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2021.01.26

「もしものことを、あえて考えてみる」リモート時代における防災BCPとは

「もしものことを、あえて考えてみる」リモート時代における防災BCPとは

日々、新型コロナウイルスの感染者数が更新され、その勢いはとどまるところを知りません。収束の見込みが立たない状況が続き、不安に思っている人も多いのではないでしょうか。また、「自分は大丈夫だろう」と気が緩んでしまっている人もいるかもしれません。
今、どれだけの人が「もしも新型コロナウイルス感染症にかかったら」とシミュレーションできているでしょうか? また、多くの企業にリモートワークが本格的に導入されたことで、「自宅でリモートワーク中に災害が発生したら」と想定して備えておく必要もあります。

「もしものことを考えることで、前向きに危機を克服することができるんです」と話すのが、株式会社レスキューナウの創業者で危機管理アドバイザーの市川啓一さん。
市川さんは大手企業のBCP(事業継続計画)策定など防災危機管理の分野で幅広く活動され、2019年からヤフーの防災BCP策定にも携わっています。リモートワークにおける防災BCPのあり方や持つべき意識についてうかがいきました。

株式会社レスキューナウ 危機管理アドバイザーの市川 啓一さん
成蹊大学卒業後、日本IBM入社。1995年の阪神淡路大震災を機に防災情報分野での起業を決意し、2000年に株式会社レスキューナウを設立。小泉内閣時代に中央防災会議の専門委員に任命されたことを皮切りに、省庁の検討委員会の委員や防災関連機関の理事などを歴任。2011年には株式会社レスキューナウ危機管理研究所を設立し、企業のBCP策定への参画や多くの講演活動を実施するなど、防災・危機管理の分野で精力的な活動を行っている。

リスクシナリオを上回る厳しい現実

「BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)」とは、企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した際に、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画のことです。また、企業において、「防災」は従業員(人命)や建物・機材・情報(資産)を守ることを目的とし、「BCP」は災害やシステム障害など、ありとあらゆるリスクに備えて事業の継続を目的とし、計画を策定することを指します。

私は2019年からヤフーの防災BCPコンサルティングを担当しており、今回のコロナ禍においても2020年1月16日の段階でリスクシナリオ(※1)を作成しました。当時、日本では1名の患者が確認され、世界でもその数はごくわずか。新たに見つかった新型コロナウイルスがどのような影響をもたらすのか、まだ誰にもわかりませんでした。その時点でシナリオには、「13万人が感染し、1000人が死亡する」と予測したものの、結果としてはその予想をはるか上回るペースで感染が拡大し、世界中が大きな混乱の中にあります。残念ながら、それほど未来を予測することは難しいのです。
※1 リスクシナリオ:BCPを策定する際に、どのようなことが起こり、事業が中断されるのかのストーリーを想定し、記述したもの。

感染症対策において、ゼロリスクを目指すのは現実的ではありません。ワクチンが本格的に普及するまでにはまだ時間が必要ですが、それまでに医療崩壊を起こさないように、時間を稼ぎながら経済活動を回していく必要があります。とはいえ、日本でも医療現場の危機が叫ばれ、再び緊急事態宣言が行われたように、事態は刻一刻と変化しています。どんなにシナリオを想定しても、つねに修正することを前提にしてプロセスを踏むことが重要です。

リモートワークで見直すべき「自宅における防災」

企業におけるBCPを考えるうえで、その鉄則は「バックアップをしっかり取ること」だと考えられています。これまでは当たり前のように、「本社と支社で二重にバックアップすれば良い」といった意識が働いてきました。

ですが、このコロナ禍によって多くの企業にリモートワークが本格的に導入されました。これまでにも在宅勤務制度を導入している企業は数多くありましたが、在宅勤務の場合のシステム管理については、本格的に検討されていませんでした。在宅勤務制度を利用するのはあくまで、育児や介護などの事情がある少数の社員が対象で、「災害時に本社が使えなくなったら」という想定に本気で対応している企業は少なかったと思います。
ですが、このコロナ禍によって、社会全体として一気に危機管理体制の構築が進みました。もちろん、亡くなった方や、経済的にも身体的にも影響を受けた方がたくさんいらっしゃいますので、手放しでこの変革を歓迎するわけにはいきません。ですが、今後「2020年にしっかり対策を取ったおかげで、災害に遭ってもなんとかなった」と言える事例は数多く出てくるだろうと考えています。

これまで企業は、耐震性や非常時の電源など、オフィスでの災害対策を考えてきました。けれども多くの社員がリモートワークに移行したことで、住宅での防災対策にまで気を配る必要が出てきたのです。
例年、秋冬は防災訓練を行う企業が多いのですが、2020年はそのうち95%くらいがリモートでの防災訓練でした。そこでお話したのは、「自宅での防災意識を高めましょう」ということです。

「耐震基準」と「避難場所」を知っていますか?

