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企業情報

2018.04.18

誰もが安心して利用できる自動運転で
「移動の自由化」を

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目的地を設定すると、運転者がいなくても車が走る自動運転。SF映画やアニメなどの世界で見たことがある方も多いかもしれませんね。

ひと言で「自動運転」といっても、実現しているテクノロジーや運転タスクによってレベル分けされています。政府発表の「官民ITS構想・ロードマップ2017」によると、レベル0からレベル2までは、通常の車と同じように運転者が全てまたは一部の運転タスクを実施します。レベル3、4では条件付きではありますが、システムが全ての運転タスクを実施、レベル5では無条件にシステムが全ての運転タスクを実施します。(図1)

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(図1. 自動運転レベルの定義)
出典:高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部:官民データ活用推進戦略会議、「官民ITS構想・ロードマップ2017」(外部サイト)

現在、世界中の企業がこぞって自動運転の開発を進めており、日本でも独自の研究や実験が進んでいます。今回は、SBドライブ株式会社の吉川さんとヤフーの北岸に、両社が取り組んでいる活動について聞きました。

SBドライブのミッションは自動運転を通じて社会を良くしていくこと

- SBドライブはどんなことに取り組んでいるのでしょうか?

吉川さん:
SBドライブは「自動運転を通じて社会を良くしよう」をビジョンにしています。
自動運転の車両自体は、パートナーシップである先進モビリティ株式会社が担当し、SBドライブは社会に導入するために必要なものをそろえていく部分を担当しています。

たとえば、自動で車を走らせるためにどんな法の整備が必要かを日本の行政機関と検討しています。自動運転を導入する際に自治体に対してどんな課題があるのか、また、その地域の方に喜んで乗っていただくための施策も実施しています。

さらに、自動運転によって将来的にはドライバーがいない「無人運転」になることが考えられるので、無人運転になっても遠隔で監視するためのシステムも開発しています。

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(SBドライブ株式会社の吉川さん)

独自のシステム「Dispatcher」で車内と車外の状況を管理

吉川さん:
2018年2月に、羽田で自動運転の実験を行いました。ドライバーは乗っていますが、基本的に運転はしていない状態で実施しています。そのときの速度やエンジン回転数などの情報を、「Dispatcher」というシステムでモニターできるようにしました。(図2)

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(図2. 「Dispatcher」の画面)

「Dispatcher」はSBドライブで独自に開発したものです。このネーミングは航空機の運行を管理する「Dispatcher」に由来しています。

「Dispatcher」では、車内だけではなく車外の映像も見られるようになっています。これとは別にセンサー類も付いており、障害物などを発見したら車をストップします。これにプラスして、SBドライブ独自のシステムとして入っているのが、車内の見守りシステムです。

バスの事故で多いのが、車内でのお客様の転倒です。そのため、AIが車内カメラを通じて倒れそうな人を見つけたら車内アナウンスでつり革などにつかまることを促したり、倒れている人を見つけたら遠隔で監視している人に通知を出したりします。お客様に対しても「大丈夫ですか?」と問いかけて対応できるようにしています。(図3)

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(図3. Dispatcher」の構成システム)

- 最終的にはレベル5を目指しているのですか?

北岸:
SBドライブの実験では「レベル4」相当に達していますが、最終的には移動の仕方が大きく変わるレベル5がゴールだと思っています。

吉川さん:
少し曖昧な言い方ですが、レベル4は人がまったく介さないというものです。羽田の実験でチャレンジングだったのは、運転者が運転席にいないことでした。しかし、遠隔で車両を停止できるようにしていたため、厳密にはレベル4ではありません。そういった意味で、レベル4「相当」としています。
レベル4と5、レベル3と4の間にそれぞれ壁があると思っています。
レベル3と4の間の壁は、法の整備だと思っています。車両に運転手がいなければならないとジュネーブ条約で決められていす。運転者がいなくてもいいようにするには、世界的な動きに合わせて日本の行政機関と一緒に取り組んでいく必要があります。

