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2022.11.21

個性は「好き」の掛け合わせで生まれる 「ウケなくてもいいや」で踊りだしたしゅんしゅんクリニックP

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他の人にはまねできない、自分の「個性」や「強み」はどうやって見つければいいのでしょう?

「自分が好きなもの」や「経験したこと」は、オンリーワンではあるものの、それだけではなかなか「自分の強み」にはなりにくいもの。しかし、自分が持っている「経験」や「好き」を一つひとつ掛け合わせることができるのは自分だけ。それが上手にできれば、唯一無二の「個性」になるのでは……?

お笑い芸人のしゅんしゅんクリニックP(しゅんP)さんは、「医師免許を持つ芸人」という経歴に、もとから大好きだった歌やダンスを掛け合わせることで、他者はまねできない「オンリーワンの個性」を手にしたひとりです。

2017年末、「医者あるある」に合わせて歌って踊る「ヘイヘイドクター」がきっかけで注目を集める存在となったしゅんPさん。「医者」「音楽」「ダンス」という、自分の経験と「好き」を詰め込んだ歌ネタはどういった経緯で生まれたのでしょうか? 自分の価値の見つけ方とその掛け合わせ方、さらには上手な発信方法を、しゅんPさんにうかがいました。

しゅんしゅんクリニックP さん
1983年、群馬県出身。NSC東京校を卒業後、2011年に吉本興業所属のお笑いコンビ「フレミング」としてデビュー。
2016年のコンビ解散後は、ピン芸人「しゅんしゅんクリニックP」に。現在は、芸人として活動しながらクリニックに勤務し、YouTubeでメディカル情報を発信するなど、医療従事者としての情報発信も行う。

「医師+好きな歌とダンス」の掛け合わせが生まれるまで

最初に、しゅんPさんの「ヘイヘイドクター」はどのように誕生したのか教えていただけますか?

コンビが解散してピン芸人になってから、フリップ紙芝居みたいなネタをやっていたんです。アーティストの歌詞を医学的に分析する、みたいな内容だったんですが、まあまあウケるがなんかイマイチ、という状況でした。そこで、もともと好きだった音楽やダンスをネタに取り入れてみよう、と思ったのがきっかけですね。

ネタを披露したら先輩や仲のいい芸人たちに「いいね」「ワンチャンいけるかもよ」と評判が良かったんです。その方向性で試行錯誤する中で出てきたのが「ヘイヘイドクター」でした。

もともと、音楽とダンスがお好きだったんですね。

そうなんですよ。バンド活動をやっていたこともありますし、大学ではダンスサークルに入っていました。今考えると、学生時代もオリエンタルラジオさんの「武勇伝」のような歌とリズムのネタも好きだったんですよね。

実を言うと、コンビのときにいきなり歌い出したり踊り出したりするボケをやったこともあるんですよ。そのときはいわゆる「正統派」なお笑いをやろうとしていたので、そんな僕が全力で歌って踊ると、他の芸人さんからもすごくツッコまれるんです。

でも、そこで起きるのは自分が意図している形とは違う笑いだったので、最初はちょっとイラッとしてたんですが……。よくよく考えると、ツッコまれるということは僕もノリノリで踊っていたし、それを周囲の芸人仲間もおもしろがってくれていた、ということだったのかもしれません。

「ヘイヘイドクター」は、後の「ゴーゴーナース」「イェイイェイ薬剤師」も合わせた「医療従事者あるある三部作」の1作目。友人・知人だけでなく、SNSを駆使して広範囲から「あるある」を募集したそう

ご自身が医者であることをネタに取り入れたのはいつ頃からだったのでしょう?

コンビ時代からです。当時の相方は専門学校を卒業した美容師だったんですが、純粋なお笑いで勝負したくて、最初はそれぞれの職業とはまったく関係ないしゃべくり漫才をしていたんです。

でも、なかなかうまくいかなくて。そこでどうしようか悩んでいたら、NSC(吉本総合芸能学院、吉本興業によるタレント養成所)の講師から「なんで医者ネタ入れないの?」とアドバイスされました。そこで「笑わなかったら手術しますよ」みたいなつかみをやってみたら、ちょっとウケた。それをきっかけに、医者のネタも少しずつ増やしていきました。

歌って踊り出したきっかけは「吹っ切れたから」

コンビ時代の「医者ネタ」と不本意ながら笑いが起きていた「ダンス」を、それぞれを組み合わせてみようと思ったのは、どうしてだったのでしょう?

