「あなたはあなた、私は私」 テクノロジーが企業のダイバーシティを推進する

「あなたはあなた、私は私」テクノロジーが企業のダイバーシティを推進する 

2018年11月29、30日に東京・渋谷で開催された「誰もが強くしなやかに活躍できる社会創出」を目指すビジネスカンファレンス「MASHING UP」(マッシングアップ)では、さまざまなトークセッションが行われました。 そのなかで、ヤフーのSR(Social Responsibility)推進統括本部の責任者、そして、LGBTをテーマとした「レインボープロジェクト」の責任者でもある西田が、フリーライターの佐久間裕美子さんと対談したセッション「『ダイバーシティ』を一時的なブームに終わらせないために」の内容をご紹介します。

海外と日本における、ダイバーシティの違い

近年、その重要性が叫ばれている「ダイバーシティ」。
今回、対談相手として登壇してくださった佐久間さんは、20年以上ニューヨークでライターとして活動し、多文化社会のアメリカでさまざまな生き方を選択する人々を取材されたそうです。そんな佐久間さんに、日本のダイバーシティをめぐる状況はどのように映っているのでしょうか。

佐久間さん:
私はニューヨークのブルックリンに住んでいます。約50の地区にユダヤ系、ラテン系、ロシア系、イタリア系、ポーランド系、中東系、カリブやアフリカンアメリカ系、アイルランド系、ギリシャ系、中国系などさまざまな民族が同居しており、多様性の象徴のような街です。

「ダイバーシティ」という言葉が世界で使われるようになってかなりの時間がたちますが、日本では性的アイデンティティに話が集中しがちのように感じます。
本来、ダイバーシティとは、一人ひとりの違いを許容していこう、ということ。自分がどこかにいるときに疎外感があったり、趣味趣向の違いを感じたりするように、自分が周りの人とちょっと違うと感じた経験は、誰にでもあるのではないでしょうか? そのようなことを思い出してもらうと、ダイバーシティを自分ごととしてとらえやすくなるのではないかと思います。

ヤフーのダイバーシティについて

佐久間さん:
ヤフーは、Yahoo! JAPAN IDの性別を「男性、女性、その他、回答しない」にしたそうですが、その経緯を教えてください。

西田:
ダイバーシティ推進の取り組みとして「多様な性のあり方」を尊重していくため、Yahoo! JAPAN IDの登録情報で性別の選択肢を増やすことにしました。
たとえば米国のFacebookでは何十もの性別の選択肢がありますし、性別についてフリーコメントを記入できる会社もあります。本来であれば性別項目自体を削除することが理想なのかもしれません。ですが、いきなり仕組みを大きく変えるのではなく、まず一歩踏み出すことが大事だと考え、いわゆる「男女」にあてはまらない人や、性別の質問に答えたくない人のニーズを満たす方法として「男性」「女性」「その他」「回答しない」の4項目に変更しました。

「その他」という項目については、その言葉で表すことへの迷いがあったので、社内外の当事者に「性別の選択肢をこんな風に変えようと思うのですがどう思いますか?」と聞きました。「これを(ヤフーが)やってくれることに意味があるので、まずやってください」と背中を押していただけたことは心強かったですね。
また、「回答しない」という選択肢は、トランスジェンダーの方以外の「自分の性別を言いたくない」「男性・女性という枠組みに分けられたくない」という方にも使っていただけると思います。

今回の対応が完璧だとは思っていませんが、ヤフーはダイバーシティの推進に取り組んでいる会社であるとわかっていただくことにはつながったのではないかと思っています。

佐久間さん:
ちなみに、マーケティングの観点から、企業がユーザーの趣味趣向や性別などを知ることは重要だと思うのですが、企業の用意した項目に当てはまるものがない、と感じる人もいるのではないでしょうか?

西田:
たしかに、そういう人もいるかもしれませんね。実は、テクノロジーが発達したことで、ユーザーがどういうものを検索したり、記事や広告を見たりしているか、どういう趣味趣向なのか、性別は何なのかなどは、現在ではほぼわかるようになっています。
ですが、テクノロジーが「このユーザーはおそらく男性である」と推測したデータを答え合わせをするために、本人に申告していただいた「私は男性です」というデータがまだ必要なのが現状です。
将来的には、ユーザーからの申告がなくても、テクノロジーが推測したデータでマーケティングが可能になると思います。

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(SR推進統括本部、「レインボープロジェクト」責任者の西田修一)

CSRもダイバーシティも「対立→保護→共創」

佐久間さん:
西田さんは現在、SR推進統括本部の責任者ですが、その立場になって感じたことはありますか?

