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2022.11.21

あえて“嘘の自信”を持ってみる。井上咲楽さんに聞く「プレッシャーとの向き合い方」

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自分には無理かもしれない。だけどやるしかない。そんなとき、目の前の課題とどう向き合っていけばいいのでしょうか。

50年以上続く長寿番組『新婚さんいらっしゃい!』の新MCを2022年4月から務めるタレントの井上咲楽さんは、一見すると明るく華やかな印象でありながら、自身を「根暗で陰キャ」と分析しています。

それでも「とにかくテレビに出てみたい」という強い思いを抱いて、ホリプロタレントスカウトキャラバンに挑戦。デビューから数年間は、天然の太眉が特徴的だったため「眉毛の子」とも呼ばれていましたが、2020年12月『今夜くらべてみました』の番組内で眉毛をばっさりカット。イメージチェンジを遂げたことでも話題になりました。現在ではトーク力だけでなく、昆虫食や選挙、ぬか漬けなどの多彩な趣味を活かしながら、活躍の場を広げ続けています。

井上さんは、これまで「新しい挑戦」とどう向き合い、乗り越えてきたのでしょうか。率直な思いをうかがいました。

井上咲楽(いのうえ さくら)さん
1999年、栃木県益子町出身。2015年、高校生の頃に「第40回ホリプロタレントスカウトキャラバン」で特別賞を受賞し芸能界デビュー。以来タレントとして幅広く活動。『新婚さんいらっしゃい!』(テレビ朝日)『おはスタ』(テレビ東京)などレギュラー番組多数。昆虫食、選挙、ぬか漬けなどの多彩な趣味を持つ。

世間の認知度とのギャップに悩んだ太眉時代

井上さんが芸能界を目指したのは、「とにかくテレビに出たい」という思いからだったそうですね。

はい。お芝居をしたい、歌を歌いたいなどの具体的な願望は特になくて、とにかくテレビに出ることに漠然と憧れていました。

今ではどんな仕事をしている人も唯一無二の存在と思っているけど、当時はさまざまな個性が集まったテレビという場所が、とても特別なものに感じられて、テレビに出ている人たちがキラキラして見えたんです。「私もそういうすごい人になりたい!」と思っていました。普段は率先して人前で話すようなタイプではなかったのに、テレビへの欲求は小さな頃からずっとあったんです。

実際に仕事を始めてみて、仕事が楽しいと感じる瞬間はどんなときでしたか?

やっぱり、ずっと夢だったのでテレビに出られること自体が楽しかったです。出演した番組を観て私を知ってくれた方が、いろんな反応をしてくれるのがうれしくて。視聴者の方に「この前、街で井上咲楽を見かけた!」と言われたり、地元の人たちに出演番組を「観たよ」と言ってもらえたり。

「井上咲楽っぽい眉毛」という言葉も、私を認識してもらえているからこそ出る言葉だと思うので、聞いたときはすごくうれしかったですね。ただ、本当の意味で「仕事が楽しい」と思えるようになったのは、デビューして6、7年が経ってからでした。

ということは……つい最近ですね。

デビューしてからしばらくの間は、たまにポコッポコッと仕事が舞い込んでくる程度で、単純に仕事量が少なかったんです。せっかくチャンスに恵まれても実力が伴わなくて、なかなか次の仕事につなげられずにいました。

だけど、太眉とお団子頭というインパクトのある見た目だから、ありがたいことにすぐに顔は覚えてもらえるんです。そうすると、「よくテレビに出ているよね」と言ってもらえる機会も増えるんですよ。実際にはまったくそんなことはないのに。

視聴者からすると、「知っている人=売れっ子」というイメージなんですよね。

心の底から「そんなことないんです」と言っても、謙遜と取られてしまって。外からの印象と実際の自分とのギャップにモヤモヤしていました。

タレントとしてどこに向かえばいいのか、何を極めればいいのかが定まっていないことも辛さの一因になっていました。何が仕事になるかわからない世界だからこそ、何を頑張ればいいんだろう?……って悩んでしまって。

たとえば、最近人気があるサウナについて一生懸命勉強したとしても、売れているサウナ好き芸能人と売れていないサウナ好きだったら、仕事で呼ばれるのは前者です。

だったらいっそ、もっとニッチなことに詳しくなれば唯一無二になれるんじゃないかと考えてみたけど、興味がないことは続かない。決して楽しくないわけではなかったけど、悶々(もんもん)としている時間が長かったです。

結局、好きでやっていたものだけが残りました。今でも続けている趣味は全部、本心から好きでやり続けていたことです。

たとえ無人島にいたとしても、テレビに出ていなかったとしても、やっているだろうって思えること。「これ、今の仕事をしてなくてもやってる?」って自分に聞いてみたときに、「やってないかもしれないな……」と感じるようなことは、続かないとわかりました。

プレッシャーには“嘘の自信”で立ち向かう

悶々とした時期を抜け出せたのは、眉毛を剃(そ)ったことが影響しているのでしょうか?

