2018年6月28日から7月8日ごろにかけて、西日本を中心に記録的な集中豪雨が各地を襲いました。
この豪雨被害を受けて「SEMA(※1)」が初めて稼働。
(※1)SEMA(シーマ):「Social Emergency Management Alliance」の略。
大規模自然災害発生時に、物資・サービスなどの支援をワンストップで提供する、日本発の民間主導による緊急災害対応アライアンス。昨年(2017年)8月に設立。
日本国内の民間企業45社とNPO6団体が連携しており、ヤフーはその1企業として参加している。
SEMAは、平時から加盟企業や団体が持つ物資・サービスなどをリストとして集約。大規模な自然災害の発生時には、このリストをもとに各社が提供できる物資を迅速に被災地に届けます。
また、NPOは被災地での円滑な情報(どこで、何が、どれくらい不足しているのか)の収集を担当。ヤフーがその情報を集約してから物資を届けるので、「被災地に必要な物資を必要な場所に無駄なく届ける」ことが可能です。また「被災した自治体に負担をかけずに救援物資を届けるため、自治体は行政サービスに専念できる」というメリットもあります。
今回は、SEMA設立の経緯や、加盟企業とNPOとの関係構築の仕方、準備していたこと、稼働してはじめてわかった現地の課題などについて、担当者に聞きました。
- 2018年7月の西日本豪雨における「SEMA」の活動
- 西日本豪雨の被災地で感じた課題
- 必要とされている支援をワンストップで届けること
2018年7月の西日本豪雨における「SEMA」の活動
7月6日(金):夕方、大規模災害発生の可能性があることを加盟企業へ連絡。
7月7日(土):支援開始を決定。8日(日)より緊急支援物資の提供を開始。
7月9日(月):ヤフー東京オフィス内にSEMA対策本部を設置。
グンゼの肌着約9,600枚を提供し、倉敷タオルが物流を支援。倉敷タオルが、グンゼが提供する肌着をグンゼ岡山物流拠点からピックアップして避難所へ配送。
7月11日(水):ハート引越センターが、首都圏から被災地へ1日1回の物資の安定運送のため「SEMA定期便」の運行を開始。
22社の協力により、20カ所以上の避難所や支援拠点へ水・スポーツ飲料18,100リットル、肌着・衣服12,000着、衛生用品などを提供。
-「SEMA」設立の経緯・目的、SEMA稼働の基準を教えてください
安田:
SEMAの考え方は、2016年くらいからありました。2016年の熊本地震発生時にアスクルさんとヤフーで避難所に必要なものをヒアリングしてアスクルさんで物資を調達しお届けする「LOHACO応援ギフト便」を行いました。この活動も、SEMAを立ち上げた背景となっています。
町田:
また「受援(じゅえん)」の問題もありました。東日本大震災、熊本地震のときなど、SNS上でたとえば「タオルがほしい」と呼びかけると、さばききれない量が届いてしまうことがあったそうです。必要以上の物資が集まってしまうと、被災地に負担をかけてしまうことがあります。
SEMAの稼働によって、必要なものを必要なだけ、必要なタイミングで必要とされている場所へお届けすることが目的です。
安田:
SEMA運用の検討開始基準は、NPOとの連動性を高めるため特定非営利活動法人ジャパン・プラットフォームの出動基準を参考にしています。
町田:
発災後、NPOが現地に行って活動することがSEMA稼働の必須条件です。現地のニーズがないのに、物資を届けることはしません。2018年6月に発生した大阪北部地震の時にもNPOが現地に入り情報収集はしたのですが、公的支援が十分な状況だったため、出動はしませんでした。
「発災(火災や震災などが起こり緊急事態になること)」からSEMAはスタートしますが、今回の豪雨のような雨災害、進路が予想できる台風など、少しずつ被害が大きくなっていくものについては、稼働前に情報収集をし、現地の状況をメールで加盟企業のみなさんにお伝えします。
今回の豪雨対応では、7月6日(金)の夕方の時点で、加盟企業のみなさんが入っているメーリングリストに「(大雨)特別警報が発表される可能性があります」と送ったことが、SEMAの初動です。その後、週末も情報収集を続けました。
物資として最初の支援ができたのは、7月8日(日)、特定非営利活動法人アドラ・ジャパンが羽田から広島の三原に入られるというタイミング。SEMAに加盟しているFSXの社長さんが体拭き用おしぼりを1,500本、羽田まで持っていけると申し出てくださり、それをそのまま飛行機で広島に持って行っていただきました。
-SEMA設立後、どのように加盟企業、NPOとの関係をつくっておいたのでしょうか?