それは、ピン芸人になったことが大きかったと思います。ピン芸人って、ネタの責任が全部自分にあるんですよね。ウケたら全部自分の手柄だし、スベったら全部自分の責任。開き直って、「ウケなくてもいいから、自分の好きなことをやろう」と考えたのが結果的に良かったのかもしれないです。

実際に、周りからも、「ピンになってからの方が吹っ切れてる感じがする」と言われるんですよ。コンビのときは「まとまってるけど、60~70点のネタだね」「頭で考えてる感じがする」と言われていたので。

吹っ切れて好きなことをやり始めた結果、「ヘイヘイドクター」が生まれた、と。

実は「ヘイヘイドクター」より先にいくつか歌ネタを作っていてInstagramに公開していたんですが、これがなかなか再生回数が良かったんです。先輩からも「いいじゃんリズムネタ」と言われていたので、その流れで「ヘイヘイドクター」を作りました。

当時はベースとドラムだけの音源だったのですが、完成した時は「いい曲できたな」という感覚でしたね(笑)。いざ劇場でやったときは全然ウケなかったんですけど、曲に対する満足度が高かったので、「イケそう」という感覚はあったんですよ。

「ヘイヘイドクター」の前に作った「ぞうき歌」(動画は同じ歌をYouTubeに再投稿したもの)。「臓器の場所聞かれることってよくありますよね。そんな時のために作りました」(本人Instagramより)とのこと

そして『さんまのお笑い向上委員会』(フジテレビ)に出演し、一気に知名度が上がりました。

あれはびっくりしました。『向上委員会』も「ヘイヘイドクター」で呼んでもらったわけではなく、たまたま呼ばれたときにこの歌をやったんですよね。それを(明石家)さんまさんや今田(耕司)さんが拾ってくださった。もう、本当に運が良かったんですよね。

なにが武器になるかなんて、使ってみないとわからない

今日のインタビューのテーマは「自分の好きなものを掛け合わせて個性にすること」なのですが……この「医者×音楽×ダンス」という掛け合わせは、狙ってやったのでしょうか?

正直言うと、全然考えていませんでした(笑)。今、「そうだったのか!」と気づいたくらいです。

でも、個性は1個だけで勝負するよりも、掛け合わせれば唯一無二の存在になれますし、それが「自分にしかできないこと」ですよね。僕の場合はたまたま医学部に行って医者になって、ダンスと音楽が好きで、周りがそれを生かした方がいいとアドバイスをしてくれて、という流れなので、ラッキーだったと思います。

自分の「好き」をかけ合わせて個性を作っていくのであれば、どんなことを意識するといいのでしょう?

まずは自分が好きなものはもちろん、自分の経験を振り返って、人に話せたり、教えられたりするようなものを探すといいのかな、と。たぶん、誰もが自分で気づいていないだけで、いろんなものを持っていると思うんです。自分で探しても見つからない場合は、人と話せば自分のことが客観視できるかもしれませんし。

自分ひとりで探すのではなく、誰かに探すのを手伝ってもらう、ということですね。

難しいのが、自分で武器だと思っていたものが、他の人から見ると大した武器じゃない、という場合もありますよね。僕も以前は「医師免許を持つ芸人」という経歴を武器にしようとしていましたが、今や同じ経歴の後輩芸人が出てくるようになっていて……もっとダンスの練習をがんばらないといけないなと思っています。

逆に、ダンスと音楽は武器になるなんて全く思っていなかったですよね。バンドで弾いていたギターも、弾き語りや替え歌に役立っているのでやっておいてよかったなあ、と。

全部、そんな感じなんですよ(笑)。なにが武器になるのかなんて、使ってみないとわからないんです。自分が持っているもの、経験したものは、出し惜しみせずに全部使えばいいと思いますよ。

では、好きなものも得意なものもない! という人はどうしましょう?

それは……きっと、何かありますよ! 親とか、自分を昔からよく知っている人に「小さい頃、何をやってるときが楽しそうだった?」と聞いてみたら、自分が忘れていることを教えてくれるかもしれないですよね。

自分でできることとしては、自分史を書くのもいいかもしれないです。習い事、部活、ハマったゲームとかを書き出す。できればそれを見ながら友達と話したら、自分では気づかなかった長所や個性を見つけてくれるかもしれません。

打席に立ち続けられるのも、好きだから

芸人さんであれば「歌もダンスもあまり興味がない人けど、歌ネタに挑戦する」人もいそうですが、掛け合わせを戦略的に使うのはどう思いますか?

