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2021.11.08

「誰もが選挙に参加できる世界を」視覚障がい者をサポート 聞こえる選挙

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現在、日本国内の視覚障がい者の方は、約31万人(※1)。そのなかで、最も障がいが重い1級(※2)の方は約10.5万人といわれています。ですが、インターネット上の選挙公報から情報を取得することはまだ難しいという課題があります。

ヤフーは、視覚障がい者の方の選挙情報の取得に対するハードルをなくし、この課題を解決することを目指しています。
そのため、2017年から、全ての候補者や政党の政見などを記載した選挙公報の情報をテキスト化してサイト上に掲載し、パソコンなどの画面表示を音声化して操作するソフト(スクリーンリーダー)で読み上げられるようにした「聞こえる選挙」を公開しています。

視覚障がい者が選挙情報を得る際の課題、ウェブサイトを作成する際に気をつけること、そして聞こえる選挙の今後の目標を担当者に聞きました。

※1 参考)内閣府 平成25年版 障害者白書(全体版)8 障害児・者数の状況(内閣府)
※2 視力や視野に障害があり、日常生活を送る上で困難を感じている状態を視覚障がいという。1級は、視力の良い方の眼の視力が0.01以下。

    目次:
  1. 視覚障がい者の選挙への参加における課題
  2. 視覚障がい者の90%以上がインターネットを利用
  3. 視覚障がい者の課題を解決する ヤフーの「聞こえる選挙」
  4. 視覚障がい者の方にも使いやすいサイトを作成するために意識したいこと
  5. 聞こえる選挙を公開してから4年 これまでの取り組み
  6. 「聞こえる選挙」のゴールは? 今後の展望

視覚障がい者の選挙への参加における課題

日本は、世界で初めて点字投票が実施された国です。1925年の衆議院選挙法改正により、点字が文字として認められました。また、同じ年に府県制・市町村制施行規則改正により地方選挙においても点字投票が認められ、視覚障がい者が投票所で点字専用の投票用紙を受け取って投票できるようになりました。投票用紙に字を書くことができない視覚障がい者には、例外として代理投票も認められています。

1925年に点字が文字として認められた。

視覚障がい者が投票所で投票できるようになった。

投票においてはこのようなサポートの体制がある一方で、視覚障がい者が投票前に情報を得るための選挙公報の点字版は、まだすべて対応されているわけではありません。
参考)視覚障害者と選挙(「ノーマライゼーション 障害者の福祉」より)

視覚障がい者の90%以上がインターネットを利用

現在、視覚障がい者の90%以上がインターネットを利用しています。その多くの方が音声による画面読み上げソフトを使用して情報を取得しているため、パソコンとスマホは視覚障がい者にとって情報収集のための大切な手段となっています。
参考)障がいのある方々のインターネット等の利用に関する調査研究(平成24年総務省 情報通信政策研究所)

・視覚障がい者の90%以上がインターネットを利用
・パソコンやスマホで読み上げソフトを使って情報を取得している

国政・地方選挙の際に発行される選挙公報は、紙だけでなく各都道府県の選挙管理委員会のサイトからPDF形式のデータをダウンロードできます。ですが、これらのPDFデータからは文字情報は削除され画像として保存されます。そのため、視覚障がい者が利用する読み上げソフト(スクリーンリーダー)には対応していません。
視覚障がい者が読み上げソフトを使って情報を得るためには、画像として保存されたPDFに文字情報をつける必要があります。

以下は、ヤフーの「聞こえる選挙」サイトを読み上げソフトを使用して読み上げた音声例です。
音声を再生する

かなり早口に聞こえますが、視覚障がい者の多くの方は読み上げソフトを用いてこのように高速で読み上げられる音声から情報を得ています。

文字情報がついていれば、画像化されているPDFでも、視覚障がい者の方が各候補者の詳しい情報を音声データとして得ることができます。
参考)小選挙区の情報(衆議院議員選挙における候補者・候補者届出政党・名簿届出政党等情報)

選挙公報のサンプル画像
選挙公報のサンプル画像(使用写真:アフロ)

上記は選挙公報のサンプル画像です。この画像に文字情報がついているとき、いないときのAcrobatReaderに搭載されている読み上げ機能を使った読み上げられ方の違いは以下のようになります。

文字情報がついている場合:
「日本アップデー党 公認 矢風たろう 25歳…」以下、記載されている内容を読み上げます。
文字情報がついていなかった場合:
「警告:空(から)のページです」とのみ読み上げられます。

