ヤフージャパン研究所の坪内と、テクノロジーシステム統括本部の丸山の画像ヤフージャパン研究所の坪内と、テクノロジーシステム統括本部の丸山の画像

課題解決特集 #1情報技術社会の発展未来の混雑を予測し、ユーザーの課題を解決したい

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ヤフーは「課題解決エンジン」として、情報技術で人々や社会の課題を解決することをミッションに掲げています。2018年2月に開始した「Yahoo!乗換案内」アプリ※の新機能「異常混雑予報*」は、電車内や駅の異常な混雑をAI(機械学習)で予測するサービスです。この混雑予報を利用すると“いつもより混む”といった異常混雑を回避することができ、よりストレスの少ない移動が実現します。この新機能は、1人の研究者と1人のエンジニアによって誕生しました。異常混雑予報がどのように課題解決につながっていくのか、開発の経緯や今後の展望について話を聞きました。
※アプリ版を「Yahoo!乗換案内」、ウェブ版を「Yahoo!路線情報」と記載しています。

PROFILE

  • 坪内孝太の画像

    坪内 孝太

    Yahoo! JAPAN研究所 上席研究員。2010年より東京大学にて新交通システム、交通データの解析の研究開発に従事。 2012年より現職。現在、マルチヘテロ時系列データ解析(コンテキストアウェアネス)の研究に従事。博士(環境学)。 さまざまなヤフーのデータを横断的、統合的に解析し、新しい発見をする日々。

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    丸山 三喜也

    テクノロジーグループ システム統括本部 大阪開発本部 ローカル検索開発部。2008年にヤフーにエンジニアとして入社。Yahoo!保険、Yahoo! toto、震災タスクフォース、Yahoo!占い、Yahoo!路線情報など複数サービスでシステム開発に携わり、保守運用を行いながらwebやアプリの開発に従事。現在は開発だけでなく企画も担当。異常混雑予報を立案しYahoo!研究所との共同研究を進め、そこで得られた成果を元にサービス化を実現した。

※所属や肩書は2018年10月現在のものです。

文・吉田広子(オルタナ編集部) 写真・川畑嘉文

Yahoo!路線情報*」の利用者数が月間で1500万人に上ると聞いて驚きました。蓄積された膨大なデータをどのように活用されようとしたのですか。

丸山

路線へのアクセスログは当時から蓄積していたのですが、異常混雑予報を実現するために必要なデータはそこには含まれていませんでした。2015年4月に開かれた社内セミナーで坪内さんの話を聞いて異常混雑予報を思いつき、そこから必要なデータを整理し蓄積し始めました。一日に3000万ほどの検索があるのですが、その都度リアルタイムでサーバーにデータを蓄積しています。

坪内さんのセミナーはどのような内容だったのでしょうか?

丸山

「都市動態解析」に関するセミナーでしたね。

坪内

「都市動態解析」は、「いつものパターン(通常時)」を求めるモデル(学習方法)です。例えば、ある晴れた日、赤坂見附駅に、朝8時ならどのくらいの人がいるのか。こうした研究成果を社内セミナーで発表しました。

「いつものパターン」を求めるのは簡単なことではないんです。雨と晴れでも変わるし、曜日によっても違う。「いつものパターン」が分かると、いつもとは違う「異常」も分かります。例えば、いつもの浅草駅と、隅田川の花火大会がある日は明らかに違います。そこで、丸山さんから、乗り換え案内に応用できないかと相談を受けました。

Yahoo!路線情報を操作する画像

丸山

当時は、検索ログ*を使えば混雑を予想できるのではというぼんやりとしたイメージしかありませんでした。いつ、どこからどこまで行くのに、どういったルートを使うかといった情報があるので、その情報を集めて集計すれば乗車傾向が分かり混雑も分かるのではないかと。

ただ具体的にデータをどのように処理すればよいのか、混雑をどう定義するかなどは定まっていませんでした。そういったことを考えているときにセミナーに参加しました。内容を聞いた瞬間「この研究成果を路線で適用すればきっとできる!」と感じました。

坪内

当時は、アカデミアな分野でも「いつものパターン」を求めることが精一杯で、「予測」までは行きついていませんでした。雨が降ったり、気温が低くなったり、ありとあらゆる条件があるなかで、「いつものパターン」を求められるようになった、これだけでも十分に画期的でした。

ところが、ある大学の研究グループがさらに先を行く研究成果を発表しました。位置情報から20分先の未来を予測するというものです。トップカンファレンス(国際会議)でその発表を聞いて、とても悔しかったです。

お二人の出会いが、「混雑予報」を生み出したのですね。

坪内

まさにそうですね。丸山さんから相談を受けたときに、少し先のことが分かる「シティ・モメンタム:City Momentum(都市動態)」の研究論文を思い出しました。City Momentumは、20分先の未来が分かる研究ですが、乗り換え案内のログには未来の行動の意図が含まれているので、City Momentumを超えて、「シティ・プロフェット(予言)」ができるのでは? と考えました。そして、試しにやってみたところ、うまくいきそう! となりました。研究の末、計画通りCity Prophetという論文を書き上げました。

Yahoo! JAPAN研究所の研究成果をサービスへ実装

ヤフージャパン研究所の坪内と、テクノロジーシステム統括本部の丸山の画像

Yahoo! JAPAN研究所が2007年に設立され、10年以上が経ちました。こうした研究成果がサービスに結びつくのはよくあることなのですか?

