ヤフー株式会社は、2023年10月1日にLINEヤフー株式会社になりました。LINEヤフー株式会社のコーポレートサイトはこちらです。
当ページに記載されている情報は、2023年9月30日時点の情報です。

企業情報

2018.10.04

「はてな」「ハカルス」「ヤフー」が考えるCTOの資質と役割とは

「はてな」「ハカルス」「ヤフー」が考えるCTOの資質と役割とは

2018年9月14日、大阪オフィスのオープンコラボイベント「Osaka Mix Leap」でCTO Nightを開催。関西に拠点のあるテクノロジー企業「株式会社はてな」「株式会社ハカルス」の各CTOを迎え、CTOとして担っている役割やこれからについて、ヤフー株式会社CTOの藤門とディスカッションを行いました。

CTO(Chief Technology Officer)とは、自社の技術戦略や開発方針を立案、実施する責任者のことですが、その役割は会社の文化や規模などで異なるようです。

  • エンジニアというキャリアの「魅力」と必要な「覚悟」
  • CTOの資質・役割とは
  • CTOが若手の育成について考えていること
  • 技術選定の際に心がけていること、気になっている技術
  • CTOたちの次のキャリアは?

エンジニアというキャリアの「魅力」と必要な「覚悟」

はてな 大坪さん:
大学生のときにインターネットやウェブプログラミングに触れ、自分が作りたいと思ったものを作れるところにひかれてエンジニアになりました。自分が作ったものやメカニズムが人に影響を与えられるという点が魅力です。ものを作るのが好きなだけでなく、ユーザーに届けて使ってもらうところまでを含めて情熱を持てるエンジニアでありたいですし、そういう人と一緒に仕事をしたいですね。

周囲の状況も変化するなかで、自分のモチベーションを保ち続け、成長し続けなければならないということを覚悟しています。

画像
(株式会社はてな CTOの大坪 弘尚さん)

ハカルス 染田さん:
私も、学生時代にインターネットに触れたことがきっかけでプログラミングを始め、気がつけばエンジニアになっていました。
前職でプロジェクトのマネジメントツールを作成していたのですが、自分が作った機能が一人のエンジニアの作業時間を5分短縮できれば、そのツールのユーザーに5分の時間を新たに生み出すことができたことになります。そのように、一つのコードが大きなインパクトを与えられるという点もエンジニアの魅力だと思います。自分がエンジニアとしてどういう価値を発揮できるのかを考えることが大切だと考えています。

ウェブは技術の展開スピードや環境の変化が速いので、キャッチアップし続ける覚悟が必要です。

画像
(株式会社ハカルス CTOの染田 貴志さん)

ヤフー 藤門:
私が中学3年生のときに「Windows 95」が発売され、「これからコンピューターの時代がくる」と感じて工業高専に進学したことがエンジニアになったきっかけです。
自分が手がけた製品やサービスを使ってくださっているユーザーを見かけたときに、一番喜びを感じます。一方で、サービスを使っていただいたのに残念な体験になってしまうのは最も避けたいこと。

そのためにも、すごいスピードで変わっていくサービス開発環境の中で「エンジニアは学び続けることをやめたら一瞬で死ぬ」と思っています。

画像
(ヤフー株式会社 常務執行役員CTOの藤門 千明)

CTOの資質・役割とは

はてな 大坪さん:
CTOに求められる資質は、いちエンジニアとして多くの技術に触れ、その可能性を吟味できること。大きな画を描いて、そこにエンジニアを連れて行くと信じられることだと思います。
そして、技術部門の長として全体の生産性を上げながらも、社員の幸福度を保ち担保することに責任を持つ立場です。

「はてな」では、世の中に面白いことを提案していきたいと考えています。私が果たす役割は、技術のプロフェッショナルとして、イノベーションを起こし続けられる技術組織を作ることだと思っています。

ハカルス 染田さん:
CTOは、テクノロジーを通じて会社の事業やサービスに関わっていく立場。
私が考えるCTOの資質は、「技術」と「人」の双方に興味が持てること、手を動かすのが好きなこと、人に「伝える」ことに関心があることの3点です。

「ハカルス」はまだ小さな組織なので「今やらなければいけない役割」は3カ月ごとくらいにアップデートされるべきだと考えています。実際、私が去年に重要としていたことと今考えていることは違います。
今はまず、強いエンジニア組織を作り、機能させることが社内に向けての役割だと考えています。
社内外に向けては、自分たちの技術をポートフォリオとして言語化し、伝えていくことが必要です。さらに、社外に対しては、私たちが取り組んでいる機械学習が社会の課題にどこまで貢献できるのかを伝え、ハカルスの立ち位置を築いていくことが私の役割だと考えています。

