東京電力の増田尚宏さんに聞く「400人を動かしたリーダーシップ」とは

東京電力の増田尚宏さんに聞く「400人を動かしたリーダーシップ」とは

2011年3月11日に発生した東日本大震災。東京電力福島第二原子力発電所では事故直後、約400人の社員がそのまま会社に残り、被害を食い止めるための作業を行ったそうです。

「社員はみんな、被災者でもありました。自分の家族のことが気になっていたはずなので『会社に残ってほしい』というのはとても苦しいお願いでした。でも、誰かが帰り始めてしまうと人がいなくなり、危機に対応できなくなるかもしれないと考え、全員に残ってほしいとお願いしました」

そう話すのは、当時、第二福島原子力発電所の所長(現:東京電力ホールディングス株式会社 副社長)の増田尚宏さん。

危機的な状況が続くなか、増田さんはどのようにリーダーシップを発揮したのでしょうか。

  • 緊急事態を乗り切るために行ったこと
  • 誰も経験したことのない仕事の教科書をつくる
  • リーダーシップについて考えていること

緊急事態を乗り切るために行ったこと

1) すべてを自分の責任で行うと宣言

まず、みんなを絶対に危険な目にはあわせないと約束しました。
本部長席から極力離れず、発電班長、復旧班長の顔の見える場所に座りました。社員が私を探さなければいけなかったり、私が動揺している様子を見せたりすることをとにかく避けました。

2)あえて、すべての班の状況がわかるのは自分だけという体制に

東京本社とのテレビ会議を通しての対応も、すべて私を通して意思の疎通をはかってもらい、私が知らない外部からの指示事項が一切ないようにした上で、みんなに無駄な動きをさせないように具体的に指示しました。
毎朝、必ず全員で会議を行い、状況を伝えたり、各グループからの報告や不安なことを聞いたりしました。

3)全員に役割を持たせた

たとえば「毎日みんなにペットボトルの水を渡す」などのささいなことでもよく、自分に役割があって、チームで一体となって立ち向かっていると感じてもらうことを意識しました。

4)前進を実感してもらう

どんな小さなことであっても状況が前に進んでいること、努力が実っていることを伝えて、みんなに実感してもらうことを心がけました。

ヤフー社員を前に講演する東京電力の増田さん

誰も経験したことのない仕事の教科書をつくる

非常時と常時は違う、非常時にはいくら備えておいても役に立たないことがあると実感しました。 この経験で得たことを世代がかわってもできるよう、羅針盤となる戦略書や訓練のマニュアルをまとめた、仕事の教科書をつくりました。

訓練には、事前に知らせずに異常を起こす「ブラインド訓練」と、シナリオを書いて役割分担を明確にしておいて行う訓練の2種類があります。
多くの人は、シナリオのない訓練をやる方がいい、と思うかもしれませんが、あらかじめ役割分担を決めておくことはとても大切です。ただ、訓練していたことしかできないので、何一つ通常通りにはならない前提で、とことん準備しておくことが必要です。

ヤフー社員を前に講演する東京電力の増田さんの後姿

リーダーシップについて考えていること

リーダーの役割は、
・チームやメンバーを鼓舞する
・全員に役割を与える
・状況をしっかり把握する
・「すべての責任はリーダーにある」と宣言する

だと思っています。

すべての決断は目標達成のためであり、当時の対応においては、たとえ危険なことでも、みんなに納得してもらうことが大切でした。限られた時間とマンパワーで効率的に動くためにも、目標を明確かつ具体的に班長に伝えることを意識していましたね。

指示をあおがれたら即座に答え、もし間違っていたらすぐに「ごめん」と訂正しました。また、大きな意思決定や方針変更は班長と合意の上で行いましたが、任せるところは確実に任せました。

反対に、指示されていないことをした社員のことは厳しく叱りました。有事のときには、メンバーを迷わせないためにも、そのようなヒエラルキー的なリーダーシップが有効だと思います。

リーダーは、たとえば井戸を掘ったことがなくても「井戸がどこにあるか」「どのツールを使って掘ればいいか」「誰がそのツールを持っていて、担当するのにふさわしいか」を知っていなければいけません。私は当時、危険物処理、クレーン、大型二種を扱える社員のメモを常に持ち歩いていました。

絶対にパンクしないタイヤの車を運転することが大事なのではなく、パンクしたタイヤを取り替えられるスキルを持つこと、そのスキルを持っている人を把握していることも、リーダーにとって大事なことだと思っています。

笑顔で語る東京電力の増田さん

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今回の講演は、Yahoo!アカデミアのオープンプログラムとして実施しました。