そうですね。気持ちが変わりました。仕事に関しても、趣味に関しても、「眉毛に似合うものを選ばなきゃ」と思っていたところから、「なんでもいいじゃん!」という境地になれて。選べるものの幅が広がりました。

とはいえ、当時の井上さんにとって眉毛はアイデンティティーだったのではないでしょうか。変わることは怖くなかったですか?

怖かったです。だけど、変わることに対する恐怖よりも、悶々とした気持ちが続く怖さのほうが勝っていて。何でもいいから変化しないと! と考えていました。もし眉毛を剃ったことで仕事がなくなったとしても、今のままよりいい。何もしないでいるより、やってみてダメだったなら諦めがつくと思っていたんです。

もともと私は眉毛がきっかけでテレビに出るようになったので、タレントとしての実力じゃなく、持って生まれた眉毛の太さに助けられている自覚がありました。だけど、眉毛を剃ったら今度はそれをきっかけにお仕事をいただくようになったんです。

眉毛が太いから仕事が来て、眉毛を剃っても仕事が来て。言葉にしてみると、どういうことって感じがしますし、なんだかおもしろい状況ですよね(笑)。でも結果的に、眉毛を剃ったことでお仕事の量はグンと増えました。

どのくらい増えたんですか?

10倍どころではないくらい一気に増えました。それまでは、休日があると不安で辛かったけど、やっと素直に「やったー!」と思えるようになってきたんです。

お仕事の内容も幅も変わってきていて。グラビアや美容雑誌に出る機会も増えましたし、長年続けてきたこと、やりたかったことが仕事につながるようにもなりました。

以前から昆虫食や選挙が好きだったのですが、眉毛が太かった頃はキャラづけの一環だと思われてしまうこともあったんです。でも今、時代の流れもあってSDGs(持続可能な開発目標)や若者の政治参加がさけばれるようになったこともあり、選挙の特番に呼んでいただけるようにもなりました。

「若者代表」というポジションに立ちやすくなったんですね。

眉毛の印象が薄まることによって、「普通になった」と言われることもあるけど、そうなったことで、できる仕事もあるんだと思いました。自分の中身で勝負できている感覚はいまだにあまりないですが、純粋に好きで続けていた趣味が仕事になるのはうれしいです。

心にも余裕がでてきましたか?

はい。ひとつのものに固執していると、それがなくなったとき、「もうだめだ。タレントとして死んでしまう」くらいの勢いで不安に駆られるんですが、いろんな仕事に挑戦できるようになってからは、「たとえどれかひとつがなくなったとしても、ほかがあるから大丈夫」と、いい意味で余裕を持てるようになりました。

そのおかげで、立ち回りのパターンもいろいろと試せるようになって。「これは次も使えそうだな」「ここは変えたほうが良いな」と、ブラッシュアップして次に活かせるようになりました。結果的に仕事の質も上がったように思います。

「昆虫食の子」「選挙が好きな子」「実家が山の中にある子」「ぬか漬けをやっている子」など、いろいろな呼び方をしてもらえるのもすごくうれしいです。「眉毛を剃った子だよね」って言われるのもうれしくて。「井上咲楽」という名前で覚えてもらわなくてもいいんです。印象のレパートリーが増えたことが、自分のなかで自信につながっています。

良いことづくめですね。プレッシャーに押しつぶされることも、もうなくなりそうでしょうか?

いや、それはありますね。仕事でご一緒する方たちが天才と呼ばれるような人ばかりなので、「私、このままでは生き残れないな」と厳しさを感じる瞬間が多々あります。だけど追い込みすぎるとどんどん気持ちが落ちてしまって、自分で自分をペシャッと潰してしまいそうになるんです。

それだと悪影響しかないので、「私も天才だからここに居るんだ」くらいの気持ちで臨むようにしていて。“嘘でも自信を持つ”といいますか。

天才たちと仕事をしていくうえでは、そのくらいの気持ち作りが大事だと。

私の性格上、今後どんなに頑張ったとしても「100%一生大丈夫!」みたいな揺るぎない自信を心から持てることは絶対ないと気がついたんです。そう考えたときに、「じゃあ、嘘でもいいから自信を持ってみたらいいのかも」と思いました。そのくらいまでやってしまったほうが、逆にうまくいくんじゃないかなと。そうすると、またひとつ気持ちが楽になってやりやすくなりました。いろんな仕事を経験して、さまざまな声を聞くなかで、徐々に気づいてきたことです。