ヤフー 藤門:
役割は、経営戦略を達成するための技術戦略を決め、ステークホルダーに伝え実行すること。必要な資質は、コミュニケーション力と決断力。
技術戦略を実行するためには時間もお金も必要です。そのため、大きなプロジェクトを動かすときには、従業員はもちろんのこと、ステークホルダーである株主、投資家に対しても正しく伝えることがとても重要です。

また、非技術者の経営陣と対話することも私の大きな役割のひとつです。たとえば「AIでこのサービスが伸びたから、別のサービスにも取り入れて伸ばしてほしい」というような要望をもらうことがあります。そのようなときには、1対1で「AIとはこういうものです」「データを使って売り上げを伸ばすというのはこういうことです」など、エンジニアとしての正しい視点で丁寧に伝えるよう心がけています。

画像
(左から、モデレーターを務めたシナジーマーケティング株式会社CTOの伊藤さん、はてなの大坪さん、ハカルスの染田さん、ヤフーの藤門)

CTOが若手の育成について考えていること

はてな 大坪さん:
まず、「俺たちが作るものっていけてるよね」という認識でものを作ってもらうことも大事なこと。「技術的な挑戦を続けていく」という意識で社内の他のチームといい意味で競争をしたり。
また、ユーザーの声をチーム全員で見ています。そうすることで、さらにやる気が出てくるんです。

ハカルス 染田さん:
若手エンジニアに、致命傷にならない「いい失敗」をしてもらうことは大事だと考えています。自分で考えて行動すれば、失敗から学ぶことは多いので、それができる環境を整えたいと思っています。

ヤフー 藤門:
ヤフーには、「サービスを24時間365日絶対ダウンさせない」という使命があります。そのため、膨大なトラフィックやユーザーのリクエストをさばける、拡張性の高いシステムにしておかなければなりません。
このような技術ニーズに対して、大きなシステムを考えることができるアーキテクトエンジニア (※)を育成するための合宿を行っています。

合宿では、例えば「24時間365日、これくらいのトラフィックがきて、絶対に落とせないYahoo!ショッピングのサイトを作る」というお題を、参加するエンジニアたちがそれぞれ考え、歴代のCTOや経験豊富な先輩エンジニアたちからレビューを受けます。その結果を生かして、ひとつ引いた視点でインフラを開発できるようになることが大切なので、よい学びの場にもなっているのではないかと思います。
また、ひとつのミスがサービスにとって命取りになることも多いので、「(システムを)小さく作って早めに失敗をしておくことも大事」と伝えています。

※アーキテクトエンジニア:
システム開発における共通仕様や要件定義を行い、システムの方向性・運用・保守要件まで提示できる技術者のこと

技術選定の際に心がけていること、気になっている技術

はてな 大坪さん:
私が直接技術選定を行うことはなく、各チームに判断を任せるかたちなので、チームメンバーでしっかりと議論したうえで同意が取れていることが基本です。ただ、ガイドラインとして「長く使える技術であるか」という点もポイントのひとつです。

技術そのものの筋がよいのか、コミュニティーやエコシステムの継続性はどうか、自分たちもメンテナンスに貢献できるか…という観点も大切にしています。各チームにおける技術選定とその経緯は社内に展開し、他のチームからも参照できるようにしています。

気になっている技術は、ベタですが、機械学習。社内でも採用事例はありますが、10年以上ユーザー向けのサービスを展開して蓄積してきたデータをまだ活用しきれていないと感じていて、ここからまた面白いものが出てくるのではないかという期待があります。

ハカルス 染田さん:
まず、メンバーがその技術を使うことで楽しめるか、テンションがあがるか、を重視します。まだハカルスは組織も小さいので、個々のメンバーが存分にパフォーマンスを発揮できることがチームやサービスの成長にダイレクトに響いてくるためです。

技術会社として取り組んでいることもあるのですが、FPGA などのハードウェア周りの技術に注目しています。また単一の技術よりは少し広い視点になりますが、機械学習をサービスとして提供する際の組織構成や開発および運用のプロセス、エンジニアの育成方法にも関心があります。

ヤフー 藤門:
事業領域やフェーズによって選ぶべき技術は変わるはずなので「適材適所」で選ぶのがベースです。ヤフーのエンジニアは主に、事業に責任を持つ「メディア」「コマース」の2つのカンパニーと、コア技術に責任を持つ「テクノロジー」のグループ、全社横断で事業を支援する「コーポレート」のグループのいずれかに属していますが、それぞれのカンパニー、グループに技術責任者を任命し、その責任の範囲で利用する技術を決めています。
CTOとしては主に2つの観点を意識して技術選択が行われるように注意しています。

