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2016.08.04

Yahoo! JAPAN戦後71年プロジェクト〈2〉「軍事郵便で見る、戦争の記憶」

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今年で終戦から71年。Yahoo! JAPANでは、昨年2015年の終戦70年の節目に、戦争の記録や当時を知る方々の記憶を100年後の世代に伝えるプロジェクト「未来に残す 戦争の記憶」を開始しました。
今年の夏、そのプロジェクトの一環で、二つの企画「空襲の記憶と記録」「軍事郵便で見る、戦争の記憶」を公開しました。

今回、そのひとつ「軍事郵便で見る、戦争の記憶」の企画の経緯、制作における思いを、本企画の監修をされた元専修大学教授の新井勝紘先生と、本企画担当のYahoo! JAPANマーケティング&コミュニケーション本部の渡辺に聞きました。

(左から、元専修大学教授の新井勝紘先生、Yahoo! JAPANマーケティング&コミュニケーション本部の渡辺)

軍事郵便」とは?
出征中の兵士と本国の人との間に取り交わされる郵便物のこと(「大辞林」より)

ごく普通の若者が、戦地で何を見て、何を感じたのか

- 今回、なぜ「軍事郵便」をテーマに選んだのでしょうか?

Yahoo! JAPAN 渡辺(以下、渡辺)
私は昨年、Yahoo! JAPAN戦後70年プロジェクト全体の企画構成などを担当しましたが、次の戦後71年はまた違った切り口の企画をやりたいと思っていました。
そんなときに、ある方から新井勝紘先生の著作「ケータイ世代が『軍事郵便』を読む」(専修大学出版局)を教えていただいたんです。

まず、本のタイトルを見たときに、その「ケータイ世代」と「軍事郵便」という二つの言葉の距離感がすごいなと思いました。また、実際に手にとって読んでみると、当時20代の兵士が、明日死ぬかもしれないという限られた時間の中で、愛する家族や友人に必死に手紙を書いている。そして、その手紙を兵士と同じ世代の新井先生のゼミ生が懸命に解読している――その取り組み自体がすばらしいと思い、ぜひ一緒に企画をさせていただけないかと、新井先生のもとをたずねたのがちょうど1年前の夏でした。

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(Yahoo! JAPANマーケティング&コミュニケーション本部の渡辺)

- 新井先生は最初その企画を持ちかけられたとき、どのように思われましたか?

新井勝紘先生(以下、新井)
最初はびっくりしましたよ。軍事郵便は、私が教えていた専修大学の授業やゼミでは扱っていたものの、まだそんなに一般的には広まっていません。
それをインターネットの世界の人たちが注目して、さらに100年残すプロジェクトとして扱いたい、と。感銘を受けましたね。
ただ、どのように軍事通便を今回のプロジェクトで扱うのかが最初は想像がつかず、いったい今後どうなるんだろうとは思っていましたが……(笑)

渡辺:
(笑)  企画として形になるまでに1年かかりました。

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(本企画を監修いただいた、元専修大学文学部教授の新井勝紘先生)

- 今回の企画は、23歳のときにビルマ(現ミャンマー)で戦死した川崎市出身の兵士・小泉博美(ひろよし)さんがご家族に送った手紙と、戦時中に描かれた絵葉書の紹介の二部構成となっています。
小泉博美さんの書簡は新井先生が専修大学のゼミや授業でも特に重点的に扱ってきたとのことですが、そもそもなぜ新井先生は「軍事郵便」を大学の授業で使うようになったのでしょうか?

新井:
私が担当していた近現代史の講座においては、戦争の話は避けて通れないものです。ただ、一般的な戦争の話をしても学生の反応はあまり良くありませんでした。
戦争をもっとリアリティーのあるものとして受け止めてもらうにはどうしたらよいかと考えたときに、軍事郵便を使ってみたらどうだろう、と思ったんです。2004年ごろのことでしたね。
専修大学は川崎市にキャンパスがあり、通学する学生にとっても身近に感じられるのではないかと、同じ川崎市出身の小泉博美さんの書簡を一通ずつゼミで読んでいくことになりました。

実際、最初は学生の反応はいまひとつでした。60年以上前に書かれた手紙は特殊な文体や難解な用語も多く、今の学生にとっては古文書を読むようなものです。
しかし、小泉博美さんという一人の差出人が書いた手紙を何十通か読み込んでいくにつれ、だんだんとその手紙の登場人物の背景などが分かってきて、学生ものめりこむようになってきました。

そこから、小泉さんのご遺族を探し、その方々にインタビューするフィールドワークを授業で行うようになりました。

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(小泉博美さんが戦地ビルマからご家族に宛てて書いた手紙)

- 実際に軍事郵便に触れることで、学生たちの戦争への感じ方はどう変わったのでしょうか?

