7月21日(日)に第25回参議院議員通常選挙(以下、参院選)の投開票が行われました。選挙に先立って発表していたYahoo!ビッグデータレポートチームの議席数予測と実際の選挙結果のデータを比較し検証したいと思います。
選挙結果
まずは選挙結果の確認です。与党は自由民主党が7議席を減らし公明党が3議席を増やして勢力減、野党は立憲民主党を中心に勢力を増しました。また、無所属・諸派の躍進も目立ちました。
これらと非改選議席と合わせると、改憲勢力は3分の2には届かない結果となりました。
(図1)2019年参議院選挙の結果
予測と実際の結果を比較してみましょう(図2)。ヤフー予測の比例代表と選挙区の和としての一致率(※)は92%で、与党議席数では実績と比べて2議席のずれがありました。内訳を見ると比例代表(一致率88%)で与党を実際よりも少なめに、選挙区(一致率88%)では多めに見積もっていたことがわかりました。
また、今回は慶応大学SFCでデータドリブン講座を履修された学生の皆さんも予測に参加してくれました。こちらも91%と、初めての選挙予測にもかかわらず高い一致率を得ることができました。
※一致率=「政党ごとの実績と一致した予測議席数」の和 ÷ 改選議席数
(図2)2019年第25回参院選予測と結果
ちなみに学生予測の値はクラスの平均値を採用しています。図3のとおり、予測の分布を見ると上下の幅が大きいものの、それらを均した結果、実際の結果に近づいたことがわかります。こうやって和として是正されるのも、データドリブン時代におけるある種の集合知なのかもしれません。今後も、機会があれば学生の皆さんにもビッグデータに触れていただく試みを続けていきたいと思います。
(図3)学生 比例予測の分布
では、ここからはヤフーデータと実際の選挙結果を元に、今回の参院選を検証していきましょう。
注目度と得票コンバージョン
従来の選挙分析で「インターネット上の政党の注目度と得票数は相関する」ということがわかっています。今回はどうだったでしょうか。
主要政党の注目度と得票数を見たところ、正の相関はあるものの、弱い相関にとどまっています(図4)。特に自民と国民民主党(国民)が回帰直線から大きく乖離(かいり)していることがわかりました。
新党である国民は高い注目度の割には得票につながりにくく、逆に与党である自民は注目度以上の得票を集めたと言えそうです。
(図4) ネット上の注目度と得票数の相関
選挙予測には以下のモデル式を使用しています。詳細はこちらをご覧ください。
得票数予測(指数) = インターネット上の注目度 ×盛り上がり度 × 得票コンバージョン(つながりやすさ)
各変数について検証していきます。
インターネット上の注目度と盛り上がり度合いを見たところ、主要政党の中で最も盛り上がり度が高かったのは自民でした。また、維新が選挙直前に急激な盛り上がりを見せています。
(図5)政党のネット上の注目度と盛り上がり度
さらに今回の選挙では「れいわ新選組」の躍進も大きな話題となりました。先の図に「れいわ新選組」を加えてみると、主要政党を上回る注目度の盛り上がりを見せていたことがわかります。
(図6)政党のネット上の注目度と盛り上がり度
盛り上がり度を過去の国政選挙と比べてみましょう(立憲民主党は民主党・民進党の過去実績と、国民民主党は希望の党の過去実績と点線でつないでいます)。
前回の2016年参院選や2017年衆院選と比べても、おおむね主要政党の盛り上がり度は高い結果でした。また、「れいわ新選組」の盛り上がり度は過去の主要政党と比べても非常に高かったことがわかりました。
(図7)政党の盛り上がり度の変化
このようにネット上の盛り上がり度は高かったにもかかわらず、今回の参院選の投票率は48.8%と、過去2番目に低い結果でした。なぜでしょうか。そこで主要政党の注目度の総量を過去の参院選の実施時と比べたところ、そもそもの注目量自体が低い水準で、インターネット上でも今回の選挙に寄せる関心度合いは薄かったことがわかりました(図8)。図4で見た注目度と得票数の相関の低さも、この注目度自体の薄さが影響していると考えられます。
