「ウェブはすべての人が使えるべきもの」企業のアクセシビリティ対応とは

「ウェブはすべての人が使えるべきもの」企業のアクセシビリティ対応とは

今回は、ウェブアクセシビリティのコンサルティング会社、株式会社インフォアクシアの代表取締役、植木真さんに、アクセシビリティ対応における日本の課題や海外とのギャップ、対応を進める上で大切なこと、企業のコーポレートサイトがアクセシビリティに取り組む意義などについてお聞きしました。

  • 法律のプレッシャーの有無でアクセシビリティの進み方が大きく変わる
  • 「アクセシブル」ではなく「インクルーシブ」?
  • 画面読み上げソフト対応だけがアクセシビリティではない
  • AIがアクセシビリティ対応をさらに向上させていく

法律のプレッシャーの有無でアクセシビリティの進み方が大きく変わる

-アクセシビリティ対応について、日本はどのくらいの位置にいるのでしょうか?

「日本は、遅れているようで進んでいる。進んでいるようで遅れている」と思っています。
決定的に違うことは、たとえば先進国の多くはアクセシビリティ対応について法的なプレッシャーがあるという点です。海外のアクセシビリティのカンファレンスなどでは、取り組むべき理由の1つとして「リーガルリスク」があがってきますが、日本ではリーガルリスクはありません。

アメリカを例に出すと、企業サイトのアクセシビリティに関する提訴件数が急上昇しており、2015年に約50件だったのが、2016年には約250件、2017年には500件以上になっています。

企業サイトがアクセシビリティに取り組むようになるきっかけとして多いのは、障がい者または障がい者団体から「サイトやアプリに問題があるから改善してほしい」と法律を根拠にして要望を出されることです。それによって、これまで対応を考えていなかった企業も積極的に取り組むようになったというケースが少なくありません。
海外の先進国の多くでは、少なくとも公的機関ではウェブコンテンツのアクセシビリティを確保することが法律で義務付けられていますが、日本では公的機関であってもまだ総務省が推奨しているにとどまっているのが現状です。

公的機関のウェブコンテンツにアクセシビリティ確保を法律で義務付けている国では、「ウェブを使えることは人権の一つ」であり、全ての人に保障すべきだという考え方があります。ウェブは社会インフラのように生活の中でなくてはならない存在になっており、障がい者が使えないウェブコンテンツを提供することは差別に当たる、という考え方です。
また、海外の大手企業、特にIT系の企業にはアクセシビリティのチームがあったり、専任の担当者がいたりする体制が当たり前になってきています。

反対に、ウェブサイト上でアクセシビリティ方針を公開している会社は、実は割合としては日本が一番多いといわれています。法的なプレッシャーのある海外でも、ウェブサイトでアクセシビリティ方針を公開している会社はまだ意外と少ない気がします。

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(株式会社インフォアクシア代表取締役の植木真さん。ウェブ制作会社でのディレクター、一般企業のウェブマスター、ウェブユーザビリティやアクセシビリティのコンサルタントなどのキャリアを積み重ねて、2004年10月に独立。主に大手企業サイトやウェブ制作会社の日本工業規格「JIS X 831-3:2016」やW3C勧告「WCAG 2.0」への対応をサポートしている)

「アクセシブル」ではなく「インクルーシブ」?

-アクセシビリティを進めていく上で感じていることを教えてください

ここ1、2年、欧米でウェブアクセシビリティに取り組んでいる人たちの間では、「アクセシブル」ではなく「インクルーシブ」というようになってきました。
インクルーシブデザインは、もともとはイギリス発祥のデザイン手法です。ですが、近年では「特定のユーザーを排除しない、みんなが使えるようにする」ことを強調するために、あえて「アクセシブル」ではなく「インクルーシブ」という別の単語を使っているようです。

欧米諸国では、法律で義務づけられてきたことによって、アクセシビリティ=障がい者対応、というイメージが定着しつつあります。あえて「インクルーシブ」という単語を使うのは、「アクセシビリティ」と聞くと「障がい者対応ね」と、後回しにされたり、チェックリストを全部「OK」にするための作業になってしまったり、ガイドラインの基準をクリアすることがゴールになっていたりする現状に対する問題提起でもあると思います。

アクセシビリティを確保することによって、障がい者が使えるようになることはもちろん、多くのユーザーにとってもより使いやすくなります。
たとえば、見えづらい、聞こえづらい、というのは、視覚や聴覚に障がいがあるからというケースもありますが、年齢を重ねたことによる衰えが原因で、誰でも少しずつ見えづらく、聞こえづらくなりますよね。日本には、老眼を自覚している人が推計で7千万人いるといわれ、平均すると45歳前後で老眼を自覚し始めるのだそうです。

実際、私自身も老眼による見えづらさを自覚しはじめています。15年くらい前に「アクセシビリティは将来の自分のためでもある」といっていたこともありましたが、まだ実感は伴っていませんでした。今はもう、将来ではなく今の自分にとって必要になってきていると感じます。

人間は情報の8割を視覚から得ているといわれていますが、スマホが普及したことで、屋内・屋外といった場所や、光の状況によって見えにくいと感じることも増えてきました。たとえば、読みやすさ、見えやすさのほか文字と背景の色やコントラストなどにも気を配ることが、これからはさらに重要になってくるのではないでしょうか。

画面読み上げソフト対応だけがアクセシビリティではない

-アクセシビリティ対応をする上で、特に大事なことは何ですか?