できる人なら全然ありだと思います。でも、好きじゃないと「続けること」が難しいかもしれないです。

いま芸人として売れようとしたら、ネタを作り続けることはもちろんですが、YouTubeやSNSを通した発信が大事になることもあると思うんです。でもSNSって、いろいろな投稿をフォロワーに投げかけて反応を見るという、言ってしまえば「打席に立ち続ける」ことじゃないですか。なので、SNSが好きじゃないと続かないんですよね。

その点で僕は、ネタ作りはもちろん歌もダンスも好きだし、動画編集も好き。ゆにばーすの川瀬名人から「歩く承認欲求」と言われるくらい、SNSも大好き。「この曲をもっと良くするにはどうすればいいだろう」とか「この動画が伸びない理由はなんだろう」とか、あれこれ工夫することも楽しいんですよね。これは、好きじゃないとなかなかがんばれないことだと思います。

では、やはり「好きなこと」を見つけられた人は強いですよね。

そうなんですが、「好きなこと“だけ”」をやっているのでもダメだと思うんです。たとえば、僕のYouTubeチャンネルは医療関係者や年齢層が高めの方が見てくれているので、「医療あるある」動画の再生数が伸びますが、ネタはそれほど伸びません。あと、大好きなマージャンに関する動画も全然回らないです。

『医療・医療従事者あるあるネタ』はしゅんPさんYouTubeチャンネルの人気コンテンツ。他にも「コロナワクチンの副反応経過」といったメディカル情報も発信しており、中にはしゅんPさんが自身の所属する吉本興業へ、医師としてワクチンの職域「接シュ」に行く際の報告動画も

せっかく「好きなもの」を発信したのに反応が薄いと傷つくんですが……それって多分、「みんながしゅんしゅんクリニックPに求めているものは、これじゃない」ということなんですよ。

でも自分が楽しくなくなっては元も子もないので、「やらない」という選択はしない。「伸びなくてもいいや!」と開き直って、たまに紛れ込ませるんです(笑)。結局、YouTubeチャンネルでは「みんなが求めているもの」と「自分がやりたいこと」で半分半分、というバランスに落ち着きました。

やりたいことと求められていること、両者のバランスはどのように見極めていますか?

まずは客観的な指針として、数値を見ます。たくさん発信したことのうち、どれが求められているのかを知る上で、数値はシンプルでわかりやすい指標ですよね。それでも迷ったときは、実績がある人か、信頼できる人に聞きます。

僕が普段からよく相談するのが、おばたのお兄さん(※)です。バズり方を知っている人なので、信頼しています。動画でやろうとしていることをいくつか伝えて、「今Instagramに上げるならどれかいいと思う?」と聞くんですが、いつも納得できる答えを返してくれるんですよね。ひょっこりはんとも仲がいいので、3人でアドバイスし合うんです。

先輩だと、西村ヒロチョ(※)さんに相談したり。楽器が得意で、舞台で3分間サックスを吹き続けるネタをやる人なのですが、「こういうこともやっていいんだ!」と刺激をもらっています。

※ 小栗旬さんのモノマネでおなじみのおばたのお兄さんは、テレビタレントによるSNS運用がまだ少なかった2017年頃から積極的にSNSを活用していた芸人のひとり。現在はスタジオジブリ作品のパロディー動画「スタジオおブリ」が人気になり、自身のYouTubeチャンネルは登録者約13万人(2022年10月時点)
※ 西村ヒロチョさんは、吉本興業所属のお笑い芸人。東京NSC15期生で、代表ネタは日常の出来事をエモーショナルに歌い上げる「ロマンティックネタ」シリーズ。2021年5月には、『スッキリ!』(日本テレビ)でピアニストの清塚信也さんと共演したことが話題になった

好きが増える=チャレンジしたいことが増える

お話を伺って、やはり好きなことを続けている人はすてきだなと思いました。しゅんPさんも、踊っているときはものすごく楽しそうですよね。

本当に楽しいです(笑)。僕は医者をやりながら芸人もやっている、言ってしまえば「好きなことで生きていく」ことを自分で選んだ人間です。それなのに楽しくなかったら意味がないだろう、と思ってしまうんですよね。

それに、自分が楽しんでいなかったら見ている人に絶対に伝わってしまうので。漫才でも、やっている芸人さんが楽しそうにやっていたら、見ている方も楽しい気持ちになっちゃうじゃないですか。

今後、しゅんPさんの「好き」が増えれば、個性に掛け合わせるものも増えていくのでしょうか?

最近だと、子どもが生まれたので「パパ」という要素でしょうか。コロナ禍というのもありますが、父親になってさらに「世のため人のため」という気持ちが強くなっているんですよ。

前は「歩く承認欲求」なんて言われていましたが、アラフォーになると「売れたい」「人気者になりたい」という気持ちだけでは、モチベーションが続かなくなってくる。1年後、2年後に実現したいことはありますが、5年後になにをやっているかは想像できないですよね。

これからは、好きなものはもちろん、チャレンジすることも増えていきそうですね。

そう思います。20代の方ならなおさらのこと、自分がおもしろいと思うもの、興味を持てるものに、これからたくさん出会えると思います。僕も自分が好きなものややりたいことと、みんなが見たいものを意識して実行していきたいと思います。

僕は群馬県出身なので、いつかは群馬の観光大使のような、地元のためになることがやりたいんですよ。そのために群馬の歌を作っちゃおうかな、なんて考えているところです。……「ヘイヘイ群馬」なんて、どうですかね?(笑)

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