話を聞いていると、思い悩みつつも、自分の考えや他人の意見を取り入れて、心の均衡をとりながら過ごしている印象です。

いえ、アンチコメントには普通に傷つきます。でもオンエア直後に見たら傷つくようなコメントも、10日くらい経ってから見ると、干し野菜を眺めるようなテンションで見ていられることはありますね。干していたのを忘れて久しぶりに見てみたら、あら、いい感じに仕上がってるな!……みたいな。

(笑)。ところで、井上さんは出演番組のオンエアも、ちゃんとチェックされているのでしょうか?

はい。収録中に「うわ! 今の自分、本当にきついな」と感じたとしても、必ず見るようにしています。自分の嫌なところって、自分だからこそ気づけると思うんです。他の人が見たらなんとも思わなくても、自分は「嫌だな」と感じることってたくさんある。だから、オンエアを見るのが一番勉強になります。

“嘘の自信”からその先へ

2022年4月からは、『新婚さんいらっしゃい!』のMCを務めています。かなりの大役ですが、いかがでしょうか?

初収録の日は、スーツを着た方たちが周りに何十人もいて、ものすごく緊張しましたし、「うまくいかなかったらどうしよう」という恐怖心もありました。

ゲストの新婚さんたちのプロフィールに目を通したり、聞きたいことを考えておいたり、やれるだけの準備はやったつもりです。でも、この番組に限らずですが、下調べを万全にしたところで想定通りに進むことはまずないんです。だから変に緊張しすぎないようにして、皆さんのおもしろい話をフラットに楽しんで聞こうという姿勢で過ごしています。

あとはやっぱり、自分で自分にプレッシャーをかけすぎないことが大事だと改めて感じています。「失敗したからといって死ぬわけではない」「この仕事がなくなったとしても他の道がある」という思いを頭の片隅に置いておくのがいいのかなと。

仕事で手を抜かない真面目な井上さんだから、そのくらいがちょうどいいのかもしれませんね。

確かに、それで手を抜くことはないですね。逆に、ちゃんと解放してあげたほうが楽になっていろいろできるようになります。

リラックスするために “自分だけの秘密を作ること”も一時期やっていました。たとえばポケットに昆虫食を入れておくと、どんな大舞台でも、「今こんなにすごい人としゃべっているけど、この人は私のポケットにコオロギが入っていることを知らないんだよね」って思えてわくわくするんです(笑)。

ちなみに、「嘘でも自信を持つ」というお話がありましたが、本当の自信はついてきましたか?

自分で成功体験を作って、自信に変えていくしかないと思っています。周りからどんなに「大丈夫だよ」「すごいね」などと言われても、自分が納得できていないと自信は持てないから。最近は、仕事の量が増えて以前よりも頑張れる場所が多くなったので、自信をつけられるチャンスも増えました。

以前と比較して、自分が成長したと感じるときはありますか?

人と話すときでしょうか。今までは、前室(※)で共演者の人ともまともにしゃべれなくて。「みんな、私としゃべるなんて嫌だろうな」と思ってしまっていたんです。
※テレビ番組のスタジオ収録の際、出番の直前にタレントが待機する場所の通称

だけど『新婚さんいらっしゃい』のMCに決まったあたりから、「すごいね」「観たよ」と話しかけてもらえる機会が増えて。「あれ、この人って私と話したくないわけじゃなかったんだ!」「こんなにすごい人でも私としゃべってくれるんだ!」と思えるようになりました。これは私にとって大きな変化です。

プライベートでも、昔よりはリアクションができるようになったんじゃないかと思います。昔は会話の仕方自体がよくわかっていなくて。友だちとしゃべっているときでも、機嫌が悪いと思われるくらい無反応だったんです(苦笑)。

ではそんな成長を受けて、近い将来、新たに挑戦してみたいことを教えてください。

ニッチなライブハウスを借りて、トークライブをしてみたいですね。古舘伊知郎さんの「トーキングブルース」じゃないですけど、そういうイメージで定期的にやってみたいです。

あとは、雑誌で文章を書く連載もしてみたいんです。日常生活で起きたことや感じたことをアウトプットする場があったらいいなと思っていて。

感情って自分にしかわからないし、その瞬間でしか感じられないことばかりです。でも書いておけば、あとで思い起こすこともできます。昔から日記を書く習慣があって、今もできる範囲で「note」に投稿しているんですけど、いつかお仕事としてできたらうれしいです。

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