選挙への積極的な関心層の中では普段以上に盛り上がったものの、広く世間一般で見ると「低体温」にとどまり、その関心の薄さが投票率の低さにもつながっているかと思われます。
(図8)参院選における主要政党の注目度の総和
得票へのつながりやすさはどうだったでしょうか。比例では、自民は高いコンバージョンをキープしつつも、2016年参院選と比べるとやや低めです(図9)。野党は下降トレンドの政党が散見される中、共産はコンバージョンを維持しています。立憲は前回の国政選挙である2017年衆院選と比べると回復していますが、過去の民主党・民進党時代と比べると低水準でした。また、圧倒的な注目度を集めていた「れいわ新選組」のコンバージョンは極めて低く、高い注目度の割には得票につながりにくかったことがわかります。ここまでコンバージョンが低くてもなお議席獲得に至るほど、その最終的な注目度(盛り上がり)が凄まじいものだったと言えます。
選挙区でもおおよそ似た傾向で、自民のコンバージョンは高い水準ではありますがやや下がり、野党は維持または微減傾向にあることが見てとれます(図9)。
(図9)政党の得票コンバージョン
主要政党は自民・公明・立憲・国民・共産・維新・社民(立憲は民主党・民進党を含む、国民は希望の党を含む)
与野党のいずれが強かったのか?
ここまでのデータでは、与党は優勢を保ちつつも、その勢いに停滞の色もやや見えてきていると言えそうです。 ここで選挙区別の選挙結果を改めて振り返ってみます。下図は、各選挙区における与党の得票率を表しています。与党が60%以上の得票率を獲得した選挙区は45区中8区、50%以上でも24区にとどまります。選挙区のすべての得票数を合計すると、実は与党の得票率は過半数を割っていました(図10)。
(図10)2019年第25回参院選得票率 選挙区
選挙区別の得票率を並べてみると、もっとも与党の得票率が高い和歌山で70%超、最も低い大阪では約30%と、エリアによる差が大きかったようです(図11)。ただ与党とその他で大差がついた選挙区はむしろ少なく、与党が45~55%のきっ抗していた選挙区が21と半数近くです。いずれの陣営にとっても厳しい戦いであったことが伺えます。
(図11)2019年第25回参院選 選挙区別の得票率
エリア別のインターネット上の注目度ではどうだったでしょうか。都道府県別の政党への相対的な注目度を見ると、おおむね与党と立憲、国民への関心が高い中、大阪では維新が注目度においても一番でした(図12)。ただ、いくつかの都道府県を除くと特定の政党が飛び抜けていたわけではなく、与野党への関心度合いも接戦であったと言えそうです。
(図12)都道府県別のインターネット上の相対的注目度
なお、従来の国政選挙分析により、主要政党の中で公明党だけはインターネット上の注目度には影響されず一定の得票率の幅の中で周期変動する傾向が見えています。今回もやはり同様の結果となりました。
(図13)公明党の得票率
まとめ
- 投票率が低かった今回の参院選は、インターネット上の関心度合いも低水準にとどまった
- ただ選挙関心層の中においては近年の過去選挙と比べても大きく盛り上がっており、中でもれいわ新選組の注目度は爆発的な盛り上がりを見せていた
- 与党は高コンバージョンをキープしているものの、過去選挙と比べるとやや下降気味
- 政党別の得票率、ネット上の注目度のいずれで見ても与野党の勢力は拮抗しており、厳しい戦いであった
- 公明党の得票率は従来どおり、ネット上の注目度と無関係に一定範囲の中で周期変動をしている
私たちは今、さまざまな政治課題に直面しています。Yahoo!ビッグデータレポートではこれからも世の中の課題について、データを元に検証していきたいと思います。
今後ともYahoo!ビッグデータレポートをよろしくお願いします。