「Sansan」「Chatwork」「ヤプリ」のCTOが考えるエンジニアの「コミュニケーション」

「Sansan」「Chatwork」「ヤプリ」のCTOが考えるエンジニアの「コミュニケーション」

2019年9月6日、ヤフー大阪オフィスのオープンコラボレーションイベント「Mix Leap」でCTO Night Vol.3を開催。「Sansan株式会社」「Chatwork株式会社」「株式会社ヤプリ」の各CTOを迎え「CTOが考える、エンジニアのコミュニケーション」をテーマにディスカッションを行いました。

  • コミュニケーションについて、CTOとしてこだわっていること
  • コミュニケーションの変化に技術者はどう対応して行くべきか
  • 技術選定の際に心がけていること、気になっている技術
  • CTOたちの10年、20年後は? 今後、世の中ではどのようなエンジニアが求められていくか

ひとことで「コミュニケーション」といっても、社内でのコミュニケーションもあれば、自社製品を利用しているお客様とのコミュニケーションなどさまざまです。ですが、今回はあえて「何についてのコミュニケーション」なのかは指定せずにCTOのみなさんにお聞きしました。

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コミュニケーションについて、CTOとしてこだわっていること

今までにないコミュニケーションの概念を形にする(Sansan:藤倉さん)

昔はスケジュールを手帳に書き込んで各々が管理していました。ですが、今ではカレンダーツールなどを使って他の人のスケジュールを簡単に見られるようになっています。これは、昔でいうと他人の手帳を無断で見るようなことで、以前だったら想像しにくかったことだと思います。
名刺の情報を共有するのも同じことです。他の人の名刺情報を見るということは、他人の机から名刺ファイルを見るような新しい体験ですが、今ではSansan(※1)やEight(※2)といった名刺管理サービスを使って普通に行われるようになりつつあります。

私たちは、ビジネスシーンにおける人々の出会いや、今まさにコミュニケーションが始まろうとする部分を大事にしています。名刺情報の共有をきっかけにして、「〇〇社にアプローチをしたい、知っている人いますか?」とか「〇〇さんを紹介してもらえますか?」などのやりとりが簡単にできるようになっています。
このような今までにない新しいコミュニケーションの概念を、テクノロジーを使って形にしていきたいと考えています。ただ、その時には「新しい体験だけれども違和感なく使えるもの」が求められると思っています。

※1:Sansan
法人向けの名刺管理サービス。
※2:Eight(エイト)
個人向け名刺アプリ。スマホで名刺を撮るだけでクラウドにデータを保存でき、いつでも全ての名刺情報にアクセスが可能。メッセージやフィードで情報交換もできる。

情報を民主化し、全員にオーナーシップを持たせる(Chatwork:山本さん)

私たちのミッションである「働くをもっと楽しく、創造的に」をブレークダウンしたものが以下の3つです。

1)全員がオーナーシップをもつこと。「WHY」を腹落ちさせる
エンジニアがコードを書く上で、なぜそれをやっているのかを理解し自分の意志をもってやっているかどうかでアウトプットが全然変わってきます。そのため「オーナーシップを持たない仕事はしないでほしい」と思っています。プロダクトマネージャーには、「エンジニアのモチベーションを引き出すことがバリューにつながる」と伝えています。

2)情報の民主化。情報格差でマネジメントしない
マネージャーがメンバーに指示をだすときになぜやるか? を腹落ちさせずに「いいからやってよ」と自分しか知らない情報をもとに、いわゆる情報格差で動かすことがあると思います。情報格差があると対等なコミュニケーションができないと思っているので、それを避けるため経営を透明化しています。
具体的には、社内の議事録やKPIなどの「ファクト」をすべて公開し、マネージャーと同じ情報を知った上で、この案件を受けた方がいいか全員が判断できるようにしています。

3)いつも心にユーモアを。創造性と心理的安全性を高める
大阪の会社ということもありますが、「ユーモアがあるチームは創造性が高まっていい発想が生まれやすい」という実験結果もあるので、仕事をする上でもユーモアを忘れないことを心がけています。