選挙公報のPDFに文字情報をつけて提出するかどうかは任意で、候補者に委ねられています。そのため、文字情報がついていない選挙公報もあり、視覚障がい者がインターネット上の選挙公報から情報を得ることはまだ難しいという課題があります。今回の選挙公報の読み上げ対応率は、全候補者の約52%でした。

・選挙公報をPDFにしたものは画像として保存される
・文字情報をつけなければ、視覚障がい者がインターネット上で情報を得ることは難しい
・今回の選挙公報の読み上げ対応率は、全候補者の約52%

視覚障がい者の課題を解決する ヤフーの「聞こえる選挙」

ヤフーでは、すべての候補者の選挙公報をテキスト化してサイト上に掲載することで、スクリーンリーダーで正常に読み上げられるようにした「聞こえる選挙」を2017年から公開しています。
このサイトには、衆院選の立候補者のプロフィールをはじめ、東京都の小選挙区立候補者の政策、各政党のマニフェスト、投開票後には得票数や当落結果も掲載。4回目となる今回は、全国の全候補者1,051名の選挙公報の情報を、読み上げソフトに対応した形で掲載しました。

ヤフーの「聞こえる選挙」は以下をテキスト化してサイトに掲載
・衆院選の立候補者1,051名の名前
 (うち小選挙区立候補者857名を対象とした選挙公報報情報)
・各政党のマニフェスト
・投開票後の小選挙区における得票数や当落結果

視覚障がい者の方にも使いやすいサイトを作成するために意識したいこと

視覚障がい者の方が情報を得やすくするため、私たちはウェブサイトを作成する際にどのようなことを心がければよいのでしょうか? 聞こえる選挙の企画担当、ヤフーでアクセシビリティを推進しているデザイナーに聞きました。

視覚障がい者の方にも使いやすいサイトを作成するための2つのポイント

・写真やイラストの内容をできるだけ具体的に説明する
・読み上げの妨げにならないよう、極力シンプルに伝わるデザイン・構成にする

1)画像を掲載するときは、できるだけ具体的に説明する
サイトに画像を掲載する際には、その写真やイラストに何が書かれているかを電話で人に伝えたときに、相手の頭に具体的なイメージが浮かぶように意識しましょう。また、地図を見ないで「駅から目的地までの行き方」を伝える感覚にも近いと思います。
ページ内での画像の配置のされ方によって、短くしたり省略したりしてもよい場合もありますが、まずは、できるだけ具体的に細かくすることから考えた方がよいでしょう。

芝生の上を笑顔で走っている男の子。黄色いTシャツを着てデニムのハーフパンツを履いて、カメラに向かって走ってきている。
写真:アフロ

具体的な例:
芝生の上を笑顔で走っている男の子。黄色いTシャツを着てデニムのハーフパンツを履いて、カメラに向かって走ってきている。
簡素な例:
走っている男の子

ロープで電車ごっこをしている5人の子どもたち。全員が左を向いて一つのロープの輪に入っている。先頭で、車掌役の女の子が元気よく右手を上げている。
写真:アフロ

具体的な例:
ロープで電車ごっこをしている5人の子どもたち。全員が左を向いて一つのロープの輪に入っている。先頭で、車掌役の女の子が元気よく右手を上げている。
簡素な例:
電車ごっこをしている子どもたち

参考)バリアフリーポータルサイト(日本ウェブアクセシビリティ普及ネットワーク)

中野 信(なかの まこと)
第5・6・9・10・11代 アクセシビリティ黒帯、HCD-Net認定 人間中心設計専門家。アクセシビリティの啓発と浸透を推進している。
2)余計な要素をできるだけ排除し、シンプルな構成にする

「聞こえる選挙」では、視覚障がいを持つユーザーの利用を第一に考えて設計しました。
「選挙公報をストレートに伝える」ためにも、読み上げの妨げにならないよう、色や柄など不要な要素はできるだけ排除して、極力シンプルに伝わるデザイン・構成にしています。黒背景にしたのは、「視覚情報ではない情報でコンテンツを伝える」ことを強調する目的もあります。

鈴木 宏一(すずき こういち)
社内横断系企画の施策、イベント企画プロモーション立案・実施を主に担当。聞こえる選挙ではプロデューサーを務めた。「聞こえる選挙」では国内、海外でも、カンヌライオンズを始め、多くの賞を獲得。(Cannes Lions 2018/SPIKES ASIA 2017/CODE AWARD2018/D&AD Awards/広告電通賞など)

