ダイバーシティ時代に都市・サービスを生みだすヒント

ダイバーシティ時代に都市・サービスを生みだすヒント

「誰もが強くしなやかに活躍できる社会創出」を目指すビジネスカンファレンス「MASHING UP」(マッシングアップ)が2019年11月7、8日に東京・渋谷で開催されました。
今回は、ヤフー・ノーマライゼーションPJ プロジェクトマネージャーの角谷(すみや)が登壇したトークセッション「ダイバーシティ時代の都市・サービスを生みだすためのヒント」の内容をご紹介します。
「ダイバーシティ時代」といわれている今、企業は都市やサービスを、そしてそれらを利用する私たちは意識を、どのように変化させていけばよいのでしょうか?

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左から、電通 プロデューサーの半澤 絵里奈さん、ヤフーの角谷 真一郎、Allies Connect 代表の東 由紀さん、東急 執行役員 渋谷開発事業部 フューチャー・デザイン・ラボの東浦 亮典さん

【都市】それぞれの人の立場に応じて「あなたらしく過ごせる」街に(東急・東浦亮典さん)

先週(2019年11月1日)、東京・渋谷に「渋谷スクランブルスクエア」がオープンしました。これは、ビルだけではなく地下も含めたインフラの開発です。
渋谷は「(道が)歩きにくい」「(案内が)わかりにくい」という課題があります。その課題を解決するため、「アーバンコア」というエレベーターやエスカレーターにより上下の移動がしやすくなる動線をビル開発時に設置したり、将来は「渋谷ヒカリエ」側に駅の位置が移動する銀座線渋谷駅の上部を人が歩けるようになったりなど、移動を楽にするための開発を進めています。また、渋谷の案内板も改善しました。たとえば、渋谷を初めて訪れた人でもわかりやすいように、渋谷エリアを4象限にA地区からD地区に分けて「A地区の何番出口」というように表示を変更しました。

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東京・渋谷駅内の案内

現在の渋谷のインフラは、前回(1964年)の東京オリンピック前に開発されたものが残っており、老朽化してきました。また、当時は「障がい者向けに特別なインフラを用意する」という考え方は一般的ではなかったため、今でいうユニバーサルデザインには対応できていません。
今回のようにインフラが新しくなり機能が充実するタイミングで、公共機関が持っているデータが利用しやすいフォーマットで開示されるようになれば、官民の情報連携もしやすくなって、街を利用する人の立場や状況に応じた便利な機能の提供が可能になると考えています。

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東京・渋谷スクランブルスクエアの外観。渋谷駅周辺では現在も改良工事が行われている

【サービス】障がいがある当事者として、Yahoo!天気・災害の改善にどう取り組んだか(ヤフー・角谷真一郎)

今回は、Yahoo!天気・災害のサービス改善に、視覚障がいがある社員が関わった事例をご紹介します。
「アクセシビリティ」とは、情報にアクセスしやすくすることです。ロービジョン(※)の同僚にヒアリングしたところ、「もっとヤフーのサービス改善に貢献・協力したい」という思いが強いことがわかりました。今回、その同僚約10名がYahoo!天気・災害のユーザーテストに参加し、改善したのは以下2つのコンテンツです。
※ロービジョン:
病気やけがなどによって目の機能が低下したことで「見えにくい」「(光が)まぶしい」「見える範囲が狭い」など日常生活での不自由がある状態のこと

1)天気図

改善前の天気図
改善前の画像
改善後の天気図
改善後の画像

一見、それほど変わっていないように見えるかもしれませんが、色の区別がしにくいなどの視覚障がいがある当事者にとっては劇的に変わっています。海と陸とのコントラストがついてわかりやすくなりましたし、海と等圧線のコントラストがついたことで、高気圧、低気圧の区別もわかりやすくなりました。また、文字を太く・大きくし見やすく改善しています。

2)地震画像

改善前の地震画像
改善前の画像
改善後の地震画像
改善後の画像

地震画像の改善は、画像上に表示するべき要素が多いので、表示する情報に優先順位をつけました。たとえば、震度1と2の地震では人命に関わる可能性はかなり低いです。一方、震度5弱以上の地震は命に関わる可能性が高くなるため、誰にとっても見やすくしようということになりました。より知っていただきたい情報を優先し、震度5弱以上の地震の表示は、フォントを太く、文字も大きくしました。

担当したデザイナーからは「ロービジョンの方にも必ず伝えるべき情報は何かを検討し、画像の中の情報に優先度をつけることができた」「見え方を確認するツールだけでは確信が持てないが、ロービジョンの当事者たちから直接フィードバックがもらえるので、改善の方針が決めやすくなった」などの声がありました。

