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企業情報

2023.04.26

東日本大震災から12年 若い世代を動かす「きっかけ、仕組み」とは? 防災・減災体験ワークショップ

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東日本大震災の発生から今年で12年。現在の大学生の多くが震災当時は10才以下だったということもあり、近年は「未来への継承」に注目が集まっています。
災害への当事者意識が薄れてしまう、という課題を解決することを目的に、オープンコラボレーション事業を展開する「LODGE」(Zホールディングス)、ヤフー、LINE、千代田区の5大学(※1)で結成された「千代田区内近接大学の高等教育連携強化コンソーシアム」(以下、千代田区キャンパスコンソ)と共同で、全6回の防災・減災体験ワークショップを実施。災害の事実や復興の現状・課題を大学生に実際に見て感じてもらい、災害情報の活用方法や適切な発信方法を学ぶ機会を提供しました。

※千代田区の5大学:
大妻女子大学・大妻女子大学短期大学部、共立女子大学・共立女子短期大学、東京家政学院大学、二松学舎大学、法政大学

参加した学生は福島県でのフィールドワークや、専門家や防災・減災関連サービスを提供する企業の講演を通じ、防災・減災に対する当事者意識を高め、被災経験のない若者世代が防災減災に興味を持つきっかけについて考え、最終回でプレゼンテーションを行いました。
今回は、この取り組みに至った背景や思いを関係者に聞きました。

「教室で学んだことを社会でいかに生かしていくか」を考えてほしい

小秋元 段(こあきもと だん)さん
法政大学文学部教授。2017年文学部長を経て、2021年より法政大学常務理事・副学長。

今回の課題解決(PBL:問題解決型学習 ※2)プログラムのテーマは「防災・減災体験ワークショップ“若い世代を動かす『きっかけ、仕組み』とは?” ヤフー・LINE社員と一緒に考える若者視点」です。
※PBL(Project Based Learning):
生徒が自ら問題を見つけ、その問題を自ら解決する能力を身につける学習方法。文部科学省が推奨している「アクティブラーニング」のうちのひとつ。

近年、大学の知の社会実装が強く求められ、学生のみなさんは「教室で学んだことを社会でいかに生かしていくか」を考えていくべき時期にきています。教室での学びと社会での学び、この2つの学びの舞台を行き来するような学びを目指してください。
今回のワークショップでは、ヤフーやLINEのみなさんや、福島県の住民の方たちとの語り合いを通じて得た学びや気づきを、「こうすれば防災・減災に役に立つのではないか」というアイデアの創出につなげてもらえればと思います。

また、今年2023年は、関東大震災から100年の年です。建物の倒壊や直後の大火災、津波、鉄道事故、流言飛語などで命を落とした方は約10万5,000人いるといわれています。私たちはこの過去の教訓に学ぶことによって、今の時代だからこそできる災害の抑制、災害の被害の抑制を可能にしていけるのではないでしょうか。

関東大震災で大きな被害を受けた千代田区では、大規模災害へのさまざまな対策を講じています。大学との関係でいえば、大規模災害時における協力体制に関する基本協定を、千代田区内の10大学と締結しています。その中では学生ボランティアの育成や被災者への施設の提供、大学施設に収容した備蓄物資の提供などを明記しています。

今回のプログラムは、千代田区の大学で形成する、千代田区キャンパスコンソの事業として実施します。千代田区と地域の産業界とともに、大学間、地域間の連携を図ることを目的として今後も活動を続け、今回の成果も加盟大学に共有し、いかしていきたいと考えています。

テクノロジーやさまざまなサービスを活用した防災や減災のアイデアを

西田 修一(にしだ しゅういち)
ヤフー株式会社 執行役員 SR推進統括本部長。2004年入社。Yahoo! JAPANトップページの責任者を務め、ヤフー初となるYahoo! JAPANトップページの全面リニューアルを指揮。
東日本大震災の復興支援と検索を掛け合わせたキャンペーン「Search for 3.11 検索は応援になる。」を立ち上げる。検索事業本部長を経て、2017年4月より現職。