レベル4と5の違いは、どの環境でも走れるかどうかという点で、これはセンサーなどの壁になってきます。そのため、社会的な壁がレベル3と4に、技術的な壁がレベル4と5にあると考えています。

北岸:
自動運転のレベルの定義に関しては、日本も2016年までは変遷がありましたが、2017年からは米国に拠点を置く「SAE International」という団体が策定した「SAE J3016」に合わせています。

サービスが価値を持つ時代が訪れる

北岸:
この絵(図4)は、1956~57年ごろに電力設備会社が出稿した雑誌広告です。道に埋め込まれた電子デバイスによって自動車が自動制御されていますという内容が書かれています。
1957年というと、日本ではまだ自家用車が16~17万台ほどしか登録されていない時代ですね。

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(図4. 電力設備会社が出稿した広告のイラスト)

道路の真ん中に埋設されたマーカーのような物の上をトレースしながら車が自動的に走っていて、「交通渋滞がなくなります」「衝突しません」「疲れません」と、まさに今、私たちが言っているようなことが書かれています。

このような時代が実際に来ると、車の価値も多様化していくかもしれません。今は車を購入するときに、トルクや出力などの性能を気にすることが多いかもしれませんが、それがセンサーのレイテンシーやセキュリティー、ソファの座り心地や車内で受けられる娯楽サービス(図4ではブロック・ゲームやプラモデルのようなもの)を気にするようになるかもしれません。

そして、今後は移動に関連するサービスに価値が移っていくと考えています。先ほどの「Dispatcher」も移動に関連する重要なサービスのひとつとして位置付けています。

われわれが目指したいところは、誰でも自由に安心して楽しく移動できる「移動の自由化」のサービス視点からの実現です。

自動運転の「不気味の谷」とは

北岸:
話は少し変わるのですが、ロボットの世界ではよく「不気味の谷」というものが話題になります。 これは、ロボットに対する人間の感情的反応に関する理論として生まれたもので、ロボットの外観や動作を人間に近づけていけばいくほどに、好感が高まっていくが、極めて人間に近くなったときに、好感が嫌悪感に変わるというものです。

自動運転においても、レベル0からレベル5の完全自動化に近づけていくほどに、レベル3あたりで無人で走る車に乗ることへの不安が「不気味の谷」を引き起こすのではないかと考えています(図5)。
それはシステム(自動車)と人間との間の「意思の疎通感」や、自動車が「意志」を持つように感じることが一因になるのではないかと考えています。この谷を越えるための手段としても、自動運転におけるサービスはとても重要な役割を担うと思います。

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(図5. 自動運転における「不気味の谷」現象)

北岸:
まず「意思の疎通感」についてですが、レベル0からレベル2であれば安全運転に関わる監視、対応の主体が人間なので、アイコンタクトやジェスチャーなどで譲り合いなどの意思の疎通ができます。ですが、レベル3では人間とシステムとが混在、システムの内部の状態がわからないため意思の疎通が難しくなります。
そのため、システムの内部状態を人間が理解できる表現で可視化して相互に疎通できるようにするためのデザインやサービスが重要になってくると考えています。これは車対車だけでなく、車対歩行者でも同様に言えると思います。(図5)
次に車の「意志」についてですが、自動運転の車には司令塔が存在しており、車はその意志に基づいて適切にコントロールされているという安心感を持てなければ、利用者は車に身を委ねることができません。

「Dispatcher」も将来的には、車の内部状態を判断するために必要となるセンシング・データを収集・分析し、その結果を利用者に分かりやすく提示したり、あるいは配車や運行ルートを最適化する司令塔の役割を果たしたりすることも求められるようになるでしょうし、そうしていきたいと考えています。

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(図6. 仮想バス停サービス化後の利用頻度について)

