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企業情報

2017.09.27

男性学・田中俊之さんにきく 働き方・生き方を変えるヒント

大正大学心理社会学部准教授の田中俊之さん

Yahoo! JAPANは、2017年8月21日(月)から25日(金)の5日間、「ダイバーシティウィーク2017」と題して、一人ひとりがダイバーシティ(※)を考えるきっかけづくりを目的としたイベントを開催。 そのなかで、「男性学」の第一人者である大正大学心理社会学部准教授の田中俊之さんをお招きして、「多様化する時代を生き抜くヒント」をご紹介いただきました。
(※)ダイバーシティ:企業において、人権・国籍・性・年齢を問わずに人材を活用しようという考え方。
Yahoo! JAPANでは、この考え方に加えて、経験や価値観、ライフステージなどの違いにかかわらず、社員一人ひとりを尊重し、活躍できる土台をつくり、多様なサービスや事業のイノベーション創出に生かしていくことを目指しています。

「男性学」とは、男性が男性であるがゆえに抱える悩みや葛藤を対象にした学問のこと。
たとえば…
・平日の昼間に男性が町をうろうろしていると、それだけで怪しまれる
・平日の昼間に、泣く子の手を男性が引いていたら、誘拐と疑われかねない
そんな思いを抱いたことはありませんか? でも、同じことを女性がしても、怪しまれることはあまりない・・・この違いは一体どこから生まれるのでしょうか?

「男は仕事、女は家庭」から 「男も女も、仕事も家庭も」 に抱く違和感

日本は、かつての「男は仕事、女は家庭」という考え方がまだ主流だった時代から、「男も女も、仕事も家庭も」という時代に変わってきています。
「男も女も、仕事も家庭も」
このような考え方は、男女共同参画や女性活躍推進といった文脈で、よく目にするものです。
この、一見すると「男女の平等な生き方」を表現しているかのように感じられる考え方には、次の三点で問題があります。

1. 生涯未婚率の上昇
2015年の国勢調査によると、生涯未婚率(50歳の時点で一度も結婚したことのない人の割合)は男性で23%、女性でも14%でした。
独身男女が多くなっているにもかかわらず「男も女も、仕事も家庭も」というキャッチフレーズは結婚を前提としており、独身の人たちは含まれていません。
近年、企業の中では、子育て中の時短勤務者の代わりに独身者が働くというケースも発生しています。独身者からすると「自分たちはダイバーシティの対象ではない」という疎外感を抱くこともあるのではないでしょうか。

2.離婚の増加
共働きを前提とした「男も女も」という表現をしてしまうと、シングルマザーやシングルファーザーが対象外となってしまいます。より困難を抱えている人が入っていないようにもとらえられます。

3.男性同士、女性同士のペア
男女がペアである前提の表現のため、性的マイノリティーが含まれていません。男性同士、女性同士のペアが対象外となってしまいます。

このように、今の社会の流れにおいて、一見賛同が多く得られそうな考え方であっても、現実に起きている事実が排除されているケースがあることを、私たちは理解する必要があります。

大正大学心理社会学部准教授の田中俊之さん

「中高年男性の働きすぎ」は、本音では問題視されていない!?

ここからは「男性学」で扱っている、男性が男性だからこそ抱える問題を紹介します。

まず、働きすぎの問題があります。実は、働きすぎの問題は1980年代後半から問題視されていました。過労死が社会問題になっていたからです。
問題視されながら、30年間も解決に至っていないということは、実は本音では誰も問題だと思っていないのではないでしょうか。特に、中高年の男性の働きすぎを問題視しない傾向があるように思います。

たとえば、私たちは「お父さんが働いていれば、家族はご飯を食べていける」という根強い固定観念を持っているのではないでしょうか? 逆に「平日昼間に家にいるお父さん」の存在は不安だという方も多いかもしれません。
つまり、中高年男性で一番心配される状態は無職であり、私たちは「働いていない中高年男性はおかしい」という偏見があるといえます。

同時に、中高年男性自身も自分の首を絞めるような偏見を持っています。 その代表事例として「誰が飯を食わせていると思っているんだ!」という発言があります。 これは、「お金を稼げることが自分の存在価値である」という意味であり、裏返せば「お金を稼げなくなったら(自分には)存在価値がない」という考え方になるのです。

なぜ、いまだに一部の男性が、このような発言をしてしまうのでしょうか。
この問題の社会的背景として、男女の賃金格差があります。今の日本では、男性の賃金を100とした場合の女性の賃金は70といわれています。
まず、この賃金格差を改善することが必要です。その上で、男女の偏見なく働くことをとらえていく必要があります。

男性のみなさんにお伝えしたいのは、中高年男性の働きすぎや過労死の問題について、社会のリアクションは薄いということ。
実際、働いている男性が仕事にコミットしていることは評価されますし、男性自身も誇らしい気持ちを持ちがちです。そのため、現在の日本では、働きすぎにストップをかけられるのは、自分自身しかいないのです。

講演の様子

男性が働かなくてもいい?「働かない」という選択肢も考えてみる

東日本大震災以降に生まれた「いのちとライフコースの社会学」という領域に、ライフコースを「生命・生活・生涯」の三つの視点でとらえ、そこから私たちの生活、生き方を見直そうという考え方があります。この考え方を、ワークライフバランスに当てはめてみました。

1.仕事と生命のバランス
生きるために仕事をしているのにもかかわらず命を削ることは、どこかおかしいと思いませんか。最悪のケースが過労死です。
もし、生命を考えるのが重いと感じるのであれば、健康に置き換えて考えてみてください。

実際には、責任が大きくなれば、仕事の上で自分の代わりはいないというケースもあると思います。きれいごとだけでは済まされない難しい問題ですが、ベースには必ず、自分の命を大事にすることを念頭に置いてください。

2.仕事と生活のバランス
これはいわゆる、一般的なワークライフバランスの考え方です。もちろん、目の前の生活が成り立たなければ未来はありませんから、これも大切な視点です。

3.仕事と生涯のバランス
仕事は結局終わるときがきます。仕事だけしてきた定年者対象のインタビューでは、喪失感と虚無感を感じている方が多いという結果が出ています。生涯の中の1部として仕事をとらえることも大切だと思います。

大正大学心理社会学部准教授の田中俊之さん

今、ダイバーシティ推進が話題となっていますが、難しくとらえる必要はありません。 先ほど「男も女も、仕事も家庭も」という考え方が当てはまらない人もいる、というお話をしました。特に男女共同参画や女性活躍推進については、性別にとらわれず、いろいろな生き方があってもいいんだという考えを広めているととらえてもらえばいいと思います。

特に、日本の場合、男性は働くのが当たり前の社会で生きています。だからこそ、男性には「自分は何で働くのか?」を考える機会が女性に比べて少ない。
女性は、結婚や出産・育児などの節目に、働く理由を考えるタイミングがありますが、男性は働き続けることが前提になっているため、理由を考えずに働き続けてしまっている場合があるのです。

男性のみなさんは一度、働かないという選択肢を含めた上で、働く理由を考えてみてください。その答えを模索することが今後、自身の人生において、主体的に働くことにつながると思います。

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