聞こえる選挙を公開してから4年 ヤフーの取り組み

2017年7月、10月
7月(東京都議会議員選挙)、10月(衆院選)、ヤフーの「聞こえる選挙」を公開。
2018年7月
JIS試験の実施。
日本工業規格「JIS X 8341-3:2016」の「附属書 JB(参考)試験方法」にある「JB.1.1 ウェブページ単位」に基づいて、「聞こえる選挙」の基本テンプレート13ページを対象にした試験を実施。対象ページ全てが「レベル A 準拠」でした。
2019年2月
全盲者によるユーザー試テストを実施。
全盲の方に実際に「聞こえる選挙」を使ってもらい、そこから得られたフィードバックをもとに改善を行いました。たとえば、候補者のプロフィール欄で推薦や支持がない場合は政党名を空欄にしていましたが、何も読み上げられないと意味が伝わりにくいため、「なし」の読み上げ用ラベルを追加しました。
2019年5月
公職選挙法改正、公布。
2019年6月
選挙公報の掲載文の電子データによる提出。
公職選挙法改正によって選挙公報を電子データでも提出できるようになり、2019年7月の参議院議員選挙ではテキストデータを含んだPDFの選挙公報が掲載されました。このとき、テキストデータを含むPDFを掲載した候補者は、全体の44%(215人中94人)でした。
ただし、テキストデータは入ってはいるものの読み上げ順序が適切ではなかったり、一部が画像になっていて大切な情報が読み上げられなかったりして、正しい文章にならないケースもありました。
今野 大介(こんの だいすけ)
ウェブアクセシビリティの実装をエンジニアの立場から推進。聞こえる選挙では、アクセシビリティテスト、入稿システム化などを担当した。

「聞こえる選挙」のゴールは? 今後の展望

ヤフーが「聞こえる選挙」サイトを公開する必要がなくなること、つまりは選挙管理委員会や各候補者のみなさんが視覚障がい者をはじめとした、ダイバーシティを考慮した情報発信をしてくれる世の中になることを願っています。
現状のルールでは、テキスト情報を含む選挙公報PDFを提出するかどうかは候補者の判断に委ねられており、必須ではなく任意となっています。この判断によって、視覚障がい者の選挙公報へのアクセシビリティが決定されてしまうのです。

7割以上の都道府県と候補者が、読み上げ可能なPDFを提出することを目指す

この「聞こえる選挙」のゴールとしては、7割以上の都道府県で、7割以上の候補者が読み上げ可能な状態のPDFを提出し、視覚障がい者への情報提供がされることを据えています。今回(2021年10月31日)の衆院選では、7割を超えた都道府県は49都道府県中10道府県でした。2019年の参院選では5都府県でしたので、徐々に増えてきてはいますが、それでもまだ全体の約20%ほどです。

今回の「聞こえる選挙」について、SNSなどを通じてユーザーのみなさまからは、
「選挙にいくにはどんな候補者がどんな政策を立案しているのかを知ることで投票しやすくなります。このサイトを使えば、私たちも簡単にその情報が得られるようです。選挙がより身近で行きやすいものになった気がします」
「全員のためにある選挙や政治であるからこそ、機会はできる限り平等かつ公平に与えられるべきであると思っています」
「衆議院選挙の情報を、すべて読み上げ可能な形で編集することで、視覚に障害があっても選挙情報にストレスなくアクセスできます」

などの声をいただきました。便利に使っていただいている、という声も多かったのですが、その一方で、「せっかくなら政党を比較するための情報を、もう少し詳しく掲載してほしい。選挙公報だけじゃなくて、各政党の公約・政策パンフレットの内容などもあるとうれしい」などのご意見もいただいています。
参考)Twitter検索結果

私たちが聞こえる選挙を実施するだけでなく、世の中の空気を変えるような取り組みも平行して行うことで、先ほどお伝えした「7割以上の都道府県において、7割以上の候補者が読み上げ可能な状態のPDFを提出」というゴールを達成したいと思っています。

安田 健志(やすだ たけし)
2005年にヤフーに中途入社。Yahoo! JAPANトップページの担当者として2008年にリニューアル業務、2011年には東日本大震災対応を行う。一度ヤフーを退職し、2017年にヤフーに再入社。以降は防災・災害対応を中心に社会課題を解決するプロジェクトを複数担当。今回の聞こえる選挙の企画を担当。

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