんでした。山本さんにとって、手応えがあったアイデアはなんですか?

山本:
野村アセットマネジメントさんの企業案件で作った、「2時間で答え持ってこい!買い物クイズ」ですね。問題文の一部だけ読まれたクイズから答えを推測して、正解だと思うものを実際に買ってくる企画です。

動画「2時間で答え持ってこい!買い物クイズ」

予算は1万円。正解したら「問題ごとに設定された倍率の金額」を獲得でき、最終的に所持金が多い人の勝ちです。たとえば問題が「バラ科の植物で……(倍率3倍)」で、正解がリンゴだとします。ここで100円のリンゴを買ってくれば、100円×3倍の300円獲得できるわけです。

ただ、バラ科の植物はたくさんあるので、リンゴ1点買いはリスクが高いですよね。なので、同じバラ科の桃やイチゴなど、条件に合うものを複数買ってきてリスク分散してもOK、というルールにしました。問題ごとに難易度や倍率も違うので、「ここは勝負所じゃない」と思ったら、何も買わず所持金を残してもいいという。

1点集中のハイリスクハイリターンでいくか、リスクを分散したローリスクローリターンでいくか、いろいろ戦略ができそうで面白いですね!

山本:
いくつかある候補から、どんな考えで何を選ぶのか。プレーの幅が出るように構成したことで、金融投資におけるリスクの取り方を伝える動画に仕上がりました。クライアントさんが一番伝えたい思いが「投資を分かりやすく伝えたい」だったので、その要素を分解して、クイズにうまく落とし込めた企画だったと思っています。

世界を知る入口としての「クイズ」

記事を読まれている方のなかには、働くうえで「学び」が必要だとは思いつつ、時間がないなどの理由でなかなか取り組めない人も多いのではと思います。QuizKnockのみなさんのように、学びを楽しく、遊ぶようにするにはどうすればよいでしょうか?

山本:
「いつでも学べるような準備をしておく」のがいいのかなと思います。人生の時間は限られていますから、ひとつのことを最後まで学びきるのはかなり難しいと思うんですね。それなら、とりあえず興味のある分野の本を買っておいて、学びたいときにいつでも学べるようにしておくといいのではないでしょうか。

学ぶ分野は、子供のころに興味があったことでもいいんです。一回興味を持ったということは、自分が好きになりやすいものだと思いますし。大人になってから見返すと、当時分からなかったことが分かったり、新しい発見があったりして、より学びが深まると思います。

ふくら:
「100パーセント分かること」を目標にしないほうがいいと思うんですよね。本を1冊読んで10パーセントしか分からなくても、別の本を読んだあとにもう1回読んだら30パーセント分かって、さらに時を経て戻ってきたら50パーセント分かって……ということもありますから。

「分からない」という状態は気持ち悪いものですけど、そこを多少我慢しつつ、完全には手放さないというか。時間はかかりますが、「全部分からなくてもいいんだ」と覚悟を決めて、少しずつ学んでみるのがいいのかなと思います。

山本:
学びたいことが分からないという人には、クイズもおすすめですよ。クイズはどんなジャンルでもまんべんなく出ますから、強くなろうとすると「歌舞伎は見たことがないけど十八番の演目は全部知っている」みたいな、ちょっといびつな状態にもなりますが、それが興味のきっかけにもなるんです。

なにも知らないより、ちょっとでも知識があったほうが、その世界に入りやすい。クイズをやってみることで、いろんな世界への“入口”が見つかるかもしれません。

QuizKnockはこの秋でサービス立ち上げから6周年を迎えました。最後に、これから先チャレンジしたいことについて教えてください。

山本:
個人的にはQuizKnockで実店舗を持ちたいな、と思っています。やっぱり画面を通した交流がメインで、視聴者との距離をどうしても感じるので、「遊ぶように学ぶ世界」を一緒に体感できる空間があったらなと。実店舗があったら、科学実験とかもできますし、それこそリアルに集まってやる謎解きもしてもいい。さらに新しい“学びと楽しさの掛け算“をお見せできるんじゃないかな。

ふくら:
これは以前からずっと言っているんですが、「頭が良いってかっこいいね」という価値観を浸透させたいんです。勉強ができる子は「ガリ勉」みたいに言われることもありますが、それをなるべく取り払いたい。休み時間に誰とも話さず勉強していても、それはそれでかっこいいと思えるような、学ぶことが当たり前のことである世界を目指しています。

YouTubeのチャンネルも4つに増えてから1年以上経っていますし、そろそろ新しいことにチャレンジする時期が来ているんじゃないかと思っていて。それがYouTubeなのか、イベントなのか、全然違う業種なのか、今はまったく決まっていなくて、いろいろと模索しているところです。これから先、また新しいタイプの「楽しいから始まる学び」を、みなさんに提供したいです。

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