宮城県三陸沿岸の3市2町を舞台に開催された、東日本大震災の復興支援および震災の記憶を未来に残していくことを目的としたサイクリングイベント「ツール・ド・東北」。株式会社河北新報社とヤフー株式会社が開催したこのイベントを実際に体感すべくLIGブログ編集部員が自身の自転車とともに参加してきました。
PROFILE
- しぶや
- LIGに所属するWebコンテンツの編集者で、普段から自転車通勤している。青森県出身で、自衛隊にいた過去を持つ。好きな言葉は「力こそパワー」。
LIGブログ編集部員による「ツール・ド・東北」参加レポート

こんにちは、LIGブログ編集部のしぶやと申します。
いきなりですが、先日河北新報社とヤフーが主催する「ツール・ド・東北」に参加してきました。
さて、この記事では「ツール・ド・東北」がどういう大会なのか、どういう目的で開催されているのか、どうしてヤフーが主催しているのか、などを実際に参加して見たこと、感じたことや、インタビューを交えながら、お伝えしていきますよ。
今回、僕が走ったのは……

「ツール・ド・東北」は2013年から毎年開催されており、今年で節目の5回目。2017年9月16日(土)、17日(日)の2日間にわたって、総勢3,721名のライダーが参加したそうです。
今回僕が走ったコースは、今年より新たに設けられた「奥松島グループライド&ハイキング(70km)」。
タイムや順位を競うのではなく、10名くらいずつでグループを組み、比較的ゆっくりと海岸沿いなどを走ります。途中には、日本三景のひとつ「松島」もあるので、楽しみなのでした。
スタート前の様子

みんなカッコいい自転車乗ってるなー!
(高そう)

ご当地の食べ物を食べられる出店の並ぶメイン会場!

僕は今回、クロスバイクでの参戦。ロードバイクしかいないと思っていたけど、意外とクロスバイクの参加者もいるんですよ。一人じゃない! よかった〜!

スタート前はこんな感じ。一直線に並びます。

合図とともにスタート。ここから70kmの旅が始まります。休憩が多いコースなので、時間にして5時間ほどで戻ってくる予定。道中はダイジェストでどうぞ。
いまだに残る、3.11の爪痕。そして、東北の景色と食

「ツール・ド・東北」の目的のひとつは、「被災地の現状を知ってもらう」ことです。走行コースには各所に震災の爪痕が残っていて、僕の走るコースにも当時の建物が残っていました。

津波の影響で使用不可能となった旧・野蒜(のびる)駅。今は当時の震災を伝える震災復興伝承館としてこの場所に残っています。
青い看板は、津波が到達した高さを知らせるためのもの。なんと3.7メートルの津波が押し寄せたそうです。

震災復興伝承館の中にある時計は、あの時から止まったまま。

津波によって、根元から倒れた柱。あらためて威力を実感します。

震災時、3メートル以上ある津波の被害にあった野蒜小学校。自治体の指定避難所に指定されていましたが、誰も津波がくるとは思っていなかったそうです。

学校の近くにあった学習等供用施設。この施設も津波で使用不能に。

もちろん、きれいな景色も見られます。
ここは奥松島にある月浜海水浴場から見る風景。「いやぁ、いい眺めですね〜!」と言っているところ。自撮りしている女性ライダーたちもいましたよ。

コースの途中には、ハイキングコースもあって、こんな山道を登っていくと……。

松島を見渡せる展望台へ! うーん、絶景ですね! ここは松島四大観(しだいかん)のひとつ、大高森という場所です。

松島の景色を横目に……。

なんかこの電柱の並びよくないですか?

左側は川、右側は田んぼ、まっすぐ続く道路。
最高に気持ちいいですよ。

ツアーの途中では、地元の名物を試食できるコーナーも。こちらは東松島名物「サラダのりうどん」。

東松島で採れた海苔と麺が絡み合っておいしい……! スープもあっさりしているから、こうした走行会の合間でもたくさん食べられそう!
ちなみにこちら、そばのように見えるけど、うどんらしいのですよ。
こうしたユニークなご当地フードに出会えるのも「ツール・ド・東北」の魅力ですね!
語り部が語る、震災当時の状況

東松島では、東日本大震災の当時の模様を語り継ぐ語り部の方々が、リアルなお話を聞かせてくださいました。
PROFILE
- 早川宏さん
- 東松島市 野蒜まちづくり協議会会長
- 山縣嘉恵さん
- 東松島市 野蒜まちづくり協議会副会長

早川さん「一緒により良いイベントにしていきたい」
東松島にも避難所や仮設住宅から続々と人が戻ってきつつあり、ようやく高台も落ち着いてきました。
今は新たなコミュニティを作り始めたところで、新しい東松島として立ち上がるには「まだまだこれから」というところですが、みんな「全国のいろんな人たちのお世話になってきた。だから恩返しをしなきゃ」という思いでいっぱいです。
「ツール・ド・東北」が開催されることで全国のサイクリストがここまでやってきてくれること自体がうれしい。また、訪れてきてくれた人から刺激をいただけるのも大きいんです。私たちからも働きかけをして、一緒により良いイベントにしていきたいと思います。