坪内

研究成果をサービスに実装するのは、ハードルが高いことが多いです。「明日のKPI」を求められるというのが、サービスの世界で、乗り換え案内というサービスのエンジニアである丸山さんが、こうした研究に興味を持って、実装まで情熱を燃やし続けてくれたことはとても大きな意味があります。

丸山

当時は、ヤフーが提供するサービスのスマートフォン対応が課題でしたので、全社的にアプリの磨き込みに力を入れていました。なので正直なところ、「『混雑予測』よりもっと他にやることがあるんじゃないの」という声もありました。

坪内

そうなんですよ! 丸山さんはいつも「ちょっと時間がかかっていますが、順調です!」しか言わなかった。リリース後に初めて丸山さんの苦労を知りました。こっそりと粘り続けた丸山さんは本当にすごい。

丸山

2016年1月には、ロジックやアルゴリズムが完成し、2月に坪内さんがトップカンファレンスで研究成果を発表しました。そこでサービス化のめどがついたので、坪内さんからプログラムを引き継ぎ、実装化に向けた見直しをして、開発を進めました。

実装するにあたってどんなところを重視しましたか?

丸山

混雑度を決める閾値ですね。どこから混雑として扱うか、どうやって混雑を3段階に分類するかは最後まで悩みました。ちょっと混雑しただけで迂回ルートを案内しては逆に時間のロスにつながってしまいますし、実態とかけ離れていては使い物にならないので。そのため、検証時には実際に混雑を予測して駅に行き、予測した結果が適切かを目で確認するようにしていました。

スムーズな移動と地域の活性化にも貢献

ヤフージャパン研究所の坪内と、テクノロジーシステム統括本部の丸山の画像

ヤフーは、「課題解決エンジン」として情報技術で人々や社会の課題を解決することをミッションに掲げています。課題をどのように解決したいと考えて、「異常混雑予報」を開発されたのですか?

丸山

なるべくストレスの少ない移動を実現したいなという思いがありました。「混雑予測」を使えば、混雑している路線の迂回ルートが示されたり、路線は変えずに時間をずらしたりできます。今後は空いている時間帯も表示できるようにしたいですね。

車いすの方やベビーカーを押している方などの移動にも役立ちそうですね。

坪内

ですね。私も、東京で子育てをしていたので、その大変さはよく分かります。ベビーカーを押しながら、移動するのは本当に大変です。

丸山

車いすの方、妊婦や高齢者、お子さん連れの方など、混雑を回避して楽に移動する手助けができればと考えています。とはいえ、課題もあって、通勤時間帯の混雑などは、「いつものパターン」で「異常」ではないため、予測できないのです。今後は通常の混雑も予測していきたいですね。

テクノロジーシステム統括本部の丸山の画像

エレベーターの位置やユニバーサルトイレの有無なども乗り換え案内に統合していく予定はありますか。

丸山

はい、ユーザーの方々からもそういった要望をいただいており情報の拡充を検討しております。徐々に提供する情報を増やしてはいるのですが、まだ改善の余地はありますね。

坪内

他のサービスへの応用も可能です。例えば、あるABC駅で3日後に、アイドルのコンサートがあったとします。そうすると「3日後を指定してABC駅に到着する電車を検索」しているユーザーは、そのアイドルのファンである可能性が高いわけです。こういうユーザーに対して、例えばこのアイドルのグッズの販売などを「Yahoo!ショッピング」で提示したり、ファンクラブへの会員の招待メールをそのユーザーに送信したりすることで、良い反応が期待できます。このようにこのYahoo!路線情報の検索ビッグデータを、他のヤフーのサービスで活かす、といったことが可能になるのです。

これまで日本のビッグデータは量だけで勝負していました。これからは、量ではなく、データの多様性*がものをいう時代になるんです。多種多様なデータをマルチに解析できるのはヤフーならではの研究といえます。ヤフーのビジネスにつなげるだけではなく、ユーザーにとってより有益な情報を提供していきたいですね。

「混雑予測」の活用は、都心部に限られるように思うのですが、地方ではどのように役立ちますか。

坪内

地方でも「異常混雑」の予測は役立ちます。例えば、駅前のお弁当屋さんが「異常混雑」を事前に知ることができれば、お弁当の仕入れ数を増やすこともできます。それまでの「勘」と「経験」の世界から、より正確なデータを活用できるようになります。むしろ、地方の方がより広く活用できる可能性があると思っています。