すでにユーザーへ提供しているコンテンツを修正する提案は、ハードルが高いと感じました。ですが、「これからは少子高齢化がさらに進むので、文字や画像が見えにくくなる層が確実に増えていくはずです」ということも併せてサービス側に伝えたところ「確かにそうだね」と納得してもらうことができました。

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ヤフー・ノーマライゼーションPJ プロジェクトマネージャーの角谷 真一郎。障がい者が働きやすい環境整備を行うプロジェクトの活動を通じて、障がいのある従業員が実力を発揮できる職場づくりを推進

【意識】「無意識のバイアス」を誰もが持っていると知っておくことが大事(Allies Connect・東由紀さん)

都市やサービスなどの機能は変わりましたが、それを利用する私たちの意識はどう変わったのか、または変わっていないのか、考えてみましょう。たとえば、みなさんの職場でこのような場面を見かけることはありませんか?

  • ミーティングで使用する会議室を予約するのは若手社員
  • 会議で議事録を作成するのは若手の女性社員
  • 会議で意見がまとまらず長引いた際、その場を仕切るのは年配の男性社員

これらが起きるのは、会議に参加する社員の意識に「無意識のバイアス」が影響しているからです。無意識のバイアスは私たちが社会の中で阻害されないように、その場において適切な行動や発言をするために無意識に作動するので、自分では気づきにくいのです。さらに日本では「空気を読む」「おもんばかる」「常識的である」ということが美徳とされていますが、これには全て無意識のバイアスが関わっています。そのため、日本人にとって、無意識のバイアスを回避することは特に難しいとされています。

いろいろな考えや価値観を持つ人を集めて会議をしても、空気を読みながら自分の発言が適切なのかを図っている状態だったり、いつも決まった人が議事録をひたすらとっている状態だったりでは、会議に参加しているメンバー全員が自由な発想や発言をすることは難しいのではないでしょうか。

「常識とは18歳までに身につけた偏見のコレクションである」というアインシュタインの言葉があります。私たちが今もっている「常識」とは、これまで受けた教育や、他の人の行動を見て学んできたりしたものなので、自分とはまったく違う文化で育ち、違う環境で生きてきた人を自分の「常識」で判断することは実は偏見や無意識のバイアスとなる可能性があります。その人たちから見たら、自分の方がもしかしたら「非常識」なのかもしれません。
「普通はこうだよね」「当たり前だよね」「これってあり得ないよね」という枕詞で話す時は、自分が「常識」で判断し、自分と違う価値観をもつ人を否定している可能性があるので、注意が必要です。
とはいえ、無意識のバイアスは誰もが無意識に持っているものなので、完全になくすことは不可能なので、会議の場で自由に発言できるような仕組み作りが必要です。その一つに、「デザイン思考」の手法があります。

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新しいアイデアを生み出す「デザイン思考」の仕組み(東さん資料より)
出所:Allies Connect

いろいろな価値観のユーザーの状況や気持ちに共感し、そこで見つけた課題を解決するためにアイデアをたくさん出し、試作し、いろいろな視点を持つユーザーに試してもらい、改善していきます。このとき、アイデア出しやユーザーの意見を得る場に年配の人や専門家がいると、若手が声をあげにくくなったり、この分野について詳しくないから発言は控えるべきだと空気を読む人がいたりすると、発言がしにくい状況が発生します。そんな時は、全員が自分の意見を付箋に書いてホワイトボードに貼っていき、同じような意見をまとめていく手法を使います。
「デザイン思考」というと難しく聞こえるかもしれませんが、この手法は普通の会議でも取り入れやすく、立場に影響されずに全員の意見を取り入れることができるのでおすすめです。

東さんのお話にあった「立場が違う人が集まったときに意見を言いやすくなる工夫」について、ほかのお2人にもお聞きしました。

街の改善に取り組む東急・東浦さん
「肩書ではなく、一緒になって新しいアイデアを出していく機会を意識的につくっています。誰でも、上司に話すときは緊張すると思いますが、それをできるだけなくしたいので、私は課長たちが自由に使える『コアタイム』という時間を定期的に設定しています。その時間をどう使うかは本人次第で、報告、相談、誰か同伴させても、雑談で終わってもいい、としたことで、次第にみんなが身構えすぎずに接してくれるようになりました」

サービスの改善に取り組んでいるヤフー・角谷
「フラットにアイデアを交わすためにも、身構えない場づくりを常に意識しています。
今回の取り組みでは、一緒に改善に取り組むエンジニアや、デザイナーと障がいのある社員が顔を合わせて話を進めたことで、障がい者への構えを減らすことができたと思います」

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