新井:
小泉さんの実の妹さんお二人に学生たちがインタビューをさせていただいたのですが、途中で妹さんの一人が「こんなに若い学生さんたちが、ビルマで死んだ兄の手紙をこんなに読み込んでくれて、また私たちの話をここまで真剣に聞いてくれるなんて……」と泣き出したんです。
そのとき、戦争というものが今の時代を生きている人にもこれだけ影響していて、70年たった今でも戦争はまだ終わっていないのだ、と学生たちも痛感したようでした。
小泉さんの書簡を通じて、学生たちもリアリティーのある戦争体験の一部に触れられたのではないかと。

「戦争」というとどうしてもスケールの大きな話になりがちですが、実際は当時ごくごく普通の青年が戦地に行ったんです。
その普通の若者たちが戦地で何を見て、何を感じて、家族にどう伝えたのかを知ることのできる軍事郵便は、日本人の戦争体験を伝える歴史資料として改めて光を当てる意義があるのではないかと思っています。

もちろん当時の手紙は検閲のハードルはありましたが、何十通、何百通と読んでいくと、どこかしら書いた人の本音が見え隠れする箇所があるものなんです。

渡辺:
「当時の兵士の方々の思いを、現代によみがえらせて、きちんと弔いたい」という新井先生の強いお気持ちをうかがったときにはとても感銘を受けました。
新井先生に紹介いただいた軍事郵便には、同じひとりの兵士による手紙であっても、何気ない内容がつづられた翌日に、戦地における衝撃的な内容が書かれています。日常的な描写と非日常の描写を併せ持った重要な歴史資料だと思います。

今回の特集では、新井先生のゼミの卒業生の方にも情報整理や解読などでご協力いただいています。

インターネットを通じて幅広い世代に軍事郵便というものの存在をまず知ってもらい、触れてもらうことで、教科書には載っていないリアルな戦争体験を伝えたい。
今年はそのスタートの年だという思いがありました。

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(新井先生(左から2番目)と一緒に今回のプロジェクトを支えてくれた新井ゼミ卒業生のみなさん。左から、伴野さん、岩崎さん、小林さん)

- 実際に今回インターネット上で小泉さんの書簡を公開するにあたり、ご遺族の反応はいかがでしたか?

渡辺:
一般的に、私的な軍事郵便を公表するにあたっては、もちろん懸念を示すご遺族の方もいらっしゃいます。
しかし、小泉さんのご遺族の場合、「これから生まれてくる若い世代に戦争の悲惨さを伝える助けになれるのであれば、こちらとしてもありがたい」と今回のプロジェクトに賛同していただきました。
ただ、不特定多数の人がアクセスできるインターネットという環境において、情報をどこまで開示するかという点は気にされていたので、相談しつつ進めました。

新井:
今回インターネットに軍事郵便を掲載するにあたり、幅広い層の方々にどのように受け止められるか、というのは正直想像がつかないところです。日ごろ研究者として論文で発表するときとは別の反応、反響があるのでは、と思っています。

- 軍事郵便のプロジェクトの今後の展開について教えてください。

渡辺:
紹介する手紙の数はもっと増やしていきたいと思ってます。新井先生とも話していますが、みなさんにより身近に感じていただくためにも、日本各地に送られた軍事郵便を紹介していきたいと考えています。教科書などでは分からない、違った角度からの戦争の見方につながるのではないかと思っています。

- 最後に、この企画を通じての思いをお聞かせください。

新井:
軍事郵便は、おそらく戦争に行った人がいるほとんどの家庭で所有されているものです。戦地からの手紙ですから大事に保管されてきたケースが多いですが、孫、ひ孫世代になると捨てられてしまうこともある。戦後70年がたち、今、まさにその軍事郵便が処分される危険な時期にさしかかっています。

先程から述べている通り、軍事郵便は歴史資料として大変貴重なものです。軍事郵便を保管されている家庭は、ぜひ捨てないでいただきたい、とお伝えしたいですね。

渡辺:
今後、戦争経験者が少なくなっていきます。その戦争体験者の方々の証言を「残す」ことは、インターネット企業としてできることだと思っています。
引き続き、新井先生をはじめとする研究者の方々と一緒にこのプロジェクトを毎年続けて、インターネット上に戦争の記憶を残していきたいと思います。

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特集「未来に残す 戦争の記憶」
空襲の記憶と記録」 / 「軍事郵便で見る、戦争の記憶

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