バスを現状「ほとんど利用していない」方は39%で、そのうち9割弱が、仮想バス停が実現された場合のバスの利用頻度が「増えると思う」「やや増えると思う」と回答しています(図6の赤枠部分)。
これは、新たなバス利用者を創出できる可能性が示唆されていると考えられます。また、バスを現状「ほぼ毎日」利用する方は15%で、そのうち7割弱が仮想バス停が実現された場合のバス利用頻度が「増えると思う」と回答しています(図6の青枠部分)。
これは、自転車や自家用車とバスとを併用していた利用者が、併用をやめて、あるいは併用を減らしてバスを利用するようになる可能性が示唆されていると考えられます。アンケートには、「これから先、免許を返上するときが来ても不安がなくなる」という回答もありました。

吉川さん:
われわれは自動運転の時代になったら、ソフトウエアが大事になってくると信じています。それは、自動車もスマホと同じように、「ハードはなんでもよく、そのスマホで何ができるかが重要」というのと似ていて、その車でどのようなコンテンツが楽しめるのか、最適なルートを通ってくれるのかというように、その車で何ができるかが重要になると考えているからです。

バス停を仮想化することで公共交通の使い方も変わる

- ヤフーとSBドライブが一緒に取り組んでいる事業について教えてください

北岸:
今はまだ実証実験レベルですが、自動化されたバスに初めて乗る人が多いので、バスの乗車体験の仮説を立ててアプリを作り、実証実験を通してフィードバックをいただいて仮説を検証しています。

沖縄の実証実験では、バスの路線上ならという前提ですが、任意の場所からも乗車意向があれば乗れるようにしました。
具体的には、既存のバス停間に実在しない「仮想バス停」を需要に応じて位置を決めて出現させます。乗客が乗りたい場所でスマホの専用アプリのボタンを押すと、仮想バス停も含めて何分後にどこから乗れるという情報が見られ、実際にバス停以外の場所から乗車できます。

われわれは、乗客がどこからどこまで行きたいという「移動意図」と、車の運行スケジュールやルーティングとを最適化するための原動力などを提供してきたいと考えています。ヤフーが保有している、人の移動に関する意図を含んだデータと、SBドライブが保有する、車両に関するデータとを活用することで、実現できると考えています。

吉川さん:
ヤフーのデータを使って、どこにどう配車するかだけでなく、その逆もあると思っています。たとえば、ある地域でスーパーのポイントが5倍デーのときは、バス利用者が3倍に増えるというデータがあります。それは、われわれが持っているデータからはなかなか見えてきません。
そこで、どうしてこの日のデータは利用者が多いのか、という情報を解析して、その地域の人に対してだけインターネット広告を出そうとか、売れている商品がわかったら、それをYahoo!ショッピングで訴求してみようなどのデータの生かし方もあるのではないかと思っています。

北岸:
さらに、たとえば混雑ピーク時に乗ろうとしている人に対して「15分ずらしたら料金が安くなります」と促すことで、ピークシフトができるかもしれません。
ただ、ピークをシフトさせただけでは全体の利用者が増えないので、バス事業者的には乗客数のボトムアップがより重要になってくると思います。

沖縄の実証実験では「需要に応じて任意の場所から乗車できるバスサービスが登場したらどうするか」というアンケートを取りました。その結果、普段バスを利用していない人もこれなら使いたいという意見が6~7割ほどありました。

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(図7. 仮想バス停を利用しようと思ったか?)

移動意図と車両の運行スケジュールやルーティングを最適化することで、利用者の増加が期待でき、バス事業者の収益にも寄与できる可能性が示唆されていると思います。

- 自動運転関連では「2020年」というキーワードがよく出てきますが、現在目指している目標を教えてください

北岸:
レベル3の自家用車が市場に出てくるタイミングが2020年ごろ、高速道路でのレベル4が2025年ごろといわれています。
われわれは、まずは路線バスの自動化を実現するべく、「Dispatcher」の実用性をより高めるとともに、仮想バス停のような利用者と事業者視点に徹底的にこだわった新たなサービスを実現したいと考えています。

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(向かって左から:SBドライブ株式会社の吉川さん、ヤフーの北岸)

※記事内容および、社員の所属は取材当時のものです。

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