できるだけ相手に伝わりやすい言葉で話す(ヤプリ:佐野さん)

私たちが提供している「Yappli」(※3)を利用して作られたアプリには、企業が消費者と直接コミュニケーションを取るためのタッチポイントが多くあり、アプリの利用者は顧客の顧客(消費者)となるため、ネガティブなことが起こるとその企業のブランドを傷つけてしまいます。そのため、品質にはとことんこだわっていますし、Yappliを使ってよかったと思っていただけるよう、お客様が知らなかった新しい機能やコミュニケーション手法を取り入れることを意識しています。

社内に様々な専門性を持った人・バックグラウンドの人が増えてきたので、今まで以上に「相手に通じる言葉で話す」ようになりました。エンジニアはつい難しい言葉で話しがちなので、できるだけ相手に伝わりやすい言葉で話すようにしています。
また、何かトラブルが起きてしまったときこそ、雰囲気を明るくするように心がけています。できるだけみんなから話しかけてもらいやすいよう、普通の社員と並んで座っていますし、作業中につけていたヘッドホンも外しました。
※3:Yappli(ヤプリ):
iOSとAndroidのスマホアプリを簡単に開発・運用・分析できる、自社アプリ開発プラットフォーム。

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(Sansan株式会社 CTOの藤倉 成太さん)

コミュニケーションの変化に、技術者はどう対応して行くべきか

新しいアイデアをどう形にするかが腕の見せ所(藤倉さん)

ソフトウェア技術の進歩に伴って、コミュニケーションの形も進化し、物理的距離を超えることはもちろん、同期から非同期への変化や、新しい表現なども生まれています。
私が驚いたのは、ニコ動でした。動画へのコメント機能は、まるで時間を超えたようなコミュニケーションのように見えます。また、LINEのスタンプでのコミュニケーションも、そういうやり方があるのか! と思いました。これからも、あんな風に時空を超越しながら新しい表現が出てくるんだろうなと思うとワクワクします。
最初に「こういうものがあったらいいんじゃないか」というアイデアが生まれたときに、どうやって形にするかがエンジニアの腕の見せ所だと思っています。

未来のコミュニケーションは、自分で時間の使い方を決められる(山本さん)

1)重要・緊急な部分のみ、同期的コミュニケーションを
自分で時間の使い方を決められるようになるのが、未来のコミュニケーションのあり方だと思っています。
たとえば、集中してコードを書いているときに電話が鳴ったり、声をかけられたりするのは、自分で自由に時間を使えていない状態。集中したいときはしたいし、集中しなくてもいいときは話しかけられてもいい、というように、同期的コミュニケーションのタイミングを自分で選べる働き方は、生産性がよくエンジニアに有効だと思っています。

2)デジタルとアナログのいいとこどりをする
対面型のコミュニケーションを重視する人からは「チャットではなく対面でコミュニケーションをするべきだ」と言われることがあります。もちろん、対面でのコミュニケーションは大事ですし、情報量がとても多いのがメリットですが、時間と場所の拘束があるため非効率でもあります。
デジタルツールを使って効率的に情報共有することで、面と向かって感情を共有するアナログな時間をもっと最大化できると思います。

ちなみに、チャットでやらない方がいいと思うのは、朝会、キックオフ、腹落ちさせるための会議やブレスト、振り返り、1on1など。意識やマインド、方向性の共有にはチャットは向かないので、クリエイティブな検討や感情を共有したい会議は対面で行った方がよいと思っています。

エンジニアは、作ったものを通じてコミュニケーションができる(佐野さん)

これからも新しい端末、技術が出てきて、予想もしないコミュニケーション手段が生まれると思います。そのときに新しい技術を試し、良かった、悪かった、使える、使えない、などの知見を蓄えておくことで、どのような対応をエンジニアとしてできるか、体験として理解しておくことがとても大切です。それによって変化への素早い対応が可能になるのではないかと思いますし、一見関係なさそうな新技術の組み合わせが、思いがけない新しいプロダクトにつながるかもしれません。