昨年(2022年)末に印象に残ったニュースは、台湾の兵役期間が2024年より4カ月から1年に延長されるというニュースでした。また、韓国にも徴兵制度がありますよね。
このように、すぐ近くの国では「戦争」が非常にリアリティーのある、差し迫った危機として認識されており、国民の義務として兵役義務が課せられています。
日本においても、戦争は対岸の火事ではなく、リアリティーを持って考える必要があります。ですが、さらに身近なところで頻発しているのは、やはり震災を含めた「災害」です。

ただ、私たちが今、どれだけ日頃から災害のことを考えられているか、あるいはその備えができているかというと、まだまだ全然足りないと思っています。
Zホールディングスには、ヤフーやLINEなどのサービスを通じて、被災時の支援はもちろん、防災、減災という観点でもさまざまな取り組みを実施しています。ただ、各サービスの担当者が口々に言うのが、防災意識を高めることの難しさについてです。

今回のワークショップに参加してくださっている大学生のみなさんが二十歳前後だとすると、この20年を振り返っても、新潟中越地震、東日本大震災、熊本地震、さらに北海道の胆振東部地震、などの大きな地震が発生しています。
そして、首都直下型地震、富士山の噴火は、いつ起きてもおかしくないといわれています。さらに、2030年代に向けては南海トラフ地震の発生確率が非常に高くなっています。この地震の被害は東日本大震災の10倍といわれているので、私たちはこれにしっかり備えていく必要があります。

みなさんが生まれたときにはインターネットが当たり前のようにあり、10代を迎える前にはスマートフォンが普及していたと思います。そんなみなさんに、今のテクノロジーやさまざまなサービスを活用して、防災や減災に向き合ったときにどんなアイデアが生まれるのか非常に楽しみにしています。今回生まれたアイデアが、いつか誰かの命を救う種になるかもしれません。
先ほど小秋元先生からお話があったように、この取り組みは知識を得て考えていくプロセスを通じて、社会にどう生かしていくかを習う場ではありますが、今回提案いただいたものが「いつか誰かの命を救うかもしれない」という思いを持って臨んでもらえたらと思います。

東日本大震災から12年 解決したい課題は、当事者意識が薄れること

徳應 和典(とくお かずのり)
Zホールディングス株式会社 Co-CEOマネジメントサポート統括室コラボレーション推進 マネージャー LODGE運営責任者
ヤフー株式会社 コーポレートグループPD統括本部オフィス・経営支援本部 コラボレーション推進部 LODGE 部長
2011年3月11日東日本大震災発生直後にヤフーの震災タスクフォースの副責任者を務める。

ヤフーとLINEでは、12年前の東日本大震災当時「大人」だった世代が、防災・減災、災害情報などに関するサービスを生み出してきました。
その一方で、みなさんのような大学生の世代は、震災当時は10歳前後、または10歳未満だったという方たちです。そのため、親御さんと一緒に行動していたり、親御さんの判断で生活を変えたりしたという方もいらっしゃるかもしれません。まだ幼かったでしょうから、当時の記憶は曖昧だった方も多いのではないかと思います。

東日本大震災から12年経った今、災害への当事者意識を持っていただくことで、日ごろから防災・減災を考えるきっかけになればと思い、このワークショップを企画しました。

東日本大震災が発生した2011年、ヤフーはまだ六本木にありました。私は18階で勤務していたと記憶しています。地震発生後は、10分以上ビルの揺れが続いていたと記憶しています。ビルの上の階では、「長周期地震動」で地震自体はおさまってもその後も揺れが増幅して延々続くんですね。私が生まれてから経験してきた地震とはレベルが違うと感じました。

2011年3月11日 東日本大震災発生後 六本木オフィスの様子
会議スペースを仕切るパーティションや冷蔵庫が倒れ、コピー複合機が長周期地震動によって大きく移動した