丸山

検索の絶対数ではなく、検索数の比率で見ているので、10人、20人と検索数が少なくても「異常」が分かるのです。人数を読めないイベントや、初めてのイベントなどでも活用できるのは利点ですね。

坪内

毎年開催されているイベントでも、テレビで取り上げられるなど、急に来場者が増えることもあります。そうしたときに「売り切れごめん」ではなく、事前に対策できるのです。チケットの売上数から、ある程度予測はできますが、主催者しか知りえない情報もあります。

鉄道会社もデータを持っていますが、検索による「予測」がこのサービスのポイントですね。

坪内

鉄道会社は乗客数を「結果」として持ってはいますし、過去の実績からシミュレーションもできます。しかし、「当日」の「予測」はできないのです。過去の実績はあくまで過去の実績で、現在の状況を反映していないですから。

例えば、隅田川の花火大会の場合、今年は開催予定日の土曜日が台風で延期になり、日曜日の開催となりました。昨年は土曜に開催されましたが、途中で雨が降りました。2013年は、中止となっている。同じイベントでも、毎年少なからず前提条件が異なるのです。昨年参加した人が、今年も同じイベントに参加するとは限らないですよね。こういうこともあり、予測は難しいとされていたのです。一週間前に、ある程度正確な数が分かるということが、混雑予測のポイントです。

丸山

発展形として、アイドルのコンサートに行った人が、次はどこに行くといった傾向や行動パターンを予測できるようになるかもしれません。そうすると、まだ顕在化されていない地方の観光地の発掘にもつながります。

ユーザーの「超理解」へ

ヤフージャパン研究所の坪内の画像

今後はどういった課題を解決していきたいですか。

坪内

世の中には「勘」と「経験」と「コツ」で成り立っているものがとても多いのですが、それらをデータ化することで、解決できることがたくさんあります。

ヤフーの場合、人の動きを追うだけではなくて、どう考えてその行動を取ったのか、まで分かります。アタマの部分がヤフーの検索結果に出て、カラダの結果が位置情報に出ているともいえます。さまざまなサービスのデータをかけ合わせれば、いろいろなことができます。

私は、ユーザーの「超理解」をテーマに研究しています。よりユーザーのことを理解する「超理解」を用いればユーザーが気付いていないような利便性の高いサービスも提供できます。そうなると「気持ち悪い」を超え、「すごい!」に変わるのです。

例えば、一カ月間、いつ、どこにいるか、人の位置情報を記録したとします。そうすると、いつも家を出る時間に家にいると、「まだ出なくていいの?」といった案内ができます。家にいるということは、トラブルが起こったり、具合が悪かったりするのかもしれない。先を読んで次のサービスを提供するのが超理解です。

丸山

運行、運休情報などまで予測できるようになれば、さらにユーザーの課題を解決できると考えています。また、ルート検索結果から宿泊しそうなユーザーを導き出しホテル予約につなげる。といったことができれば、ユーザーの行動サポートにもなりますし横連携の強化にもなると思います。そういった行動に応じて適切なコンテンツを提供するといった取り組みも今後やっていきたいです。

ヤフーは災害支援・防災活動*にも力を入れていますが、こうした予測は災害時にも役立ちそうですね。

坪内

まさにいま考えているところです! 逃げる、逃げないの判断材料になるような情報まで提供していきたいと考えています。

本文中キーワード解説

  • * 異常混雑予報
    月間1500万人の利用者を誇るYahoo!路線情報の膨大な検索データをもとに、独自のアルゴリズムで異常による混雑度を3段階で示す新機能です。当日から5日後までの予報を10分単位で表示します。「Yahoo!乗換案内」アプリを利用すると、「混雑アイコン」が表示され、事前に混雑するルートや時間が分かります。対象路線は、JR東日本、JR西日本、東京メトロ、私鉄、新幹線など、順次拡大中です。
  • 異常混雑予報のページキャプチャ

    異常混雑予報をおしらせする画面

  • * Yahoo!路線情報
    全国の路線や高速バス、路線バス、飛行機の乗り換え案内サービス。現在地と行先を入力するだけで、ルートが表示される便利な機能です。
  • * 検索ログ
    ヤフーでは、検索条件を一定期間保管しています。これがビッグデータになります。
  • * データの多様性
    Yahoo!検索やYahoo!路線情報はもちろんのこと、Yahoo!ショッピングの購買履歴やYahoo!ニュースの閲覧履歴など、ヤフーには多種多様なデータが日々蓄積されています。
  • * 災害支援・防災活動
    ヤフーは、東日本大震災における復興支援活動や、来たるべき災害にそなえた「SEMA」の設立、情報伝達のための「防災速報」などのサービス提供を行っています。

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