ウェブアクセシビリティはもともと、障がいがある人がウェブを使えるようにする目的からはじまったものです。
視覚障がい、聴覚障がい、上肢が不自由な人、認知、学習、言語などの障がいなど、いろいろな障がいがあります。その全ての人たちがウェブを使えるようにしていくには、まず、その人たちがどういう使い方をしているのか、どうして使いづらいのかを知ることが第一歩だと思います。
たとえば、全盲の視覚障がい者が使用している画面読み上げソフト(スクリーンリーダー)に対応することだけがアクセシビリティではないですし、いろいろな使い方ができるのがウェブだということを知ってほしいです。

私がいつも使っているものに「アクセシビリティ確保の基本の『キ』10項目」があります。これらは、どれもウェブコンテンツ制作の基本といってもいい項目です。なかには、みなさんがすでに実践していることもあると思います。
実はこの10項目は、いろいろなウェブページを診断すると、問題点としてよく見つかるポイントでもあります。

アクセシビリティ確保の基本の「キ」10項目


  1. ページの内容がわかるページタイトルを記述する
  2. 見出しやリストなどの文書構造をマークアップする
  3. リンクテキストは、リンク先が分かる文言にする
  4. 情報を伝えている画像に代替テキストを提供する
  5. 文字色と背景色のコントラストを確保する
  6. キーボードだけでも操作できるようにする
  7. 文字サイズや画面表示を変更できるようにする
  8. データテーブルの構造をマークアップする
  9. フォーム・コントロールのラベルをマークアップする
  10. エラーメッセージではエラー箇所と修正方法を明示する

たとえば、色のコントラストは、もともとは視覚障がいがあるために「見えづらい」ユーザーを想定したガイドラインでした。ただ、「見えづらい」というところに着目すると、いろいろな人にとって意味があることがわかります。
色のコントラストが十分であれば、利用している場所の光の加減に関係なく、私のように老眼で見えづらくなっている人にも読みやすくなります。最近は、小学生も視力が落ちてきていると聞きますし、若い世代にも「スマホ老眼」という現象があるくらいで、「見えづらい」ユーザーは増えてきています。

それから、上の10項目にはありませんが、「聞こえづらい」ユーザーのニーズに応える事例として、動画のキャプション(字幕)があります。ガイドラインでは、聴覚障がいがあるために「音声を聞くことができない」ユーザーが動画を楽しめるように、発話内容や音の説明を字幕で表示することを求めています。動画に字幕が付いていれば、オフィスや図書館、通勤電車などで周りに人がいて音声が出せない状況、また、居酒屋やスポーツバーなど周りが騒がしい場所でも、動画を楽しめます。字幕を付けたことによって、動画の閲覧者数が増えた、最後まで閲覧してもらえる率が高まった、というデータもあります。

アクセシビリティは、ユーザーエクスペリエンス(UX)を醸成する要素の一つですが、そういう意味ではより多くの利用者に、より多くの場面で、より良い体験を提供することにもつながると言えます。

-ウェブコンテンツを使う側のユーザーにできることは何かありますか?

やはり、声を上げることでしょうか。 海外諸国では、法律で保障されていることもあって、障がい当事者や障がい者団体などからサイト運営者やサービス提供者に改善要望が届いたことをきっかけに改善されることが多いようです。
ユーザーが「使えなくて困っている」「使いにくい」と声をあげないかぎりは、そのサービスを提供している企業や団体には届きません。自社のサイトやサービスが使えなくて困っている人がいる、ということすら気づいていない可能性もあります。
日本でも、IT企業やオンラインバンキング、動画配信サービスなどが、ユーザーが声をあげたことでサービスを改善したという実例があります。

提供されているサービスをより良い方向に向けるためにも、私たち利用者が声をあげることはとても大切だと思います。もちろん、悪いときだけでなく、良いときにもユーザーの声が届くといいですね。

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(植木真さん)

AIがアクセシビリティ対応をさらに向上させていく

-スマートスピーカーなど、新しいデバイスが出てきましたが、アクセシビリティ対応で気をつけることは何ですか?

