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2016.07.14

ビッグデータで隠れ避難所をいち早く把握する

ビッグデータで隠れ避難所をいち早く把握する

こんにちは、「Yahoo! JAPANビッグデータレポート」チームです。
今回も「Yahoo! JAPAN研究所」より、4月に発生した熊本地震に関する研究内容を紹介いたします。

震度7という大きな地震が立て続けに発生した4月の熊本地震は、熊本県を中心として九州全体に多大の被害をもたらし、被災地では今なおその影響が続いています。

4月14日~4月20日までの震源地プロット

4月14日~4月20日までの震源地プロットの図

ヤフーでは、Yahoo!基金による緊急支援募金を受け付けたり、ヤフオク!での支援プロジェクトやYahoo!ニュースの特設情報ページなどの支援を発災直後より行いました。さらに被災地を直接訪れての支援活動も行いました。その様子はYahoo! JAPANコーポレートブログにてご報告させていただいています。

そこで、今後同じような災害時にビッグデータを活用した有用な情報提供ができないかという考えのもと、今回の熊本地震についてビッグデータを用いた分析を行ない、合わせて、実際の被災者や復興に携わった方の声も伺いました。その結果、「災害時の人の動きを把握してすばやく必要な関係機関へ情報提供することで、今回の災害時に実際に直面したような課題を解決できそう」という仮説を得ることができました。今回のビッグデータレポートでご紹介したいと思います。
なお、この研究は東京大学の関本研究室と共同で行なっており、本レポートも関本研究室との共同成果となります。

被災地に発生した課題

今回の熊本地震では、実際にどのような課題があったのでしょうか?

被災地支援メンバーのヒアリング結果、「地震が起こった直後数日間、被災者の居場所の把握が困難だった」という課題が見えてきました。これは、指定避難所以外にも人が集まっている場所があり、どこに何人避難しているかを知る手段がないため混乱が発生した、ということのようです。指定避難所ではなかったショッピングモール「グランメッセ熊本」に人が多く集まった報道を見られた方も多いと思います。
そのような動きを把握できなければ、安否確認情報はもとより、支援物資の配送先を選定することもできず、また物資の量やそこで何が必要になっているかもわかりません。実際に今回の地震の時には、自衛隊の方などが個別に足で実態を探るという地道かつ負荷の高い活動によって被災地情報を集めるということが行われました。
このように、「人がどこに集まっているのかをリアルタイムに近い形で把握」が可能になれば、大きな課題解決につながることが見えてきたわけです。

いったいどこに避難しているのか

この課題を解決できる手がかりが、これまで取り組んできた研究の中にありました。それは人口密度マップと呼ばれるデータです。

このデータは本来「どこにどれだけ人が集まっているかを地図上に可視化する」というもので、地図上に人口密度の差をヒートマップで表示し、そのエリアの混雑具合などを一目でわかるようにしたものです。Yahoo! JAPANのサービスにも活用しており、「Yahoo!地図」アプリでお使いいただくこともできます。今回そのデータを応用し、普段人が集まらない場所にもかかわらず、発災後になって人が集まったエリアを抽出できないかと考えました。
それを抽出する手法として、平時の人口密度と比較しその差分を計ることで行いました。 それができれば、指定避難所以外の緊急避難所の早期特定や、どこにどれだけの量が必要なのかといった支援物資の配送計画などに役立てることができるためです。

実際に先ほど取り上げた「グランメッセ熊本」の事例で見てみましょう。

(図1)4月18日の「グランメッセ熊本」周辺の混雑度

4月18日の「グランメッセ熊本」周辺の混雑度の図

資料:
Yahoo!防災速報、OpenStreetMap

赤いエリアとなっているのは、人口密度が急激に上昇していることを表しています。つまり、平時と異なる混雑が「グランメッセ熊本」で発生していたことが確認できます。これにより、実際に震災直後の人の増加を可視化できました。このエリアの「いつもと違う混雑度合い」を時系列でグラフにしたものが図2です。

