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2018.02.07

バス停以外からも乗れる? 自動運転で「仮想バス停」

自動運転バス

皆さんは、バス停に向かって急いでいるときに、乗ろうとしていたバスが自分のすぐ横を通り過ぎて行ってしまった…という経験はありませんか? 
もう少し手前にバス停があれば乗れたかもしれません。バスがすぐ近くまで来ている事がわかっていたら、もっと急いでバス停に向かえたかもしれません。
「バスはバス停に止まり、乗客はバス停でバスが来るのを待つ」
これが昔から変わらないバスの利用方法です。しかし、インターネットにつながったバスでは、その利用方法が変わるかもしれません。

2017年12月14日、15日に、自動運転バスによる「仮想バス停」のサービス実証実験を、SBドライブ株式会社などの協力を得て沖縄県宜野湾市周辺で実施。事前に募集した宜野湾市周辺在住の方(総参加者21名)に、自動運転バスにご乗車いただきました。今回は、この実験の内容をご紹介します。

「仮想バス停」とは?

バスに乗りたいと思ったら、まずバス停まで行かなければなりません。ですがこの実験では、既存のバス停間に普段はない臨時のバス停車候補地= つまり「仮想バス停」が設定されているので、決められたバス停まで行かずにルートの途中でバスに乗れます。

たとえば、利用者がスマホアプリなどで最寄りのバス停を調べたときに、その利用者の現在位置から既存のバス停よりも近い位置に仮想バス停が存在しているとします。その場合「この場所からも乗車が可能です。あと○○分でバスが到着します」と乗車提案をしてくれます。 この提案に対して利用者が「乗車希望」の意思表明を行うと、仮想バス停で乗車できるという仕組みです(図1)。

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(図1.「仮想バス停」の仕組み)

今回の実証実験でモニターユーザーに配布した実験アプリではバス停は以下のように表示されます(図2)。

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(図2.実験アプリにおけるバス停の表示)

バス停留所案内表示板のマークで示されているのが既存バス停ですが、それらとは異なる地点がオレンジ色の枠で表示されています。これが仮想バス停の場所です。

「仮想バス停」にはバス停留所案内表示板などが設置されていません。このままだと利用者に場所がわかりにくいのです。 専用のアプリをインストールしたスマホが仮想バス停として設定されている地点の付近に接近すると「近くでバスに乗れるようです」という下図のようなプッシュ通知が届きます。

通知をタップするとアプリが起動して、周辺の地図と走行中のバスの現在地などを表示。現在地に最も近い既存バス停と仮想バス停を、バスの到着予想時間付きで提案します(図3)。

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(図3.バス停の存在を示すプッシュ通知とバス到着予想時間の表示)

今回のモニター参加者を対象としたアンケートの回答には、バスを利用しない理由として「バス停までの距離」を挙げているものが複数ありました。なかには「自宅のガレージまでの距離は数メートルだが、バス停までは数百メートル歩く必要がある」といった回答もあり、バス停までの移動がバス利用のハードルを上げていることが示唆されていました。

たとえば、自宅の前など、好きな場所でバスに乗車できるようになれば、自家用車のような利便性が実現できるかもしれません。乗車の不便さを解消することで、今までバスを利用してきた人たちの利用率は向上し、これまでバスを利用してこなかった人たちも移動手段を自家用車からバスに切り替える可能性があります。

ですが、これを実施した場合に、バスの運行効率は低下するかもしれません。たとえば運行スケジュール通りにバスを走らせられなくなったり、運行本数を増やす必要性が生じたりするなどによって、収益の悪化につながる可能性が出てきます。

バス停を増やす事についての、バス利用者の不満とバス事業者の制約は相反するかもしれません。これらを対比して図式化したものが以下の図4です。

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(図4.利用者の不満と事業者の制約の対比)

バス停を増やすことで利用者側にとっては乗車しやすくなる可能性がありますが、既存のバス停をただ増やすだけでは運行スケジュールを順守する必要がある事業者側にとってはデメリットが増える可能性もまた考えられます。

そのため、乗車時の利便性向上と運行効率の最適化を行う、次世代型のバス、バス停への転換が有効なのではないかという仮説が成り立ちます。

【バス事業の現状】

長年、公共交通機関としての役割を担ってきたバスは、現在大きな問題に直面しています。なかでも特に大きな問題は利用者の減少です。

利用者の減少に伴い、路線バス事業の多くは赤字となっており(図5)、路線自体が廃止されるケースもあります。路線バス事業者数も減少傾向となっています。

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図5.路線バス事業の状況(平成28年度))
出典:
国土交通省 「報道発表資料 平成28年度乗合バス事業の収支状況について」
平成28年度の一般乗合バス事業(保有車両30両以上)の収支状況について

【実証実験参加者へのアンケート結果と考察】

実証実験で仮想バス停を体験していただいたモニター参加者は、仮想バス停に対してどのような印象をもったのでしょうか? 図6は「体験前後における『仮想バス停』の利用頻度への変化」についての質問に対する回答です。

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(図6.仮想バス停サービス化後の利用頻度について)

バスを現状「ほとんど利用していない」方の34%が、仮想バス停が実現された場合のバスの利用頻度が「増えると思う」「やや増えると思う」と回答しています(図6の赤枠部分)。
これは、新たなバス利用者を創出できる可能性が示唆されていると考えられます。また、バスを現状「ほぼ毎日」利用する方の10%が、仮想バス停が実現された場合のバス利用頻度が「増えると思う」と回答しています(図6の青枠部分)。
これは、自転車や自家用車とバスとを併用していた利用者が、併用をやめて、あるいは併用を減らしてバスを利用するようになる可能性が示唆されていると考えられます。アンケートには、「これから先、免許を返上するときが来ても不安がなくなる」という回答もありました。

一方、前述したとおり、「現実には見えない」仮想バス停の存在を知らせるために、利用者が仮想バス停の近くに接近した際に、仮想バス停の存在と位置情報をスマホに対してプッシュ通知で支援するサービスを提供しました。
今回はこのサービスの受容性も調査しました。

モニター参加者のうちでこのアプリ通知を認知した人の割合は 図7のとおり、モニター参加者の76%が認知したと回答しています。

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(図7.アプリ通知を認知した割合)

さらに、認知したモニター参加者の仮想バス停の利用意向に関する質問への回答は図8のとおり100%が「利用しようと思った」「やや利用しようと思った」と回答しています。これは、「現実には見えない」仮想バス停でも、バス停の存在通知や位置の可視化を丁寧に行うことで、仮想バス停を意欲的に利用いただける可能性が示唆されていると考えられます。

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(図8.仮想バス停を利用しようと思ったか?)

狭い地域、かつ限定されたケースでの実験結果ではありますが、「仮想バス停」というアイデアを取り入れた新しいバス交通サービスを提供することで、普段バスを利用していない移動者の新たな需要を創出する可能性(創客効果)や、既存のバス利用者の利用頻度が向上する可能性(送客効果)が示されたことに手応えを感じました。

一方、バス利用者が実際にバスに乗車するまでの一連のプロセスである、バス停を「探す」「移動する」「見つける」、そしてバスをバス停で「待つ」については、現実的には見えない「仮想バス停」ならではの課題とその解決策が示唆されたことで、便利で使い勝手の良いアプリケーション開発に役立てることができそうです(本レポートでは特に「探す」にポイントを絞って記述しました)。

引き続き、来たる自動運転時代に向けて、「移動者の移動要求を適切に理解して、最適な移動手段を探し出し、適切に移動を支援することを可能とするクラウドのエンジン」の実現を目指していきます。

バスの写真

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