「1on1ミーティング」(以下1on1)とは、部下のために上司が行う、組織力を向上させるための人材育成の手法です。さまざまな要素から成り立っていますが、中でも重要なのが「経験学習」という考え方です。今回は経験学習と1on1の関係性を中心にお伝えします。
経験学習とは「経験を元に能力を向上させる学習サイクル」
経験学習とは、
業務での具体的な経験(失敗と成功)
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内省による振り返り
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得られた教訓や気づきの明確化
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次の業務への適応や、応用できる理論への昇華
これを繰り返し、経験を元に能力を向上させる学習サイクルのことをいいます。デイビット・コルブという研究者の提唱した「経験学習モデル」に基づいています。
「部下に目をかけてアドバイスをするだけなら、すでに行っている」と思う人もいるかもしれません。しかし、このサイクルが上司の裁量だけに任されて属人的になり、自己満足で終わっていたり効果が見えづらかったりするケースも多いようです。
経験学習サイクルを回すことの本質的なメリットと、組織内への組み込み方や仕組みづくりの具体的な方法をご紹介します。
経験学習サイクルを生み出すヤフーの取り組み
人の成長の7割は具体的な現場の業務経験から得られ、そのほかは上司や先輩を手本として観察したり、研修や参考書による学習をしたりして得られるといわれています。
部下が経験から意識的に学べる仕組みを組織が用意することで、部下のポテンシャルを最大限に引き出し、成長を促せます。そして、それが組織に還元されるというわけです。
ただ、この一連の流れを部下が主体的に実行するのは容易ではありません。また、単に経験の繰り返しだけでは気づきを得られないため、部下の成長はあまり見込めません。そこで必要となるのが、上司や組織によるコミットです。
ヤフーでは、経験学習サイクルを実務の中に組み込む方法として1on1を実施しています。週に1度30分間、上司が部下の振り返りのための時間を設け、ここで目標達成に向けた課題を部下と共有し、どうすればそれを乗り越えられるかを話し合います。
この経験学習サイクルの中で特に重要とされているのが「内省を経て、気づきや教訓を独自の理論に変えて昇華させるプロセス」です。
また、このサイクルがうまく回っているのかどうか、1on1自体の評価も行います。部下は、たとえば次のような項目を5段階で評価します。
- 上司が途中で遮らずに、真摯(しんし)に話を聞いてくれたか
- 高圧的になることなく、話がしやすい雰囲気づくりを提供してくれたか
1on1で「本当にやりたいこと」に気づくことも
1on1の根底には「社員の潜在力やポテンシャルを引き出す」考え方があり、部下本人がまだ気づいていないようなことを達成し、情熱を持てる才能に出合ってもらう役割もあります。
経験学習を深めて問いかけを続けていった結果、部下がやりたいことを社内には見つけられず、退職を考えてしまうケースもあります。そこで必要なのが、
- 部下が真にやりたいことを明確にする
- 会社や上司が、部下に対して求めていることを明らかにする
そうしないと、部下は「本来やりたいことと現状とが合っていない気がする」といった、不安定な気持ちのレベルに留まってしまいます。
接点の重なる部分を見つけてフォーカスしていくことが、経験学習や1on1を通じて対話を深めていくメリットの1つです。
経験学習がうまく回るようにするポイント
経験学習サイクルを深めるための仕組みはさまざまです。ここでは、これまでにヤフーで採用されてきた「経験学習サイクルを回し、1on1を機能させるための制度」の一部をご紹介します。
※1on1チェック、シャドーコーチングは現在休止中です。
- コーチング研修、シャドーコーチング
- 1on1チェック(部下による上司への評価)
- 360度(自身・上司・同僚・部下など)からの多面評価
- 人財開発会議(中期的育成方針を話し合うミーティング)
- ジョブローテーション(FA制度)
- 3年任期制度(異なる仕事を経験する機会を与える)
部下のポテンシャルの解放と成長のために、経験学習サイクルを回すことが重要で、そのためには上司やマネージャーによる真のサポートが必要になる。その基本をおさえることから、まずは始めてみてはいかがでしょうか。