町田:
ヤフーもあくまでSEMAのなかの1社であり、私たち自身が被災する可能性もあるなかで、事務局としてやらせていただいています。
まず、加盟企業の方には必ず対面でSEMAのご説明をします。いざ災害が発生したときは、その企業自体も被災している可能性もありますので、「発災時に物資を出すかどうかについては、そのときの状況に応じてご判断ください」と、しっかりお伝えしています。
SEMAが始動する際のフローも複数回に渡ってお送りしたため、発災時の動きを事前にイメージしていただきやすかったのではないかと思います。
安田:
加盟企業の方たちには積極性のある方が多く、今回の豪雨の際も、稼働前から「動かないの?」と連絡をくださった企業もありました。みなさんの積極性もあり、コミュニケーションがスムーズだったのではないかと感じています。
西日本豪雨の被災地で感じた課題
安田:
住んでいる場所が5メートルくらい違うだけでも、生死が分かれるということを実感しました。
また、一見崩れていない建物でも、断水や停電の影響で普段の生活が送れない、ものも届かないという「見えない被害」もあると感じました。
公的な配送機関も被災していて使えなかったり、国の支援物資を運ぶために駆り出されてしまったりするため、トラックを出せる会社がなかなか動けなかったことも課題でした。
物資をすぐ出してくれる企業はあっても、それらを運べるトラックとドライバーがそろわなければ動けません。物資はあるけれど被災地に届けられないことが、今回の大きな課題になる可能性はあったと思います。
町田:
被災地からは、最初は飲料水、食料、肌着などの命をつなぐものへの要望があがりました。その後、蚊の大量発生を抑える薬やスポーツ飲料など、生活の質を一段上げるものが必要になるなど、ニーズが段階的に変化していきました。この変化についてはある程度予測はしていましたが、今回初めて実体験できたと思います。
7月11日(水)からは、ハート引越センターさんが1日1便4トントラックで運ぶ定期便を現地まで出してくださるようになったことで、安定した物資の提供が可能になりました。
他の企業が提供してくださった物資を、地場の別企業さんが避難所まで届けてくださったこともありました。
グンゼさんが、肌着を岡山の工場から出せると言ってくださり、SEMAの加盟企業である岡山県の倉敷タオルさんが工場からピックアップして岡山の避難所に届けてくださったんです。そのため、早期に肌着を被災者のみなさまにお届けできました。
これは、SEMAの取り組みがあったからこそできた連携だと思っています。
必要とされている支援をワンストップで届けること
-今回の稼働後、協力してくださった加盟企業やNPOからはどんなフィードバックがありましたか?
岸谷:
協力してくださった加盟企業からは、「今回の稼働でSEMAの必要性がわかった」というコメントを多くいただきました。
私は7月23日の週に現地入りし「被災地にもう大量の物資は不要です」というレポートを現場から送りました。その活動も「国や行政が埋められないところをSEMAが埋められることがわかった」と言っていただきました。
町田:
企業の方たちは、自分たちが送る物資が少しでも被災地の役に立てば、という思いがとても強いです。今回、物資だけではなくその気持ちも乗せて運んでいると感じました。
現地で活動しているNPOの方へのメッセージをくださった企業もありました。間に入る私たち事務局が、確実に物資を届けるために役割を果たしつつ、その思いに触れられたのは幸せなことでした。
NPOの方たちは現地のニーズはわかっているものの、物資の調達がなかなかできない状況だったそうです。「SEMAがあったおかげで、すぐ物資が届き支援ができたのでよかった」というコメントをいただいています。
岸谷:
SEMAの取り組みには、まだ改善の余地はあると思いますが、災害の支援を行う際には、支援している人をバックアップする仕組みが必要です。
支援する側がスムーズに活動できるよう、その支援を被災された方たちが適切に受けられるようにサポートと調整をしていくことが、私たちの役割だと考えています。
-SEMAの今後の展望を教えてください
町田:
女性や要配慮者向けの物資が足りていないことや、物資を運ぶためのロジスティクスの課題が改めて認識できたので、今ケアできていない領域の企業さんへのお声がけを行っていきます。
岸谷:
これまで発生した災害でも、どこで誰が何を必要としているかわからず支援物資を届けられない、というニーズの把握の問題、そして把握はできても物資を避難所まで届けきることが難しいという課題がありました。
これを少しでも解決するため、地元に密着していて現地に入りやすい企業さんとの協力体制もさらに強化していきたいです。
「発災時に、必要とされている支援を最後までワンストップで届ける」。
そのための役割を、ヤフーがこれからも担っていければと思っています。