ところで、あなたのご自宅は耐震基準(※2)を満たしていますか? 現在の新耐震基準を満たしているのは1981年以降に建てられた住宅で、それ以前の建物は日本におよそ1100万軒あると言われています。
耐震診断は多くの自治体が無料で行っています。診断の結果、耐震基準を満たさないのであれば、補強工事は国と自治体がそれぞれ3分の1を負担してくれます。今住んでいる住居の耐震基準を調べてみることをおすすめします。
※2 耐震基準:旧耐震基準と新耐震基準がある。旧耐震基準とは1950年から施工され1981年まで適用された耐震基準を指す。1981年6月1日に建築基準法が改正され新耐震基準が定められ、それには震度6~7程度の大規模地震についても言及されており、そのレベルの地震を受けても倒壊、あるいは崩壊しないという条件が定められている。
耐震診断は多くの自治体が無料:耐震支援ポータルサイト(一般財団法人日本建築防災協会)

次に、避難指示が出たら、どこに行きますか?
きっと多くの方が「避難所」と答えるでしょう。ですが、2019年の台風19号による豪雨被害の際にわかったように、小学校や体育館など公共の避難所のキャパシティーが足りなくなってきています。さらに、このコロナ禍で避難所へ人が殺到すれば「密」状態になってしまいます。

避難する目的は、文字通り「難を避けること」です。ですから、自治体が発表しているハザードマップで自宅の位置関係を見て、低地でなく、冠水のおそれが少ないようでしたら、そのまま自宅にいる、という選択肢もあります。自宅のリスクを知って、どんな災害のときにどこにいるべきか。企業に避難計画があるように、自宅でも計画を立てておいてほしいと思います。

そしてもう一つ、忘れないでいただきたいことが「備蓄」です。会社では非常食などが備蓄されていますが、ご自宅で準備されている方はどれほどいらっしゃるでしょうか。防災訓練でアンケートを取ると、まったく準備していない世帯が1割ほど。およそ7割の世帯では3日分程度備蓄していらっしゃるようです。なぜ「3日分」なのか。それは避難所に物資が届くのが、だいたい4日目だからです。

リモートワークに移行した企業が増える中、これからは「在宅避難」も増えてくるでしょう。停電や断水が長引いて、スーパーやコンビニに出かけても棚には商品がほとんどない、といったことが起こりかねません。そう考えると、3日分では足りない可能性があります。
これからは、持ち運べなくても良いから、2週間分は食料を備蓄しておくことをおすすめしています。コロナ禍でも「巣ごもり生活」と言われましたが、2週間ずっと巣ごもりできるくらい準備をしておくのが、備蓄の新しい考え方です。

とは言え、防災備蓄品を2週間分用意していても、乾パンばかりでは食べ飽きてしまいそうですよね。そのため、「ローリングストック」という考え方をおすすめしています。日頃食べていたり、使っていたりするものを、全部で2週間分用意しておく。食べたり使ったりしたら、その都度買い足すことによって、常に2週間分の在庫があればいいのです。

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画像:アフロ

これまでの防災訓練では、会社や学校でみんなそろって取り組むことがほとんどでした。けれどもこれからは、在宅でも防災訓練を見直してみましょう。たとえば、ご自宅のどこに消火器があるかご存じですか。その消火器をきちんと使うことはできるでしょうか。また、お近くにAEDはありますか。とっさの時にどこへ行って、誰に協力を求めればいいのか、把握しているでしょうか。
それらをまず調べてみて、消火器がなければ購入する、AEDが近くになければ、地域で共同購入を呼びかけてもいいかもしれません。そうやって、いま一度ご自宅を見直してみるといいでしょう。在宅でも実技を伴って訓練したほうが、いざというときにも役立つはずです。

