なぜ景気の「今」はわからないのか
アベノミクス、日経平均上昇、異次元の金融緩和策……最近、ニュースなどで景気・経済の話題が一段と増えたと思いませんか? 株価は連日高値を更新し、いくつかの企業では“賃金アップ”なんて報道も流れていますが、この“景況”を実感するのは難しいのではないでしょうか。そんな感覚値で判断の難しい景況を数値化して確認できる指標として、日銀短観や国内総生産(GDP)、景気動向指数などが発表されています。
しかし、これらは確かに景気の判断材料にはなるものの、ある問題点を抱えています。
その問題点とは、ズバリ、リアルタイム性。既存の景気動向指数の指標は3カ月に1度の発表であったり、調査から発表まで1〜2カ月かかるなど、リアルタイム性に欠けるのです。つまり景気の「今」を知ることができません。
そこで、Yahoo! JAPANでは、弊社が誇る膨大な“ビッグデータ”の一部を活用して、景気の「今」を知り、伝えることにチャレンジしてみました。
今回の「Yahoo! JAPANビッグデータレポート」では、われわれの持つ大規模なデータを用いて景気の「今」を知ることができる「Yahoo! JAPAN景気指標」を導き出すことは可能か、そこに挑戦してみた結果をご紹介できればと思います。
景気をどう確認するか
Yahoo! JAPANに存在するビッグデータと景気の関連性を導き出すにあたり、まずは景気を客観的に判断するためのベースとなる指標が必要です。
今回は内閣府が毎月発表している「景気動向指数(CI)」のなかから「一致指数(以下、「景気動向一致指数」)」をその基準として検証することにしました。
現時点では、4月5日に発表された2月速報値(4月19日に改定予定)が確認しうる最新データ
- 資料:
- 内閣府 経済社会総合研究所景気統計部
「景気動向一致指数」とYahoo! JAPANの持つビッグデータを比較して関係性あるデータを抽出し、そこから「Yahoo! JAPAN景気指標」を導き出してみます。
そのために使うデータとして、Yahoo! JAPANが持つ膨大なデータのうち、どのようなデータが適しているのでしょうか?景気を予想するための必要なデータの特性を考えると、たとえば、データ量が極力大きく、長期にわたって存在し、人々の行動様式や心理状態、世相・風潮が反映されやすい……といったことが思い浮かびます。その前提から、「Yahoo!検索」の検索キーワードを使用して検証をしてみることにしました。
Yahoo! JAPANにあるビッグデータから、景気動向一致指数に近いものを導き出せないか試みた
- 資料:
- 景気動向一致指数=内閣府 経済社会総合研究所景気統計部
景気と関連するキーワードを探す
まず必要なのは、毎日大量に検索されるキーワードのなかから「景気動向一致指数」の推移と相関のあるものを見つけだすことです。
そこで、2012年中に検索されたユニーク検索数(検索キーワードの全種類)約75億種類のなかから、分析するにあたって必要となる、毎日一定回数以上検索された約60万キーワードを抽出し、それを検証対象としました。そして、そのキーワード群すべての2009年12月から2013年2月までの月間検索数の推移と、「景気動向一致指数」の推移の相関を調べた結果の分布が以下です。
ごく僅かではあるが、景気動向指数と相関の高い検索語(b)も存在
- 資料:
- 「Yahoo!検索」データ
このグラフですが、1.0もしくは-1.0に近づけば近づくほど、その検索キーワードの月間検索数推移の動きと景気動向一致指数の動きとの相関性が高いと判断できます。
これを見ると、多くの検索キーワードは景気動向一致指数と相関が低かったのですが、その中にごく一部ですが景気動向一致指数と高い相関を持つキーワードが存在することがわかりました。特に相関が高い0.8以上もしくは-0.8以下を基準に抽出してみたところ、約60万のキーワードのおよそ1/3000が該当しました。
さらにキーワード群のなかから推移傾向が非常に似ているキーワードを足し上げる処理も行いました。
以下のステップでYahoo! JAPAN景気指数を導き出す検索語を厳選
- 資料:
- 「Yahoo!検索」データ
それら、景気の動きと限りなく相関性の高い動きをすると思われる選びぬかれたキーワード群から、「Yahoo! JAPAN景気指標」を策定し景気予測をしてみました。
相関が高いキーワードとは?