その後、深夜に電車が動きだしたので帰宅でき、翌日もデザイナー責任者の業務のため出社しました。そのときに企画責任者から「来週以降、今までヤフーが取り扱わなかったような情報を世の中に出す必要があると考えている」と声をかけられました。8時間3交代制、24時間稼働し続けるタスクフォースをつくろうと思っているので、デザイナーの人たちから選抜してください、という相談がその週末にはもう始まっていました。

そして、週明けの火曜日には、人選が終わった企画担当者、デザイン担当者、開発、プログラミングの技術担当者が集まってキックオフを行い、翌日の3月16日水曜日からは1つの部屋でメンバーが集まって話し合いながらものをつくっていく体制が始まりました。
「今までヤフーが取り扱わなかったような情報」とは、現地の避難所状況、炊き出し情報、関東では計画停電があったので、その計画停電情報などでした。それまでヤフーが提供していたサービスとは違う情報が世の中に求められていることを感じていました。

東日本大震災発生後に発足したタスクフォースの様子

それまでは多くの社員が、ヤフーのサービスが直接人の命に関わる機会は少ないという認識を持っていたと思います。私自身、当時の部下たちに「スケジュールは調整できるから体調をくずしてしまうような働き方はやめよう」と伝えていました。
ですが、このタスクフォースで業務を行っていたときは、「一分一秒の遅れ、判断の遅れが救える命を救えなくなってしまうかもしれない」という使命感をみんな持って働いていました。初めてヤフーがそういう状態に遭遇した瞬間だと言ってもいいかもしれません。

また、当時はまだスマートフォンの普及率がそれほど高くなく、「ガラケー」といわれていた携帯電話を使っている人が多い時代でした。そのため、先ほどお話した「震災タスクフォース」には、ガラケーでも避難所情報などが見られるようにする部隊もいました。ただ、公開後にアクセスログをもとに、都道府県別にどの辺からどのぐらい見られているか調べてみたところ、被災地である福島、宮城、岩手は携帯からのログが想像以上にあまり落ちていませんでした。

その後、被災地から戻ってきたNPOの方とお会いする機会があったので、「携帯用のサイトがあまり見られていないようなのですが」とお聞きしてみました。そのとき、現地の人たちは津波で携帯が使えなくなってしまっているか、携帯は無事でも避難所で充電ができずに電源が落ちてしまっているため使えない状況だということを知りました。

避難所では、NPOや大学からの寄付で1台ずつパソコンとモニター、プリンターが提供されていたそうです。携帯が使えない方は、パソコンでヤフーの災害情報を大きく印刷して入口に貼ってある紙を見ていることがわかりました。それをお聞きしてからは、災害情報のPC版の文字サイズを大きくするなど、印刷して見やすくなるような改善を行いました。
このときにわかったのは、私たちが良かれと思ったことでも、正しい知識や現状把握がないと、その情報を必要としている方に届けることができないということでした。
私は20代に阪神・淡路大震災を経験していますが、阪神・淡路大震災と東日本大震災では地震の性質が違い、そのあとに起きた災害の状況も違いました。そして、それらは関東大震災とも違います。 将来、関東大震災が発生した地域でまた大地震が起きたときには、大正の関東大震災とも違う災害になるはずです。

このプログラムでは、まず事実を知っていただきます。そして、みなさんが今まで持っていた知識や認識と事実、そこから考えなければいけないイシュー(課題)とのギャップを認識した上で、「どうしたら若い世代に防災を自分事としてもらえるか、動かせるか」アイデアを考えてもらいたいと思います。

防災・減災体験ワークショップ 全6回の内容

竹口 麻衣子(たけぐち まいこ)
コラボレーション推進部LODGEでPRやコミュニケーション、自治体DXや公共公益をテーマとしたコラボレーション企画を担当。本企画の企画立案も担当した。防災士の資格を持つ。

私は去年、防災士の資格を取りました。その時に新たな知識を得て、「ひとりひとりが正しい知識をインプットし、誤解に気がついて正しい考えを持ったら、世の中は変わるのではないか」と本気で思いました。
この間、私の地元福島でボランティア活動をしている友人が、「防災や減災に意識を向けるのに遅過ぎることはない」と話してくれました。本当にその通りで、いつから始めても遅すぎるということはなく、気が付いたときから自分で考え、自分で調べるという行動がとても大事なのではないかと思います。
情報を得るときにただ受け身になるのではなく自発的に動いていくことで、自分の意識も変わるし、他者を巻き込んでいくこともできると考えています。若いみなさんに学びの機会を提供できればと思い、今回のワークショップを企画しました。