「何があってもおかしくない」リスク大国日本

私たちが住む日本は、構造的にリスクが高い地域です。地殻変動は活動期に入っていますし、火山噴火の可能性もあります。東日本大震災でも多くの犠牲がありました。近年は豪雨被害が深刻になっていて、洪水は1980年代より1.4倍になっています。2018年の西日本豪雨(※3)では、200名ほどの方がお亡くなりになりました。いつ何があってもおかしくない状況なのです。実際、富士山の近くに工場を構える企業では、地質学者と契約して日頃から噴火リスクについて検討されているところもあります。
※3 西日本豪雨:気象庁の命名は「平成30年7月豪雨」。2018年6月28日から7月8日にかけて、西日本を中心に北海道や中部地方を含む全国的に広い範囲で発生した、台風7号および梅雨前線などの影響による集中豪雨を指し、死者が全国15府県で200人を超える大災害のことをいう。

防災の観点から言えば、火山噴火と感染症には似たところがあります。地震は起こってから対応せざるを得ませんが、火山噴火と感染症の場合、「来るか、来ないか」と探りながら向かっていく。いきなり噴火するようなことはほとんどなく、小噴火が起こって、「これ以上ひどくなるかもしれないから、しばらく規制しよう」と立ち入り規制して、小康状態になれば少しずつそれを緩和していく。コロナ禍でいままさに日本全体がそういう状況になっていますよね。

それでも多くの方は「自分は大丈夫」と、正常性バイアス(※4)がかかってしまいがちです。あるいは、「もしものことを考えるのが怖い」「起きてもいないことを考えるなんて、縁起でもない」とおっしゃる方もいるでしょう。けれども私からすると、その発想そのものが怖いのです。もしものことを想像すれば、前向きに危機を克服できます。
※4 正常性バイアス:予期しない事態に直面したときに、「ありえない」という先入観や偏見(バイアス)が働き、物事を正常の範囲だと自動的に認識し、平静に保とうとする心の働きのこと。

たとえば、私は8歳と10歳の犬を飼っているのですが、「もうじき脚が悪くなるだろうし、一緒に居られるのはあと数年かな」なんて言うと、「そんなこと言わないで」とたしなめられます。でもむしろ、きちんと未来のことを考えて、いま最大限できることをしてあげたほうがいいと思いませんか? そうやってときどきイメージトレーニングするだけでも、意識は大きく変わってくるはずです。
自宅で過ごしている時、出勤途中、外出時などに「もしもいま地震が起きたらどうしようか」と一瞬でもいいから考えてみる。そのように、少し危機管理の感度を上げるクセをつけてみてはいかがでしょうか。

この取材は、2020年11月24日に行われました。

災害発生時のヤフーのBCP

大規模な災害などが発生してオフィスやデータセンター、従業員が被災した場合、すべての事業を平常時と同じ水準で継続させることは困難です。ヤフーでは、災害によりデータセンターにシステム障害が起きてヤフーのサービスが継続できないというリスクを避けるため、ユーザーのみなさまの命を守るための情報を発信し続けるための事業継続の計画を立てています。具体的には、全サービスを災害発生時に運用する優先度別にレベル分けをしており、最優先レベルのサービス群について、BCPを重点的に進めています。
また、ユーザーのみなさまが災害発生時に情報を取得する際の起点となるYahoo! JAPANトップページだけは落とすことなく、命を守るために必要な情報を掲載・更新し続けられる状態を何があっても保つことを方針としています。

ヤフーは、以下のようなBCP対策を行っています。

1)編集者や技術者を複数拠点に配置
もし東京が被災してしまった時でもYahoo!トップページからニュース等必要な情報提供を行えるよう、複数の拠点で災害に備えた準備や訓練を行っています。
2)技術のモダナイズに適応したBCPシステム構成の刷新
データセンターを東日本エリアと西日本エリアなどに分散配置するなど、災害発生の影響でサーバーが停止してもサービスを提供し続けられる基盤づくりを進めています。また、BCPのシステム構成のあり方を常に見直しています。
3)緊急時を想定した訓練を実施
2014年からは毎年、大規模な訓練を行い緊急対応体制の検証を進めています。

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