「ほぼ日」CFO篠田真貴子さんの仕事術「考えること」

「ほぼ日」CFOの篠田真貴子さん

「ほぼ日刊イトイ新聞」のサイト運営やネット販売を行う、株式会社 ほぼ日取締役CFO(最高財務責任者)の篠田真貴子さん。

これまでの経歴は、ジョンズ・ホプキンス大学修士、ペンシルバニア大学ウォートン校MBA、マッキンゼー・アンド・カンパニーのコンサルタント、ノバルティスファーマのマネージャー、ネスレ日本の幹部候補など。華麗な経歴に見えますが、篠田さんが働きはじめたころはまだ、いわゆる総合職に就く女性はそれほど多くありませんでした。
そのような背景もあり、常に「自分はなぜ働くのか」「どうやって仕事をしたいのか」を考え続けていたとか。また、今年(2017年3月)に「ほぼ日」が上場する際にも、上場に関してとにかく考えぬいたそうです。

篠田さんにとって「考える」こととは、そして「何のために考えているのか」などを伺いました。

「ほぼ日」CFOの篠田さん

私が働きはじめたころは、男女雇用機会均等法ができてからまだ5年目ということもあり、総合職で働く女性は珍しかったのです。
友人のほとんどがアシスタント職に就くなかで総合職を希望するということは、かなり意識しないと選べないような時代でした。

学生時代につきあっていた人からも「なぜ、わざわざ男と同じ仕事をしたいの? 男は仕事をしたくなくてもいずれ家族を養わなければならないから、嫌でも仕事をするのに」と言われたこともありました。そんな環境だったからか、働きはじめる前から「自分はどうやって働きたいのか」ということに意識的に向き合い、考えていましたね。

「ほぼ日」のCFOとして、考えていること

私は、「ほぼ日」に入社してから2年くらいは、糸井重里の言っている内容がわからなかったんです…。 たとえば、2時間打ち合わせをして「これは霧島高原に別荘地を開発する話なんだな」と思って聞いていたら、あとで同僚から「あれは全部たとえだよ」と言われたこともありました(笑)

まず「何によってこの会社は売り上げを上げているのか」を考えビジネスモデルを解明したい、そうすれば「ほぼ日にとって大事なこと」がわかると思いました。その大事なことへの投資は絶対に必要ですから、その判断ができるようにならなければと思ったのです。

「ほぼ日」は、自然発生的にできたビジネスということもあり、社員が全員うっすらと「(売り上げを上げているのは)糸井さんがいるからだよね」と思っていた部分があるのですが、それだけではないだろうと。
考え続けた結果「(ほぼ日は)おそらくこれでうまくいっているのではないか」という図を描くことができました。その図をもとに「ほぼ日がうまくいっている理由」をきちんと世の中に説明できたら、事業体としての「ほぼ日」に興味をもってもらえるかもしれないと思いました。

ほぼ日刊イトイ新聞

そんなときにポーター賞(※)の存在を知って応募。書類を書くことで、うまくいっているロジックについて整理してまとめることができました。結果、2012年にポーター賞をいただいて、糸井が初めて経営者としてインタビューされたんですが、この時に「ほぼ日は事業である」と知られるようになったと思っています。
(※)ポーター賞:独自性のある戦略によって、業界において高い収益性を達成・維持している企業に送られる賞。

ただ、ポーター賞をいただいてからも、上場することへの疑問はありました。
私が「絶対に上場するべき」というロジックがつくれるならやるべきだし、逆にそこまで思い切れなかったらやれないと思ったので、とにかく必死に考えました。上場の責任者は私なので、私が自分の考えたロジックで、社員を巻き込む必要があります。糸井重里がたとえ上場しないと言っても「絶対やるべきです!」と言えるくらいでなければ、上場を進められないと思っていました。

「ほぼ日」は始まってまだ19年の事業です。「糸井重里が作った」ということが先にある会社ですが、たとえ糸井が引退しても、この会社がより栄え、会社としての信頼を獲得し続ける土台に乗せ替えないといけないと考えたことで、上場をすべきだと決意できました。このときは、どういう人に株主になってほしいかまで具体的に考えたんですよ。