また、たとえばエンジニアではない人が非効率な作業をコツコツやっていたら、それがもっと短時間で楽にできる仕組みをエンジニアは作れます。相手が何に困っているのか寄り添って作ったものを通じてコミュニケーションができるのは、エンジニアならではないでしょうか。

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(Chatwork株式会社 代表取締役CEO兼CTOの山本 正喜さん)

技術選定の際に心がけていること、気になっている技術

その技術がどんな課題を解決し、未来をどう捉えているのか想像する(藤倉さん)

それぞれの技術を理解する上で重要だと思っているのは、その技術の出自や志、進化の方向です。新しい技術というのは、過去の技術の課題を解決するために出てくることが多いです。その技術は過去の課題をどう捉えていて、どのように解決しようとしているのか、またその先の未来をどう捉えているのかを想像するようにしています。どういうものが正解かはわかりませんが、自分なりに同意できるかどうかは判断します。

気になっている個別の技術はありませんが、やはり基盤系の技術からは目が離せません。いわゆるIaaSやPaaSの急激な進化の裏側で使われている要素技術は大変に興味深いです。また、エンジニアはそれらを使って価値を生み出すことに多くの時間を使えるようになってきました。これは非常に素晴らしいことである反面、これまで技術力だけで勝負してきたエンジニアにとっては厳しい時代になるとも思っています。時代の変化に伴うエンジニアのあり方の違いという観点でも、とても気になっています。

技術のバランス、運用保守コストを考えて選定することが大事(山本さん)

歴史があって安定した導入・運用ができる、いわゆる「枯れた技術」や社内で実績がある技術と、新しいチャレンジとなる技術のバランス。開発したあとの運用保守のコストを忘れずに選定することが大事だと考えています。
また、マネージドサービスがあれば、なるべくそれを利用します。最近気になっている技術は、リレーショナルデータベースにおけるMasterの分散技術。KVS的(※)なアプローチではなく、RDB(Relational Database)を軸足とした技術からMasterをスケーラブルにするというアプローチに注目しています(Spanner、Aurora Multi-Master など)。
※KVS:Key-Value Store。KeyとValueを組み合わせる単純な構造からなるデータストアのこと。

技術先行になりすぎないことも心がける(佐野さん)

トップダウンでこの技術を使う! と決めることはなく「この技術を使ってみたい!」というメンバーの声をきっかけに技術調査を経て採用することが増えています。実際に試してみないとわからないことも多いですし、新しい技術でいろいろ試すのはやはり楽しいので、わりと軽い気持ちで「やってみよっか!」となることが多いです。
とはいえ、お客様に提供しているものが単発のサービスやアプリではなくプラットフォームなので、選んだ技術が開発終了してしまい代替もなく打つ手がない! とはならないよう、技術の筋の良さは意識しています。また、どんなに優れた技術だとしても解決したい課題や実現したいユーザー体験に合う合わないは必ずあるので、技術先行になりすぎないことも心がけています。

個人的に何かを作るときは、初期のYappliもそうでしたがユーザー目線で同じことが実現できるなら、可能な限りシンプルで、かつ予期しない未来に対応できるよう柔軟な技術や仕組みを選んで作り上げることが多いです。また、実際に「手で触れるモノ」を組み合わせた何かを作ってみたいとずっと思ってもいます。

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(株式会社ヤプリ CTOの佐野 将史さん)

CTOたちの10年、20年後は? 今後、世の中ではどのようなエンジニアが求められていくか

生み出す価値を最大化できるエンジニアが求められていく(藤倉さん)

正直なところ、自分の将来についてはわかりません。もともと、キャリアというものは自らつくっていくものではなく、結果として後から付いてくるようなものと捉えています。私はいつも仕事を全力で楽しむことにしています。楽しいことであれば没頭できるし、よい成果につながる確率が高いように思います。それが周囲の人々に評価されれば、さらに挑戦しがいのある仕事を任せてもらえる。そうやってきた結果として今の自分がいるという感覚です。ですから、10年後も20年後も仕事を楽しんでいるのだと思います。

