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2021.01.11

東日本大震災から10年 災害をとりまく環境はどのように変わったのか

東日本大震災から10年 災害をとりまく環境はどのように変わったのか

2011年3月11日に発生した東日本大震災からまもなく10年です。震災発生当時は、Yahoo!天気とYahoo!災害情報としてサービス運営をしていましたが、同年に合併。現在はYahoo!天気・災害としてサービスを提供しています。
また、2011年7月には、「緊急地震速報」、「津波警報」、「節電・停電情報」などの情報をいち早くお知らせする、Yahoo!防災速報がスタートしました。

今回は、この10年間取り組んできたこと、災害・防災をとりまく環境はどのように変わったのか、今後の展望などを、Yahoo!天気・災害サービスマネージャーの田中、同サービス企画デザイン部長の竹内に聞きました。

田中 真司(たなか しんじ)
Yahoo!天気・災害サービスマネージャー。民間気象会社、一般財団法人気象業務支援センターを経て2008年に入社。
入社以降、企画担当として10年以上Yahoo!天気・災害の業務に従事。「雨雲レーダー」の開発や「Yahoo!防災速報」の立ち上げに携わる。2014年に「Yahoo!天気・災害」のサービスマネージャーとして大阪拠点の開発チームを立ち上げ、現在に至る。気象予報士の国家資格を保有。

3.11を経てどのように意識が変わったか
「私は前職で気象会社にいたので、天気予報に関する業務に携わっていましたが、業務として災害情報を扱うことはありませんでした。また、気象予報士の試験では、警報を出すような気象災害については学んでも、地震や津波、ましてや放射線に関しては触れないことが多いんです。3.11の経験を経て、気象予報士として災害に関する知識を深めることの重要性を改めて再認識しました」
竹内 美尋(たけうち みひろ)
2004年入社。Yahoo!商品検索、Yahoo!モバイル(検索)の企画・運営、Yahoo!知恵袋のサービスマネージャー、Yahoo! MAP企画、Yahoo!防災速報の責任者などを経て、現在はYahoo!天気・災害の企画デザイン部長を務めている。「災害マップ」の立ち上げに携わる。

企画職として、現場を率いるため意識していること
「案件を進めていくと途中で目的や判断基準を見失ってしまうこともありますが、そのような時には『最初に立ち返ってみて考えよう』というコミュニケーションを意識しています。いいものをみんなが作ってくれるので、横からちょっと軌道修正させてもらっているくらいの立ち位置を心がけています」

東日本大震災がヤフーのオリジナル情報発信のきっかけになった

田中:
当時はまだ、Yahoo!天気情報とYahoo!災害情報という2つのサービスに分かれており、私は両方のサービスの責任者を担当していました。
Yahoo!天気情報は、天気予報や、気象庁さんから発表される地震情報や津波情報をお届けしており、一方で、Yahoo!災害情報はそのようなニュース性のある情報だけではなく、発災後から復旧・復興に至るまでのいろいろなサポートをするための情報をお届けするという役割に分かれていました。

3.11の発生後、Yahoo!天気・災害という1つのサービスとして、災害が起こる前の気象情報から災害発生時、そして復旧・復興のフォローに向けてもワンストップで取り組んでいくという姿勢も込めたサービス名の変更でした。当時メディア事業の責任者だった現社長の川邊からも「災害という名前をヤフーから消すべきではない」と言われたことを覚えています。

それまでは、気象庁さんの情報を民間の気象会社さん経由でもらってお届けしていたので、ヤフーオリジナルで情報をつくるということはしていませんでした。3.11を契機とし、最初にオリジナル情報をつくったのがYahoo!防災速報です。3.11の発生後、放射線計測情報や計画停電の情報、さらには電力のひっ迫具合といったところも、東京電力さんからのデータを基に解析した情報をコンテンツとしてお届けしました。
3.11以前は、情報提供元さんから情報をいただいて、それを見やすくお届けすることをヤフーのメディアとして主にやっていましたが、コンテンツを自らつくる方向に舵を切るきっかけとなった年でもありました。この動きが、Yahoo!防災速報で2019年から展開している災害マップなど新しいコンテンツにもつながっていると思います。