(図2)グランメッセ熊本周辺の混雑度の推移

グランメッセ熊本周辺の混雑度の推移図

資料:
Yahoo!防災速報

赤い線を上回ると先ほどの地図でも赤色エリア(普段からは考えられないほど混雑)になり、黄色い線を上回ると先ほどの地図で黄色エリア(普段とくらべてかなり混雑)となります。4月15日~4月21日の間は赤い線を上回っているため、特に人が集まっていたとみられます。

次に、これを熊本県全域に広げて解析してみます。まずは平時の熊本県の人口密度分布を見てみます。

(図3)平常時の熊本県の人口分布

平常時の熊本県の人口分布図

資料:
Yahoo!防災速報、OpenStreetMap

このデータに対して、前震が発生した4月14日でも同様の人口密度分布を集計し、その差分をとって混雑度を表したのが次の地図です。

(図4)4月14日(前震発生日)の混雑度マップ

4月14日(前震発生日)の混雑度マップの図

資料:
Yahoo!防災速報、OpenStreetMap

黄色が「普段とくらべてかなり混雑」、赤色が「普段からは考えられないほど混雑」したエリアを示しています。これから平時に比べて黄色や赤色のエリアに人が集まりはじめていることが把握できます。

さらに混雑度の変化を見てみました。

(図5)地震後(4月15日~4月21日)の混雑度マップ

4月15日の混雑度マップの図 4月16日の混雑度マップの図 4月17日の混雑度マップの図 4月18日の混雑度マップの図 4月19日の混雑度マップの図 4月20日の混雑度マップの図 4月21日の混雑度マップの図
資料:
Yahoo!防災速報、OpenStreetMap

徐々に避難混雑のエリアが増えてきています。そして、本震(4月16日)翌日である4月17日にはもっとも黄色や赤色エリアが多く観測されました。このことから、余震や本震が続いたことで避難する人が増えたと推測されます。このデータと指定避難所の場所を照らし合わせることで、熊本県内のいたるところに指定避難所以外にも関わらず人々が集まっている場所が増えていたという事実を読み取ることができました。

(図6)5月15日の混雑度

5月15日の混雑度の図

資料:
Yahoo!防災速報、OpenStreetMap

5月15日頃になり、ようやく黄色や赤色エリアが減り始めました。その事実は混雑エリアの推移を見るとわかります。

(図7)混雑判定エリアの占める領域割合の推移

混雑判定エリアの占める領域割合の推移図

資料:
Yahoo!防災速報

実際に黄色や赤色エリアの割合がどのように推移したかを示すグラフが上です。4月16日の本震で急に黄色や赤色エリア、つまり「いつもと違う混雑」エリアの割合が明らかに大きくなっています。4月17日にピークを迎えたあとはしばらく大きな割合を占める日が続いていましたが、4月27日以降は徐々に減少している事ことも読み取れます。しかし、ピークの4月17日よりだいぶ少なくなったものの、発災1ヶ月を過ぎた5月16日において、まだなお赤色エリアが発災前より多く確認することができ、長期にわたって地震の影響が続いていることがわかります。

データ分析で貢献する災害支援

実際にこれらのデータを現地で本震直後より1週間あまり救助・支援活動に携わったメンバーに確認してもらったところ、より精度を高めることで「災害初動時に、人の動きをいち早く把握して現場にその情報をリアルタイムに伝えることができるという点で効果的」だろうと評価を頂きました。この避難混雑把握の仕組みを使えば、発災時に人々がどのあたりへ避難しているのかあたりを付けることが可能となるため、適切で効率的な対処へとつながるのではということでした。

Yahoo! JAPANではこれまでも災害に対してさまざまな取り組みを行ってきましたが、これからもビッグデータを活用した災害時に役立つスキームの構築を研究するなどして、社会貢献につなげていきたいと考えています。たとえば、上記のような分析を発災後しばらくしてから行うのではなく、発災直後に分析し、自治体や自衛隊の方に情報提供していくことができれば初動時の人流把握に役立つのではないかと考えています。

これからも防災、減災に向けてのYahoo! JAPANの取り組みにぜひご注目いただければ幸いです。

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