1)事業継続性を維持すること
技術選択はヒト依存やチーム依存にならないようにしています。特に重要なシステムにおいては、「技術スタンダード」という標準技術を定めていて、この中からエンジニアが適切に技術選択をし利用できるようにしています。標準技術には専任のサポートチームをアサインし、調査・教育・ライブラリの開発など、全てのエンジニアが安心して利用できるよう心がけています。それ以外のシステムについては比較的自由に技術選択できるようにしています。

2)民主的に選ぶこと
「技術スタンダード」は民主的に選ばれるよう心がけています。全てのエンジニアは「技術スタンダード」について提言できます。全ての提言はGitHub上で管理され、技術責任者を中心に議論されます。必要と判断されれば標準技術として昇格し、古くなった技術については標準技術から降格させることでマイグレーション(システムやデータの移行)を促します。

興味を持っている技術はブロックチェーンです。現在は仮想通貨やそのマイニングなどに使われる技術として注目されていますが、いろいろなシステムへの応用の可能性が高そうなので今後の進化を注意深く見ています。

画像

CTOたちの次のキャリアは?

はてな 大坪さん:
現在は技術部門を見ていますが、これからは会社全体に影響を与えるような大きなこともしていきたい。そして、エンジニアの成長したい気持ちに応えられるよう環境を整え、彼らが面白いと思っていることをサポートし、会社の利益にも結び付けていければと思っています。
CTOを退く日が来ても、またエンジニアとして面白いことを続けていきたいですね。

ハカルス 染田さん:
私は今40歳ですが、日本に住み続けるためには80歳くらいまでは働く必要があると思っているので、あと約40年あります。そのなかでキャリアを考えたとき、50歳くらいで一度学生にもどりたいと思っています。
機械学習にいろいろな業界の人が興味を持ってくださっている今、違う分野の知識を取り入れることで、もっとできることの幅が広がるのではないかと。改めて何かの分野について学びなおし、機械学習の技術を使える場を増やしたいですね。

ヤフー 藤門:
インターネットは若い人に使ってもらうことで成長が期待できる分野だと思っているので、その作り手であるエンジニアも若い世代を台頭させていく必要があります。そのため、まずはCTOを若い世代につなぐことを考え、そのうえで価値を提供し続けられる土壌を作りたいと考えています。

ヤフーは1996年に創業し、現在ではインターネットがない世界は考えられないくらいになりました。そしてまた、新しい技術が生まれるタイミングだと思うので、新しいことに挑戦し続けたいと思っています。

【CTOのプロフィール】

大坪 弘尚(株式会社はてな CTO)
東京大学大学院情報理工学系研究科を中退後、2008年にアプリケーションエンジニアとして、はてなに新卒入社。うごメモはてなをはじめ、はてなの新サービス開発に数多く関わる。2012年より技術グループチーフエンジニア、2016年にCTOに就任。現在ははてなのプラットフォームでアプリケーションエンジニアとして業務に携わりつつ、技術組織全般の統括を行っている。

染田 貴志(株式会社ハカルス CTO)
京都大学大学院情報学研究科を卒業後、サンマイクロシステムズでエンジニアとしてキャリアをスタート。
未踏ソフトウエア創造事業への採択をきっかけに、ベンチャーでのプロダクト・サービス開発の世界にのめりこむ。
現在は株式会社ハカルスのCTOとして、グローバルなデータサイエンティスト・エンジニアリングチームとともにサービスを成長させるべく日々奮闘中。

藤門 千明(ヤフー株式会社 CTO)
筑波大学大学院を卒業後、2005年にヤフーに入社。
エンジニアとしてYahoo! JAPAN IDやコマースサービスの決済システム構築などに関わる。 決済金融部門のテクニカルディレクターやYahoo! JAPANを支えるプラットフォームの責任者を経て、2015年にCTOに就任。2018年に常務執行役員CTOに就任。


「Osaka Mix Leap」は、「発信」「交流」「共創」を軸に、ヤフーの大阪オフィスで開催されるイベント。 オープンコラボレーションを目的に「LT(ライトニングトーク)」「Study(勉強会やセミナー)」「Joint(企業や自治体とのコラボレーションイベント)」「OpenDay(オフィスを一般開放する交流イベント)」などを開催しています。


【関連リンク】

このページの先頭へ