山縣さん「オールジャパンで各地の復興に取り組もう」
「(東日本大震災があった)あのときは何もできなくて……」っておっしゃる方もいるんですが、今こうして東北まで来てくれて、私たちと交流の機会を持ってくださることが一番うれしいんです。それによって思いを共有できるし、それがまた別の人へと伝わっていく。それによって、被災地のことを気にかけてもらえるわけですから。
何かつらいことがあったときとかに「そういえば、石巻のあのおばちゃん、頑張ってたな」って思い出してくれるだけでもいい。お互いが元気をもらいあえるような関係でいたいですね。そういう意味で、この「ツール・ド・東北」が東北に来るキッカケとなっているわけですから、開催してくれていることに意義があるんだと思います。
今は日本のあちこちで災害が起こっていて、被災地といってもここ東北だけじゃありません。今、日本はまさにオールジャパンで復興に取り組まなければいけないときにあるのでしょう。

真剣に話を聞く参加者の方たち。改めて、こうした出来事を語り継いでいくことの大切さを感じました。
5年連続で「ツール・ド・東北」に参加して感じたこと

今回、「ツール・ド・東北」に5年連続で参加しているというヤフー社員の山本麻実さんに、これまでとこれからの「ツール・ド・東北」についてお話を伺ってきました。
PROFILE
- 山本麻実
- マーケティングソリューションズカンパニー ディスプレイ広告事業本部 プログラマティック広告商品部販売促に所属。「自分の身近な人にも届くようなサービス提供をしたい」という想いからヤフーを選んだ。自転車は入社1年目の冬に出会い、まわりの影響もあってライフワークのひとつになった。「ツール・ド・東北」には5回連続で参加している。

入社1年目での自転車との出会いと「ツール・ド・東北」
趣味でサイクリングをはじめたのは、社会人になってから。ヤフーに入社してすぐです。弊社には自転車の同好会があって、そこで2011年からずっと参加しています。歩きだととても時間がかかる距離を駆け抜けていくのが楽しいですね。そんな流れで、先輩たちからなかば強制的に(笑)誘われ、最初の「ツール・ド・東北」に参加することになりました。以前から復興支援やボランティアに携わりたいって思っていたので、とても良いタイミングでした。
初年度(2013年)は運営側をサポートしていたので、イベント当日よりも直前までの準備に奔走していました。主な業務は、試走やコース準備、FacebookやTwitterなどSNSを駆使しての情報発信でした。たとえば、自転車を現地に運ぶ運送会社の利用方法について、実際に自分で使ってみてその方法をお伝えしたりもしていましたね。当日には同じくSNSから会場の様子などをレポートしていました。
この活動はもっと可能性を秘めている
初年度から「ツール・ド・東北」に携わらせていただき、回数を重ねるごとにイベント自体が成長しているのを感じます。また、石巻の景色の移り変わりも印象的です。数年前まで工事現場だった場所に立派な建物ができているのを見ると、復興が進んでいることを実感しますね。
「ツール・ド・東北」に参加すると、東北の皆さんがあたたかく応援してくださるのを感じます。そんな声を受けると、「また来年も参加しよう」という気持ちになりますね。
去年からは、地元の民家に宿泊して交流を深められる民泊の制度を利用しているんです。ホスト家族といろいろお話ししていて、当時の被災模様だったり、バラバラになってしまった家族のことなど、リアルな声を聞くことができるんです。それがずっと胸に残るようになって、東北のことはもちろん、防災に対する考え方も変わってきました。部屋の家具の置き方だったり、災害時の家族との連絡方法の整理、常備食を用意しておくなど、意識面が変わりましたね。
「ツール・ド・東北」は10年の継続開催を目標のひとつとしています。この「ツール・ド・東北」をキッカケに、被災した各地を支援する活動を広げていけるといいですよね。これはサイクリングイベントですが、自転車に限らず、もっといろんな人が足を運べる環境、そして継続していけるシステムができれば、より良い連鎖が生まれるはず。「ツール・ド・東北」は、そんな可能性を秘めているイベントだと思っています。
復興の手助けとしての「ツール・ド・東北」を体感

僕も無事、完走いたしました!
今回参加した「奥松島グループライド&ハイキング」は初心者向け設定ということで、アップダウンの少ないコース設定でペースも緩やかだったので、風景を楽しむ余裕が持てる「ツール・ド・東北」初参加者にはちょうど良いコースだったと思います。来年はロードバイクを購入し、プライベートで別のコースに参加したいと思います!
復興に励む東北の各地を巡るコースでサイクリングを楽しませつつ、現地の模様や当時の様子を体感させてくれる「ツール・ド・東北」。改めて被災地を訪れ、その地に暮らす人々との交流の大切さを感じさせられました。
10年程度継続して開催することを目標のひとつとする「ツール・ド・東北」は、折り返しとなる5回目の大会を終えました。次の5年へ向けて地域に根付いた活動がさらに展開されていくことに期待したいです。
所属や肩書は2017年9月現在のものです。