プログラムの詳細

タイトル 内容
第1回:オリエンテーション ・問題解決型学習と手法について
・ビッグデータで見る防災・減災認識
・自己評価シート
第2回:福島県でのフィールドワーク ・震災遺構、請戸小学校を見学
・東日本大震災・原子力災害伝承館を見学
・語り部の方のお話をうかがう
第3回:講座「防災減災の継承」「災害情報の活用と発信」 ・江戸川大学メディアコミュニケーション学部 隈本邦彦先生のお話
・被災経験を持つ若者世代との意見交換(福島県の富岡町で活動している方とオンラインで会話)
第4回:企業事例から学ぶ防災・減災の取り組み(ヤフー、LINE) ・3.11を経て思う災害に対しての自分事化とヤフーとしての役割、想い
・ヤフーの災害・防災コンテンツについて
・LINEにおける防災関連の取り組み
第5回、6回:グループワークと発表 若い世代の人たちが防災、減災に当事者意識を持つためにどんな仕組みが必要か考える

3月3日 福島県でのフィールドワークの様子

「サブスク型自動販売機」「ポイ活×防災」など 学生が考える「若者を動かす」アイデア

3月17日の最終回ではヤフー、LINEの社員、大学教授らが見守るなか、3グループに分かれた学生がプレゼンをおこないました。
プログラムで学んだ内容をもとに「どうしたら意識が持続するか」「日常の暮らしや行動に組み込みやすいか」を考え、課題提起~解決方法を提案。「学生さんならではの感覚、考えを重視した提案をしてほしい」リクエストの通り、ポイ活やサブスクなど若者に親和性のある仕組みと掛け合わせたユニークなアイデアが多数発表されました。

発表されたアイデア
・子供を防災ヒーローに変える、学校と家庭での波及効果を考えた授業参観の仕組み
・停電時にも必ず大切な情報にリーチする、小型防災ラジオの携帯を日常化する仕組み
・若者に話題のポイ活と連動した、防災知識が継続して身につく仕組み
・普段よく使うサービスに災害知識クイズを連動させる提案
・日本古来の民族行事「なまはげ」と地域防災を掛け合わせた見守りシステム
・防災啓蒙(けいもう)と非常時の防災グッズ供給をサブスク型で実現する仕組み

今回はじめて、東日本大震災発生当時はまだ子どもだった、若い世代の方たちをターゲットにワークショップを開催しました。一方的に大人が教えるのではなく、ヤフーやLINE社員と一緒に学び意見交換できるスタイルにしたことで、双方が毎回新しい発見や気づきを得ることができました。企画運営した私たちも、改めて学びを得る機会となりました。

参加した学生さんからは、
「今回のプログラム参加をきっかけに、家族と有事の際の連絡方法や防災について家族会議をすることができた」
「今回とった有意義なメモや資料をもとに自分の感情を育てていきたい。学びがもっと広がりそうで、これからにワクワクする」
「ヤフーやLINEの取り組みを知り、知らない便利なサービスがたくさんあると分かった。ユーザーとして自分たち側の”知ろうとする姿勢”も必要なのではないかと感じた」
「自分自身で行動して情報を取りにいくことがどれだけ重要かこのPBLを通じて感じた」
「プログラム全体を受けたことで、自分たちが当事者として考えることで、自分たちにしか出せないアイデアが生まれるという感覚を持つことができた」

などの意見をいただきました。さっそく意識や行動が変わった方がいることをとてもうれしく感じています。
今回の学生さんへのインプットが、いつかご自身を守るものに育ってくれることを祈っています。今後また、企業や学校や自治体をつなぎ、世代や価値観をミックスさせながら、これからの防災・減災について考える機会を作りたいと考えています。

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