西田:
私はこの分野の専門ではなかったため、2017年に就任してからCSR(企業の社会的責任)やダイバーシティについて勉強しました。
その際に感じたのは、CSRの変遷とダイバーシティの変遷は似ているということです。
CSRでは、「ビジネスセクター」と「ソーシャルセクター」の対立フェーズがありました。利益を上げようとする企業が環境を汚し、ソーシャルセクターと対立していたのです。その後、1990年代は環境を中心としたCSR活動が進み、CSRの基礎ができました。これが保護フェーズです。
さらに2006年に米国のマイケル・ポーター教授が「企業は本業で社会貢献をしながら、利益も出せる」という「戦略的CSR」の考えを表明し、CSRがCSV(共有価値の創造)へと昇華しました。これにより、企業が社会貢献を本業に取り入れながら利益を得るという考え方が生まれ、対立から保護のフェーズを経て、「共創」のフェーズへと進んだといえます。
たとえば「プリウス」に代表されるエコカーは、消費エネルギーが少なくすみ、二酸化炭素排出量も減る上に燃費がいいので消費者に売れ、企業にとっても新たな市場ができるなどプラスになるわけです。

ダイバーシティの話もこれに似た流れだと思っています。マイノリティーは社会的に不当に扱われていました。ですが、たとえはアメリカでは1964年の「公⺠権法」で、黒人などそれまで差別されてきたマイノリティを保護しなさいと決められました。対立から保護のフェーズに変わったわけです。
また、ノーマライゼーション(障がいがある者ともたない者とが平等に生活する社会を実現させる考え方)として、障害者雇用促進法において、障がい者を全従業員数の2.2%雇用するよう定められました。これも保護です。
これからは、「ダイバーシティに対応することが企業にとってプラスになる」という共創のフェーズにしていくことが求められていると思っています。

佐久間さん:
企業においての推進を考えると、「これが正しい」というよりも「利益が上がる」「コストがセーブできる」といったほうが物事が前に進みやすいという傾向はありますよね。たとえば女性の社会進出は「女性が消費者の半分いる」と気がついた企業がそこへ乗り出したことで進んだといえます。
ダイバーシティについては、まだ少数派の人たちを取り込むことが企業のプラスになるとわかってもらいにくく、社会に対していいことをやっているという印象に終わりがちだと思うのですが、いかがでしょうか?

西田:
たしかに、まだ保護フェーズであるダイバーシティに対応するにはコストがかかります。最終的には対応することによる経済的なプラスをきちんと示せるようになったときに、企業が積極的に取り組むようになると思っています。

たとえば、人の体のサイズはさまざまですが、既製品ではSMLのようにサイズが決められており、私たちはそれに合わせて選ばなければなりません。これは、そのサイズにうまくはまらない人を除外しているに等しいとも考えられます。
企業からすると、それぞれの体に合わせた服を作るのはコストがかかってしまいます。そのような課題をテクノロジーで打破し、「あなたはあなたに合ったものを買えます」という状況を、低価格で実現できるようになった企業が優位になれると思います。
このように、ダイバーシティについて取り組むことが経済的なプラスにつながると実感できることが増えていけば、ダイバーシティが保護から共創のフェーズに移っていくはずです。

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(左から、フリーライターの佐久間裕美子さん、西田)

「あなたはあなた、私は私」が前提の社会にむけて

佐久間さん:
アメリカでは、多様性が組織を強くするなど消費者の多様性に対応する上で、組織に多様な人がいたほうが多様な社会に向けて商品をつくる上でプラスになるという考え方があるのですが、組織運営という面ではいかがでしょうか?

西田:
ヤフーでもその理解は少しずつ進んできています。また、逆に女性のためのメディアを年配の男性社員が作っているなどということもあります。年齢や性別によらずいろいろな人が関わっていける組織を作ることでプロダクトが変わり、それを受け入れてくれるユーザーも増え、経済的にプラスになるのではないかと思っています。

また、企業が積極的に「女性を登用しよう」と考えたときには、いわゆる生物学的な男女と、社会における男女のそれぞれを理解しておく必要があります。生物学的な女性の数を増やしたら数の上では「女性」が増えたことになるかもしれません。ですが、社会における「男性的な価値観」を持つ女性だった場合、それは本当の意味での多様性だといえるでしょうか? 
ダイバーシティの観点から「女性をもっと登用しよう」いうのであれば、ジェンダーにおける女性の価値、魅力を経営的にも取り入れるべきだという考えがあった上で、現場で活躍する女性たちのタイプも多様になっていかなければなりません。

佐久間さん:
これを具体化するにはなにが必要ですか?

西田:
まず、全社のコンセンサンスをとる必要があります。ですが、コンセンサスをとりにいこうとすると、経営側はスピード、生産性で判断することが多いので、動きにストップがかかったり、緩慢になったりすることもあります。
そのため、ダイバーシティを推進しようとする人たちがまず形を作り「こういうプラス効果がある」という結果をもって、コンセンサンスをとりにいくことが重要です。会社としてできるのは、そのようなチャレンジをしやすくすることだと考えています。

最終的には、性別も趣味趣向もユーザーに問う必要がなく、「あなたが誰でどんな人」なのかを機械が理解しているようになる世の中になることが理想です。そうなれば、誰もが決められたセグメントに無理に合わせる必要がなくなり、「あなたはあなた、私は私」が前提の社会が作れるのではないでしょうか。

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【佐久間裕美子さんプロフィール】
sakumag.com主宰。1996年に渡米し、1998年からニューヨーク在住。出版社、通信社などを経て2003年に独立。慶應大学卒業。イェール大学修士号を取得。
著書に「ピンヒールははかない」(幻冬舎)、「ヒップな生活革命」(朝日出版社)。近著はトランプ時代を生きることをテーマにした「My Little New York Times」(numabooks)。

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