「民泊」で絆を深め地域交流人口を増やす

民泊を体験した台湾のライダーの写真

台湾から参加した高世軒さん(左)、李伯芳さん(中央)、陳東南さん。気仙沼フォンド(211km)のスタート地点・石巻専修大学で

「民泊」を地域の収入源に

「ツール・ド・東北」では、初年度である2013年から、参加ライダーに民泊プログラムを提供してきた。ライダーやボランティアなど4000人以上が参加するため、スタート地点である石巻市内の宿泊施設はすぐに満室になってしまい、宿泊先不足の課題が残る。石巻に泊まれないライダーらは仙台に宿を取ることが多い。

鈴木哲也の写真

ヤフーで民泊を担当する社会貢献推進室 復興支援室の鈴木哲也。石巻に移住して3年目になる

「地域にお金を落とし、経済的に貢献することも『ツール・ド・東北』の意義であると考えています。ですが、被害の大きかった沿岸部には宿泊先が少なく、石巻で食事をしようにも仙台からは遠く、なかなかお金が落ちにくい現状があります。そこで、一般家庭を開放してもらうことで地域にお金が落ちる仕組みをつくりたかった」と民泊を担当するヤフー社会貢献推進室 復興支援室の鈴木哲也は説明する。

受け入れ先のホスト家庭では、民泊のために布団をクリーニングに出したり、新調したりする。こうした経済的負担が少なくなるように当初から有料化を目指していたが、旅館業法の壁があった。そこで、まずは実績をつくろうと初年度は無料で始めた。

「3年目となる今年は2年間の実績を評価され、宮城県の特例として、今年に限り有償での実施が認められました。ただし、この特例では来年以降は再び無料に戻ってしまいます。そこで国に働きかけた結果、イベント開催時に宿泊施設の不足が見込まれ公共性の高い民泊は旅館業法の適用外となり、今後も有償で実施できることになりました」(鈴木)

民泊するゲストは、河北トラベルに1泊4000円を支払う。そのうち2800円がホストの収入となり、残り1200円は保険や事務局運営費に充てられる。素泊まりが基本だが、中には食事を提供する家庭もあり、その場合は事前に検便を行うなど対策も取った。安全管理を徹底するほか、事前説明会や個別相談の機会を設けホスト側の不安感を取り除くことも心掛けた。

「受け入れ先のホストは、『来てくれるだけで有難い』とお金を受け取りたがらない場合も多い。でも、継続的に民泊に取り組んでもらうために、やはり経済的な負担を減らしたかった。有料化は大きな前進です」(鈴木)

同伴した家族も楽しめる応援飯の写真

石巻専修大学では、「食べて応援」をコンセプトに、牛タンやウニ飯、サンマのつみれ汁といった「応“縁”飯」が並んだ。走らなくても、同行した家族らも楽しめる(撮影:Yahoo! JAPAN公式カメラ隊)

民泊受け入れで「震災支援の恩返しをしたい」

民泊参加者の数は初年度が100人(43部屋)、2年目は185人(86部屋)、3年目となる今年は2日間で、のべ225人(95部屋)と増えてきた。だが、民泊への応募者数は約2倍と多く、まだまだ部屋は足りない。

「民泊の受け入れ先が増えれば、ライダーの数も増やすことができ、より大きな経済貢献につながります。さらに、ホストとゲストの継続的な関係を構築することで、単発のイベントに留まらない、『交流人口』を増やしていきたいです」(鈴木)

被災地では、震災で受けた大きなダメージからの復興に加え、震災を機に高齢化や人口減少などかねてより抱えていた課題が顕在化し、急速に進んでいる。「交流人口」とは、居住する「定住人口」に対し、観光や通勤など地域を訪問する人数で、地域活性化の新たなアプローチとして注目されている。

民泊の場合、目的意識を持ったゲストのライダーと、「支援の恩返しがしたい」「来てくれることがうれしい」という思いを持ったホストが出会うため、交流が深まりやすい。現に「ツール・ド・東北」後も関係が続くことが多い。また、民泊受け入れ先が自宅を提供する継続率は7割にも上る。沿岸地域では震災ボランティアを受け入れてきた経験があるため、自宅に泊めることに抵抗を示す人は少ないという。

ゴール地点で応援する地元の子どもの写真

旗を振りながら一生懸命応援する女の子。ゴール地点ではたくさんの地元の人が応援に駆け付けた

鈴木の元には、「娘夫婦を迎え入れたようだった。これからも見守っていきたい」「疲れているのに震災当時の話を聞いてくれた」「大会当日は車でコースを周り、応援できた」「全国に友達ができてうれしい」など、ホストからの感想が届く。

ヤフーは、「地方」が抱えていた課題を解決するためには、イノベーションを起こしていく必要があるとし、民泊という日本らしい「シェアリングビジネス」の芽を育てることで地方活性化にもつなげていきたい考えだ。

社会貢献推進室 復興支援室がある「ヤフー石巻復興ベース」で働いて3年目になる鈴木は、「がれきはなくなり、インフラも少しずつ戻ってきました。でも、所得格差や人口減少など目に見えにくい課題はたくさん残っています。民泊は、地域にお金を落とすだけではなく、人と人、人と地域の絆をより強いものにする。東北の人たちに『忘れていない』という気持ちを伝えたいし、もっと力になりたいです」と思いを語った。

鈴木哲也

ヤフー株式会社 社長室コーポレートコミュニケーション本部 社会貢献推進室

2007年ヤフー株式会社に入社。
2013年に復興支援室に移り、石巻で被災三県の物産をインターネットで販売する復興デパートメントの業務を担当。「ツール・ド・東北」は大会初年度から関わり、ツアー宿泊、東北の自治体や民間協力団体との調整業務を行う。今年は昨年に続き、民泊を担当。民泊を地域観光の目玉として成立できるよう企画から携わる。

鈴木哲也の顔写真

齋藤一郎

2014年5月、被災した土地の再活用と地域に雇用を生み出したい思いで、22年勤務した酪農協を退職し、「復興起業家」として活動中。現在は、不動産賃貸業のほか、遊休地にて高齢者・障がい者でも作業しやすいシイタケ栽培の事業化を準備している。

※肩書き、部署名は掲載時のものです。

齋藤一郎の顔写真

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