コンテンツをマシンリーダブルにすることがアクセシビリティ確保の基本ですが、その重要さがさらに増すのではないでしょうか。
HTMLのソースコードがきちんと書かれていて機械がちゃんと読み取れさえすれば、そのコンテンツはいろいろな形に変換してもらえるようになるんです。たとえば、ブラウザー上では見出しに見えていても、ソースコードに見出しのタグがついていなかったら、スクリーンリーダーやロボットにはどれが見出しかわかりません。
ですが、きちんとマークアップされていれば、スクリーンリーダーは利用者にそこが見出しだと教えられますし、見出しだけを拾い読みする機能を使えるようにもなります。また、マシンリーダブルであれば、さまざまなユーザーエージェントにコンテンツを提供できるようになります。

-アクセシビリティ対応における新しい技術はありますか?

ウェブアクセシビリティにおいてもAIの技術が活用され始めています。
最近は画像解析の技術が進んできて、たとえば、あるSNSではユーザーが投稿した画像を説明する代替テキストを自動的に付与しています。もしかすると、そう遠くない将来には、ブラウザーやスクリーンリーダーが画像解析をしてくれるようになって、制作者が代替テキストを提供しなくてもよくなるかもしれません。

また、音声認識技術を使って、動画の字幕を自動的に生成する機能も精度が着実に向上してきています。その字幕を多言語に自動翻訳する技術も、年々レベルアップしています。ウェアラブルデバイスが普及していくと音声操作も一般的になっていくでしょうし、こういった技術もどんどん進化していくのではないかと思います。

セミナーや講演などでよく使われる、「リアルタイム要約筆記」というものがあります。これまでは登壇者の発話内容を4人1組くらいで、リアルタイムで文字起こししてサブスクリーンに表示していたのですが、これも半自動化されてきました。
音声認識技術を使用して字幕を自動生成するのですが、誤変換があったときに修正する人がいればよいので、半分の人数で対応可能になります。このように、今までは手作業でしかできなかったものが自動化されつつあり、AIがアクセシビリティ対応をさらに向上させていく可能性は大いにあると思います。

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(「アクセシビリティの祭典2018」で講演する植木さん(左)。すべてのトークセッションに音声認識技術によるリアルタイム字幕と手話通訳が付いていました)

-コーポレートサイトでアクセシビリティ対応をする会社が多いのはなぜでしょうか?

たとえばヤフーさんですと、多くの人がまず思い浮かべるのは検索やニュース、天気、路線検索などだと思います。ヤフーさんに限らず、サービス系のコンテンツはいろいろな要素で構成され、バックエンドのシステムやプログラムによる制約があることも多いのではないでしょうか。
そのため、アクセシビリティを改善しようとしても、ちょっとした修正でも思った以上に影響範囲が大きくて難しい、ということが少なくありません。

一方で、企業情報系のコンテンツはシンプルな構成で、一度公開してしまえばあまり変更されないことが多いため、アクセシビリティ対応のスタートとしてはやりやすいんです。大手企業での事例をみても、ほとんどが企業情報などの静的なコンテンツから取り組んでいる事例が多いようです。

コーポレートサイトから対応し、成功体験を少しずつ蓄積しながらレベルを上げていく。日本の場合は、アクセシビリティ対応への法的なプレッシャーがないので、「ここは対応できそう」というところからやっていき、少しずつ対応していくという無理のない進め方がよいと思います。 前よりも少しでも改善されていれば、それだけより多くのユーザーが、より多くの利用環境で、より快適に使えるようになっていることになります。

数値による効果測定は難しいですが、アクセシビリティを改善すれば、企業サイトならより多くのユーザーが利用できるようになることは明らかです。
一気に進めることは難しくても「できることから少しずつでもよくしていこう」と取り組んでいく方が、無理なく続けていけるのではないかと思います。


【ヤフーのウェブアクセシビリティ試験結果】

ヤフーは、一人でも多くのお客さまに一つでも多くの場面で当社のウェブコンテンツをご利用いただくため、アクセシビリティの確保に取り組んでいます。

その一環として、当社の企業情報等を提供しているコーポレートサイトから「JIS X 8341-3:2016」への対応に着手、その試験結果を毎年公開しています。

2018年1月~4月に、コーポレートサイトの主要な以下の26ページを対象にした試験を実施。 今回対象としたページのうち、11ページが「レベル A 準拠」、15ページがこの時点では「レベル A 一部準拠」という結果になりました。

<対象範囲のドメイン>

https://about.yahoo.co.jp/ (企業情報、採用情報、CSR、コーポレートブログ)
https://tourdetohoku.yahoo.co.jp/ (ツール・ド・東北)
https://kikoeru.yahoo.co.jp/ (聞こえる選挙)

<「JIS X 8341-3:2016」の「附属書 JB(参考)試験方法」に基づく試験結果>(2018年1月~4月実施)

https://about.yahoo.co.jp/info/accessibility/201804.html
※)JIS X 8341-3:2016 レベル A 準拠
「準拠」という表記は、情報通信アクセス協議会・ウェブアクセシビリティ基盤委員会「ウェブコンテンツのJIS X 8341-3:2016 対応度表記ガイドライン - 2016年3月版」で定められています
ウェブコンテンツのJIS X 8341-3:2016 対応度表記ガイドライン - 2016年3月版

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