今では当たり前のように、避難情報なども出していますが、3.11のときはまだそういった情報を出すルートがなく、避難勧告・避難指示や大雨災害などの情報を出せていませんでした。当時、公共情報コモンズ(現在のLアラート)の運用はすでに始まってはいたのですが、「インターネット事業者には情報は出さない」という方針だったんです。テレビなどのメディア向けに作ったもので、インターネットで避難情報のような命に関わる情報を扱っていいのかという、信頼性についての議論がまだされていた時代でした。
3.11を契機に、インターネットでもそのような命に関わる情報もしっかり出していきたいというヤフーの方針のもと「インターネットでも避難勧告・避難指示などの情報発信をするべき」と説明・交渉して、ようやくインターネットメディアにも情報を出しましょうということが決まりました。
今では、Lアラートはインターネットメディアでより多く利用されていますし、どのようにインターネットで活用していくかという方向に議論が向いています。災害情報の伝え方を大きく変え、当時できてなくて今当たり前のようにやっていることのきっかけになった年だと思います。

1人でも多くの命を助けるため「自分事にしてもらえる情報」を届けたい

田中:
とにかく、1人でも多くの方の命が助かるきっかけとなったら、本当にこのサービスをやっている価値があると思っています。もちろん難しいことではありますが、この情報発信を基にユーザーが行動して命が助かったという事例が1件でもあればと。そのような事例が1件でも生まれるように取り組んでいます。
そのために一番大切で、現在でもまだ道半ばだと思っているのは、「その方が自分にとって大事な情報で、実際に行動へ移せる情報をお伝えする」ことです。たとえば、「あなたが今いる場所はここで、あなたの周りの気象状況はこれからこうなって、こんな危険性があります。だからあなたはここに避難をしなければいけません」くらいまで具体的な情報です。ひとり一人その内容は違うので、そこまで具体的なものにしていきたいです。
Yahoo!天気・災害もYahoo!防災速報も、市区町村単位までの情報など、昔に比べればかなり粒度は細かく発信ができていますし、自分事化できるようにはだんだんなってきています。ただ、いくら天気予報の精度が良くなっても100%ということはありません。もちろん予想の精度が高まっていくことも大事ですが、予報をもとにいろいろな可能性を考えて、ユーザーが自分事として捉えて、行動に移せる情報をお伝えするのが私たちの使命だと思っています。

竹内:
3.11当時は、私はYahoo!知恵袋の担当で、もともと、一個人が主役となれるような場づくりにとても興味がありました。Yahoo!天気・災害に関わらせていただくことになったときも、特に災害領域についてはより、ユーザーの力をお借りして情報の粒度や質を上げていくことができるのではないかと考えていました。この思いが、のちにYahoo!防災速報の「災害マップ」というサービスにつながっています。

さきほどの田中の話にもありましたが、「自分事として思ってもらえる情報」とはどのようなものなのかを追求していくことが大事だと思っています。それは、一斉同報のような情報提供の仕方では難しいですし、タイミングも大切です。
どういったタイミングでその情報を見せられると、この情報が役に立つ、価値のあるものだと思ってもらえるか、それぞれの状況に置かれたユーザーにどのような情報が届くと一番良いのかという点を、設計上では常に意識しています。

災害マップのようなユーザー投稿型のサービスで、より精度の高い情報を投稿してもらうためには、その機会がマッチすれば、自然と内容自体も良いものになる傾向があると思っています。たとえば災害マップでいうと、もう自分の近くで異常が起き始めているタイミングであれば、悪いことや間違ったことを書く人はそれほどいないはず、という仮説の下に始めました。
災害時に「これは本当に大変な状況だから誰かに伝えたい」というモチベーションにあるタイミングで投稿してください、という仕組みにしたことで自然と自浄作用が働いたり、良質な投稿が集まったりしやすいのではないかと。今のところは、その仮説がうまく機能していると思っています。

田中:
災害発生時は、現場にいる人の情報が一番確かで速いというのは絶対なので、構想としては10年前からありました。3.11直後、現場がどうなっているのかなかなかわからない状況で、ユーザーからの情報が届けられたらという思いが、災害マップのサービスにつながりました。