結果を語る前に、上記方法によって選びぬかれたキーワードの相関性について確認しておきましょう。 正と負、それぞれで高い相関性を見せたあるキーワードの検索数の増減と、景気動向一致指数との相関分布の"例"は次の通りです。
相関の高い語(b)だけに絞ると、景気動向一致指数と関連の高い動きをみせる
- 資料:
- 景気動向一致指数=内閣府 経済社会総合研究所景気統計部、「Yahoo!検索」データ
上記で紹介したものは、今回の「Yahoo! JAPAN景気スコア」で使用したものであるため具体的なキーワードをご紹介できませんが、おしくもリストには入らなかったものの、相関性の高いキーワードには、以下のようなものがありました。
いかがでしょうか? キーワードを見ても景気が悪くなると検索数が増える、または減るといった関連性がなんとなく推測できそうですね。 このようにして、キーワード群を上記作業を通じて厳選しました。
「Yahoo! JAPAN景気スコア」を求める
さて、次に景気動向一致指数と相関の高いキーワード群をもとに、景気の予測のキモとなる「Yahoo! JAPAN景気スコア」を算出します。
算出方法は以下の通りになります。
厳選した検索語を相関計数値で重みづけをして統合
この方法によって求められた「Yahoo! JAPAN景気スコア」。このスコアと景気動向一致指数を用いて回帰式から傾きと切片を特定。
それを元にして「Yahoo! JAPAN景気指数」を求めました。
- 資料:
- 景気動向一致指数=内閣府 経済社会総合研究所景気統計部、「Yahoo!検索」データ
さらに、過去の景気動向一致指数をベースに、同様のやり方でそれぞれの期間を変えつつ15回試算し、実際に発表された景気動向一致指数と比較した結果が次の通りです。
- 資料:
- 景気動向一致指数=内閣府 経済社会総合研究所景気統計部、「Yahoo!検索」データ
結果、両方の差は2005年を100とした指数で最大1.51、平均では0.51となり、「Yahoo! JAPAN景気指標」でかなりの精度で景気動向一致指数の予測が可能なのでは? との結果が出ました。
- 資料:
- 景気動向一致指数=内閣府 経済社会総合研究所景気統計部、「Yahoo!検索」データ
果たして3月の景気は!?
結果を元に、さっそく内閣府からはまだ発表されていない、3月分の景気動向一致指数を『試算』してみました。
- 資料:
- 景気動向一致指数=内閣府 経済社会総合研究所景気統計部、「Yahoo!検索」データ
3月の「Yahoo! JAPAN景気指数」は2月から横ばいの91.9、つまり景気動向一致指数の3月の発表値もほぼ横ばいでこのあたりになるのでは? というのがYahoo! JAPANのビッグデータから導き出されたまだ発表されていない3月の景気の予想です。本当のところどうなのかは、次回の内閣府の発表を待ちたいと思います。
週単位での景気も観測可能
さらに、現在内閣府の「景気動向指数」は月一回の発表となっていますが、「Yahoo! JAPAN景気指数」の算出は週単位での景気観測も計算上は可能です。
実際に過去の景気動向一致指数と週単位での「Yahoo! JAPAN景気指数」の推移を比較してみました。
- 資料:
- 景気動向一致指数=内閣府 経済社会総合研究所景気統計部、「Yahoo!検索」データ
いかがでしょうか? 年末、ゴールデンウィーク、お盆などなぜか休暇時期はかい離が大きいですが、差の平均は0.94とおおむね使えなくはないことがわかりました。ということで、休暇時期を外せば内閣府より一段細かいスケールでの景気値が得られそうということがわかり、少々ホッとしています。
では、前述の月単位での「Yahoo! JAPAN景気指標」に引き続き、週単位の最新の「Yahoo! JAPAN景気指数」を出してみましょう
- 資料:
- 景気動向一致指数=内閣府 経済社会総合研究所景気統計部、「Yahoo!検索」データ
算出してみたところ、3月最終週の指数は92.6となり、「Yahoo! JAPAN景気指数は改善(上向き)つつある」との結果になりました。
以上、今回の結果をまとめると、
いかがでしょうか?
Yahoo! JAPANがもつビッグデータを駆使して過去にもいくつかのレポートを公開してきましたが、今回は景気指標・景気予測の可能性が見えてきました。
Yahoo! JAPANのビッグデータチームでも今回の景気指標の検証はまだ足がかりに過ぎず、さらに精度を高めるためのアイディアが次々にあがっておりますので、さらに精度が高く、かつリアルタイムに近づいた結果をご報告できるように取り組んでまいりたいと思います。
「Yahoo! JAPANビッグデータ」では今後もさまざまな分析と発見を発信して行きたいと考えておりますので、これからもどうぞよろしくお願いいたします。