糸井は「自分が死んだあとも、お客さまに楽しんでいただける事業を残したい」と言っているので、その土台づくりをしていきたい。いつか糸井重里がいなくなったあとの「ほぼ日」をどうするかを常に考えています。

「ほぼ日」CFOの篠田さん

きっかけはカタツムリ? なぜ「考える」のか

「考える」のは、まず自分で理解するため。そしてその理解を周りと共有したいからです。個々の現象の1つ1つに対して直感的に「わぁ、うれしい」「わぁ、楽しい」と伝えるだけでは、それが自分にとって何か心を動かされるものだったとしても、人には共感されないですから。

私が常に考え続けるようになったのは、幼児期にカリフォルニアで暮らしていたときのことがきっかけだと思います。当時住んでいた家の庭にカタツムリがいたので、かわいいと思って学校に持って行ったんですが、先生が「ギャーー」と叫ぶくらい驚き、激怒して捨てたんです。
あとで聞いてわかったのですが、カルフォルニアでは、カタツムリは寄生虫がいるため嫌われていて、日本でいうゴキブリのような存在なのだそうです。

このときの経験から、自分が直感的に感じた「好き」や「嫌い」ということすら、他の人には受け入れられないことがあるのだとわかりました。自分とはまったく違う道を歩んできた人と理解しあうにはどうしたらいいのか、たとえば「私がこれをかわいいと思うのはなぜなのか」と考える癖がついたように思います。

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(リーダー育成プログラム「ヤフーアカデミア」(※)を担当している伊藤。講演の後半で篠田さんと対談)

「考える」習慣をつけるには「そもそも」を考えてみる

たとえば「予算」について考えるとしたら「そもそも会社にとって、予算はどうして必要なんだっけ?」と解きほぐして考えて理解することで、他の人に説明ができるようになるんです。予算は人間古来のものではないので、たとえば「原始人には予算はいらないよね」くらいまでそもそもにさかのぼって考えます。
そこから解きほぐして、理解した上で周りにも説明すると「なるほどね」とわかってもらえることが多いので、何でも「そもそもこれって?」と考えてみる習慣をつけるのはオススメです。

極端かもしれませんが「これって原始人でもやることなの?」くらい「そもそも」に立ち返ってみるようにしています。
例えば、時間の単位を例に考えてみましょう。植物や動物も、日、月、年といったサイクルの中で進化してきました。人間も動物ですから、日、月、年のサイクルは原始人の頃からリズムとして備わっているはずです。でも、それ以外の単位、たとえば1週間、1時間となると、これは人間がいまの社会のなかで勝手に作ったサイクルで、動物としては無理があるな、と考えられるんですね。スケジュールをたててこれを3日でやる、5日でやる、などは、本能ではなく知性の部分で対応しているわけです。

そう考えると、職場で時間の使い方について話すときは「朝はちゃんと起きて会社に来てね」くらいまでは言えますが、全員に共通言語になり得るのはそのレベル。1時間、1週間の使い方は共通言語にはならないという前提で考えた方がよいということがわかるんです。

これからの10年の過ごし方

まず「ほぼ日」でやりたいことを実現したいですし、CFOの仕事以外では、「ほぼ日」の海外展開に携わりたい。そして、糸井のような強烈な個性がつくった会社で、社長がいなくなったらその会社がどうなるのかを見とどけたいですね。今考えている仮説の中の1つか2つでもいいから、結果がどうなったのかを見たい。

そして、年を取ってもみんなから気軽に「これ見てください!」と持ってきてもらえるような、若い人たちに自由に遊んでもらえる環境をつくれる存在でいたいと思っています。

「ほぼ日」CFOの篠田さん

(※)Yahoo!アカデミアは「次世代リーダーの創出」を目的とする企業内大学として、2014年4月に設立されました。「自立」をテーマに、全ての受講者が人々や社会をリードする「人財」になることを目指しています。ヤフーの現経営層である執行役員が各クラスのメンターとなり、受講者と真剣に向き合い、直接指導・支援するのが特徴です。

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