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(2019年の台風19号による発災時の災害マップ画面)

3.11から10年 災害・防災をとりまく環境はどう変わったか

田中:
先ほどお話したLアラートの事例もですが、やはりこの10年でインターネットでの情報発信が当たり前になり、より重要視されてきたと思っています。また、スマホの普及に伴って、災害情報の伝達の重要性も高まっています。スマホは地図ととても相性がいいと思いますが、災害情報も地図上で見せるととてもわかりやすいので、そのようなこれまでになかった情報発信の形が発展した10年だとも思います。これからも、スマホをベースによりパーソナルな情報をわかりやすくお届けすることに、これからも取り組んでいきたいですね。

また、気象会社だけではない、まったく異なる業界の企業が参画してくるケースが増えてきたとも思っています。天気予報だけでも、海外の事業者では、たとえばIBMがThe Weather Companyを買収、AppleがDark Skyを買収するなどの動きがあります。新しいテクノロジーの進化やAIなどの進化に伴ってもっと予測精度を上げる取り組みも進んでいくのではないでしょうか。 災害情報についても、災害予測を行うようなベンチャーが海外を中心にして出てきています。これは10年前大きく変わったことですし、これからもどんどん変わっていくのだろうと思います。

災害を自分事にしていただくために Yahoo!天気・災害の展望

田中:
よりパーソナルな、本当に自分事になれる情報を出していきたいという思いは変わりません。ここに注力して、その人が避難行動につなげられたり、意思決定ができたりする情報を届けることにこれからも注力していきたいです。
自分事にしてもらうために、まずその人にとって身近な情報をちゃんと発信する。たとえば呼び掛け方にしても、たとえば身近な地域の名称で呼び掛けるなどです。情報の粒度を細かくすることだけが目的ではなく、その人に分かりやすい、本当に自分事に捉えられる呼び掛けができること。「今届いているこの情報は、自分に関係することなんだ。身を守るための行動をとらなければ」と感じられる情報発信が大事だと思います。

また、災害、防災の分野は、競合という考え方がないと考えています。他社とも協力して取り組んでいきましょうといえる分野だと思っています。
天気の分野ではもちろん、ヤフーにとっての競合他社さんがありますが、それらの会社さんとも、防災の分野では一緒に協力してできることはないか、という会話ができていますので、今後もさらに協力体制を強化していきたいですね。

竹内:
体感、実感的には、災害はこの10年で多くなってきているという感覚があります。
災害が多くなってきているということは、自分にもいつ同じような災害が来るかわからないという状態でもあります。その中で、自分事にどれくらいしていけるかということが、今後も大きな課題になっていくと思います。

Yahoo!防災速報から届く情報を初めて見た時は、テキスト情報がとても多いと感じました。
人によっては、読むのが難解、面倒だと感じると思いますので、いかに理解しやすい、わかりやすい表現でお伝えするかも大切だと思っています。
そして、災害マップのようなユーザー参加型のサービスにおいては、自分が関わっていく範囲を広げていく、情報を受け取るだけではなくて自分が持っている情報を渡すことで、同じ状況にある人たちに関わる範囲を広げていくような仕組みにしていければと思っています。

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田中:
たとえば「近所の人たちがみんな避難していたら自分も避難しなきゃいけないんじゃないか?」という日本人の特性、心理も理解しながら、自分のすぐ周りの人たちがどうしているかも含めた情報を可視化することによって、より自分事として考えられる機会が増えるかもしれません。

そして、災害発生時、自分がまず何をすればいいのか、はひとり一人違います。
国土交通省さんや各自治体が主導で実施している、「マイ・タイムライン」という取り組みがあります。台風や大雨などが近づいている時、災害の1日前にはこういうことをする、当日にはこういうことをする、と自分で行動を決めておき、その通り実行するためのタイムラインです。
このように、ひとり一人が予め災害のことを少し考えておくだけで「想定外」を減らせると思っています。Yahoo!天気・災害、Yahoo!防災速報は、そのために必要な情報提供を続けていきます。

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