エンジニアは価値を形にできる最高の仕事です。だからこそ、自分が作るものが提供する事業的価値を理解するべきですし、自分の時間の使い方や成果の出し方にも向き合わなければなりません。今後は、技術知識だけではなく、自らが生み出す価値を最大化できるエンジニアが求められていくと考えています。
キャリアの話に重ねれば、自分が生み出すべき価値を理解して、共感できれば、エンジニアとしての仕事に熱中できます。そうしてより大きな成果を出して、成長を続けていければ、きっと面白いキャリアになっていくのではないでしょうか。

技術の枠にとらわれないキャリア構築が必要になる(山本さん)

物理的なコンピュータの仕組みに近い「低レイヤーの技術」を理解し、高度な基盤をつくるエンジニアと、ある程度できあがった基盤の上でビジネスサイドと連携しながらアプリケーションをつくるエンジニアに二極化すると思います。
前者はより専門的になっていき、後者はより領域が広くなっていきキャリアとしてはハードルは低くなります。後者にあたるエンジニアの多くは、マーケティング、デザイン、プロダクトマネジメントなど、技術の枠にとらわれないキャリア構築が必要となってくると思います。

好きなことや得意なことを伸ばし続ければ、必ずキャリアにつながる(佐野さん)

新卒でヤフーに入社してから起業するまでの5年は、比較的自由な案件に携われていたものの最後まで一般社員。そして、起業してからの6年は日々発生する目の前の課題を解決し、会社の成長にあわせて増えていく役割を試行錯誤しながら全うしてきた結果が、今につながっているので、正直あまりキャリアを意識したことがありません。まだ社員が数名~数十名規模の頃は、CTOと名乗るのも少し恥ずかしかったですね。
社員が100名以上になりCTOとして扱われることが増えてからは、自分が今やるべきでやりたいと思っていることと、一般的な「CTO」としてまわりから求められることにギャップを感じる場面も増えました。新しいプロダクトやユーザー体験を考え、自分自身で実現しているときが一番楽しいので、10年後20年後と言わず、数年後にはもっと好きなことを好きなようにやっていたいですし、みなさんにも好きなことをやれる環境を目指してほしいです。

これは、社内でエンジニアの評価制度を考えるときによくする話なのですが、深い専門知識を持っているエンジニアはもちろんすごいし、幅広い知識を持っているエンジニアもすごい、デザインもできてしまうエンジニアだってすごいし、ビジネス視点を持っていたりコミュニケーション能力が高かったりするエンジニアもすごい。
「自分はこういうエンジニアだから」と自らを枠にはめるのではなく、好きなことや得意なことを伸ばし続ければ結果的に求められるエンジニアになり、必ずキャリアにつながるはずです。

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【CTOのプロフィール】

藤倉 成太(Sansan株式会社 執行役員/ CTO)
株式会社オージス総研でシリコンバレーに赴任し、現地ベンチャー企業との共同開発事業に携わる。帰国後は開発ツールなどの技術開発に従事する傍ら、金沢工業大学大学院工学研究科知的創造システム専攻を修了。2009年にSansan株式会社へ入社。
現在はCTOとして、全社の技術戦略を指揮する。

山本 正喜(Chatwork株式会社 代表取締役CEO 兼 CTO)
電気通信大学情報工学科卒業。
大学在学中に兄とともに、EC studio(現・Chatwork株式会社)を2000年に創業。
以来、CTOとして多数のサービス開発に携わり、Chatworkを開発する。
2011年3月にクラウド型ビジネスチャット「Chatwork」の提供開始。
2018年6月、代表取締役CEO兼CTOに就任。

佐野 将史(株式会社ヤプリ CTO)
ヤフー株式会社に新卒入社。Yahoo!ファイナンスのiOSアプリやスマートフォンサイトを開発。
同時にYappliを作り上げファストメディア株式会社(現・株式会社ヤプリ)を共同創業。
未踏ユース2007年度下期クリエーター。UXデザイナー/デベロッパー。


ヤフー大阪で「発信」「交流」「共創」をテーマに毎週定期開催されている、「関西圏のオープンコラボレーションを支援する」イベントの総称。


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